北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定

ドナルド・トランプ

トランプ政権は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を9年ぶりに「テロ支援国家」に指定。これを評価する声がある一方で逆効果だという声もあり、見方が分かれています。北朝鮮の強い反発が予想され、年内にもミサイル発射など新たな挑発に出るおそれも指摘されています。

トランプ大統領は20日、ホワイトハウスで開かれた閣議で再指定について発表。「北朝鮮は、世界を核で破滅に陥れると脅迫するだけでなく、外国での暗殺を含む国際テロ活動を繰り返し支援してきた」と述べて北朝鮮を強く非難しました。

アメリカは国際的なテロを繰り返し支援している国を「テロ支援国家」と定めています。指定されるとアメリカの制裁措置の対象になります。
具体的には、▼アメリカからの武器関連の輸出や販売を禁止、▼軍事力やテロの支援能力を著しく向上させる可能性がある物やサービスの輸出や提供を制限、▼アメリカからの経済援助が禁止されるほか、さまざまな金融面などでの規制も科されます。

一方、北朝鮮には、核・ミサイル開発を受けてすでに多くの制裁が科されているため、再指定は、象徴的な意味合いが強いとの見方も出ています。

「テロ支援国家」再指定の経緯は

大韓航空機爆破事件

<1988年>

アメリカ政府が北朝鮮を「テロ支援国家」に指定 1987年に起きた大韓航空機爆破事件などを受けた措置

<2008年>

当時のブッシュ政権が指定を解除 核開発問題をめぐって北朝鮮が核施設を無能力化することなどを条件に各国がエネルギー支援を行うことで合意

<2017年2月>

キム・ジョンナム(金正男)氏がマレーシアで殺害

キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の兄のキム・ジョンナム(金正男)氏がマレーシアで殺害される

<2017年6月>

北朝鮮に1年以上拘束された後、解放されたアメリカ人の大学生が脳に重い障害を負って死亡

「テロ支援国家」に指定された国は

「テロ支援国家」に指定された国

アメリカ政府は国際的なテロを繰り返し支援している国を指定 シリア、イラン、スーダン、北朝鮮の4か国

北朝鮮に対する効果は?

西河記者

ワシントン支局の西河記者が指摘するポイントは

▼今回の再指定は「経済制裁などの具体的な効果」というよりは、「象徴的な意味合い」が強いと言えそう。「テロ支援国家」に指定されると、アメリカの制裁措置の対象となるが、北朝鮮にはすでに核・ミサイル開発を受けて多くの制裁が科されていて、再指定そのものの経済的な効果は大きくないという見方が大半。むしろ「北朝鮮は非道なテロ支援国家だ」と世界に改めて訴える政治的な狙いが透けて見える。北朝鮮に対する圧力の強化については各国の間で依然として温度差があるため、トランプ大統領としては今回の指定を機に、国際社会が結束して北朝鮮包囲網を狭めるよう呼びかけていく考え。

▼北朝鮮が強く反発することは間違いない。アメリカは、北朝鮮がふたたび挑発行為に踏み切る可能性もあると見て警戒を強めている。それでも今回の決定に踏み切った背景には「北朝鮮を非核化に向けた交渉のテーブルにつかせる」という狙いを優先したということ。そのためには、北朝鮮に挑発行為を起こさせないことよりも、北朝鮮に対する圧力を最大限強める姿勢を改めて鮮明に打ち出し、国際社会にアピールする方が得策だと判断したとみられる。

北朝鮮はどう出るのか?

高野デスク

国際部の高野デスクが指摘するポイントは

▼テロ支援国家への指定は、プライドの高い北朝鮮にとって“メンツ”に関わる問題。
北朝鮮としては到底、受け入れられず。この2か月余り北朝鮮は、中国共産党大会や米中首脳会談、そして中国の特使訪問など一連の動きを見極めようと、軍事挑発を「自制」してきた側面がある。「待った結果がテロ支援国家への再指定なのか」という憤りが、北朝鮮指導部にあるだろうということは想像に難くない。

北朝鮮の軍事パレード

▼「テロ支援国家」への再指定を口実として、新たな弾道ミサイルの発射などの挑発に踏み切るおそれがある。12月17日のキム・ジョンイル(金正日)総書記の命日や、キム委員長が軍の最高司令官に就任した記念の日である12月30日に注目している。12月の記念日は、来年の建国70年に向けて軍内部の求心力を高め、みずからの権威づけを図るうえで極めて重要な節目。

▼北朝鮮は、ICBM級の「火星14型」を初めて通常軌道で発射し、大気圏への再突入技術の確立を証明する必要に迫られている。北朝鮮にとっても時間はない。黙っていると国際社会による経済制裁が効いてくる。経済制裁によるダメージが強まる前に、1日も早くICBMの完成にこぎ着けたいというのが本音だろう。

アメリカの識者はどうみる?

北朝鮮の資金源を断つ圧力強化に

クリングナー氏
保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のクリングナー上級研究員(かつてCIAで北朝鮮分析を担当)

アメリカによる「テロ支援国家」の指定は、北朝鮮の資金源を断つための国際的な圧力の強化につながる。指定によって、北朝鮮と合法的に取り引きしている企業や個人に対しても「犯罪国家に関係しているとみなされたいのか」と問うことができる。国連やアメリカによる 制裁の対象者だけでなく、北朝鮮と合法的に取り引きをしている人たちにも影響を与えることになり、北朝鮮に対する圧力を強化する国際的な取り組みを後押しする。

今後の交渉にとって障害となるか

リサ・コリンズ研究員
シンクタンク「CSIS=戦略国際問題研究所」コリンズ研究員

アメリカはすでに北朝鮮に多くの制裁を科しており、経済制裁上は直接的な効果は大きくないだろう。再指定は象徴的な意味合いが強い。北朝鮮の非核化や核兵器開発プログラムの放棄に向けて交渉の場に北朝鮮を引き戻すため、圧力を強化するという政治的な理由が大きい。再指定によって北朝鮮側が腹を立て、ミサイル実験や核実験に踏み切ることもあり得る。そうなれば、今後の交渉にとって障害となる可能性もある。

米財務省 中国企業などに制裁

ムニューシン
ムニューシン財務長官

トランプ政権は21日、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の外貨獲得に関わったとして中国企業などに制裁を科すと発表。北朝鮮の資金源を断つとともに、中国にいっそうの行動を促す狙いもあるとみられます。

アメリカ財務省は、北朝鮮の外貨獲得に関わったとして、中国企業など13の団体と中国人経営者1人に対し、アメリカ国内の資産を凍結する制裁のリストに追加したと発表。中には、▼ことし8月までの4年間に北朝鮮との間で、日本円でおよそ840億円相当の石炭や鉄鉱石、それにパソコンなどの取り引きを行ったとする中国企業3社や、▼大量破壊兵器に関わる北朝鮮の組織とつながる企業と関係があるとする中国企業が含まれています。

また、国連安全保障理事会の制裁決議で禁じられている、海上での石油などの受け渡しを行っているとして北朝鮮船籍の20隻の船も制裁の対象となりました。

今回の発表は、20日の北朝鮮のテロ支援国家の再指定に続くもので、ムニューシン財務長官は声明で「北朝鮮に対して経済的な圧力を最大化し、資金源を断つ決意は不動だ」と強調しました。