どうなる? トランプ・安倍会談

就任後、初めて日本を訪れるトランプ大統領。今回の日本訪問で何に注目すべきか。日米関係に詳しいアメリカの政治学者、コロンビア大学のジェラルド・カーチス名誉教授に展望してもらいました。
(国際部デスク 久米井彩子)

英語は以下のリンクで

3つの柱

トランプ大統領の訪日の狙いには、3つの柱があるとカーチス氏は言います。

1、日本との同盟関係と、安倍総理大臣との親密な関係を再確認すること

2、経済分野の課題、日米2国間の貿易交渉について議論すること

3、北朝鮮に対して、日本との強固な団結姿勢を見せること

そのうえでカーチス氏は、「今回の訪日は“成功”ありきで、サプライズはないだろう」とみています。3つの柱について詳しく聞きました。

安倍首相とトランプ大統領

まずは、安倍総理大臣との関係についてカーチス氏は次のように述べました。

「安倍総理大臣は、トランプ大統領の信頼を得ていると思う。良い関係を築いている。トランプ大統領は、この関係に感謝しているのではないか。日本以外の同盟国とはぎくしゃくしているが、安倍総理大臣は“バディー”、親しい友人だから。トランプ大統領は、ほかの同盟国のリーダーたちから批判を受けているだけでなく、その国の国民からも批判を受けている。
しかし、日本は違う。日本の国民は、アメリカといかに強い関係を維持できるか気にしている。トランプ大統領を日本に招くことに異論はなく、逆に良好な関係が維持できていると胸をなで下ろしている」

「衝動的で予測不可能なトランプ大統領とうまくつきあっている安倍総理大臣は、評価に値すると思う。安倍総理大臣は、トランプ大統領を批判していないし、批判もされない。ただ、安倍総理大臣は、真正面からは批判こそしないものの、トランプ大統領が賛同していないことを進めている。例えば、11か国で進めているTPP=環太平洋パートナーシップ協定やEU=ヨーロッパ連合とのEPA=経済連携協定、ASEAN=東南アジア諸国連合の国々との自由貿易の促進などがある。
つまり、トランプ大統領は2国間貿易を支持しているのに対して、安倍総理大臣は多国間の貿易や投資を進めていて、ある意味正反対のことを巧みに進めようとしている。これは評価してもいいと思う。トランプ大統領は、これに気づいていないわけではない。多国間貿易は、日本の利益にかなう。トランプ大統領は、いわゆる『リベラルな国際秩序』をなくそうとしているが、これを守ることに、日本が立て役者的な役割と果たすことには、世界的に意義があると思う。安倍総理大臣は、トランプ大統領の支持を得ながら、多国間の交渉も進めていて、アジア地域や国際社会において、良い役割を見つけたと思う」

日本の発展の鍵は中国

1年前、トランプ大統領が選挙で当選したことを受けて、カーチス氏は私の取材に対し、安倍総理大臣は、アジア地域をけん引していくリーダーになり得るかもしれないと語っていました。1年後の今もそう思っているか、尋ねました。

「1年前に感じていたポジティブな見方は、今はない。それは日本の関心と、トランプ政権の政策があまりにもかけ離れているためだ。日本は、アジアのリーダーになることはできるだろうが、アジアにおいてアメリカの代理を務めることはできないだろう。結局のところ、東アジアにおいて実権を握っているのは中国だ。このところは、緊張もやや和らぎ、流れはよい方向に向かっていると思うが、今後、日本にとって、鍵となるのは、中国ともっと良好な関係を築きあげられるかどうかだろう」

トランプ大統領は2国間FTAでどう出るか?

10月にワシントンで開催された2回目の日米経済対話で、ペンス副大統領は、改めて日米2国間のFTA=自由貿易協定に大きな関心を示しました。今回、トランプ大統領は果たして2国間FTAまで要求するか、関心が高まっています。カーチス氏は、トランプ大統領が、どのように経済分野の話を進めるか見極めるのは難しいと言います。

「麻生副総理とペンス副大統領を経済対話のトップに据え、問題を先送りできたことは、日本側のとても賢い戦略だった。トランプ大統領が、貿易問題でどれだけ強気に出るかは、来日しないとわからないが、少なくとも公には厳しい要求はしないだろう。トランプ大統領は安倍総理大臣と、日本と、今ある関係を維持しなければならない。だからこそ、2国間FTAの話し合いが進まないことに、フラストレーションを抱えることになるだろう」

どうする、北朝鮮問題?

そして、最大の関心とも言える北朝鮮情勢。アジア歴訪を前にトランプ大統領は、FOXテレビのインタビューで「われわれは、非常に大きな北朝鮮の問題を解決しなければならない。私が解決する」と述べ、核やミサイルの開発を続ける北朝鮮の問題の解決に向けて努力する考えを強調しました。
その北朝鮮問題をめぐって、カーチス氏は・・・。

「表向きは、日米が結束して北朝鮮に可能なかぎり厳しい制裁を科し、核兵器などの開発を断固として許さない姿勢を示すだろう。『すべての選択肢はテーブルの上にある』という表現は、現実的にありえる選択肢だと思うし、実際に行使するとしたら、残された時間は少ない。そして安倍総理大臣は、その判断は支持するだろう」

「北朝鮮問題をめぐり日本が何を言ったところで、あまり影響力はない。韓国の影響力はもっと低い。解決のカギはアメリカと中国、そしてある程度ロシアにある。私としては、今回の訪日の間に、安倍総理大臣が、北朝鮮への制裁の目的は北朝鮮を対話に同意させ、その対話こそが朝鮮半島のさまざまは課題を解決することにつながるのだというメッセージを、トランプ大統領に発信して欲しい」

「トランプ大統領は、北朝鮮がアメリカを核兵器で攻撃する能力の獲得を阻止するためであれば、武力行使もいとわないと、キム・ジョンウン(金正恩)」朝鮮労働党委員長に信じさせようと考えているのだとすれば、非常に危険だ。なぜなら北朝鮮は、すでに獲得した核兵器は手放さないからだ。キム委員長は、北朝鮮がアメリカを攻撃しないかぎり、北朝鮮は攻撃されないだろうともくろんでいるだろうし、アメリカは、北朝鮮が核兵器を開発しても、攻撃しないと思っている。アメリカが攻撃した場合、アジアで最も重要な同盟国、日本と韓国に対する報復が待っていることをアメリカ政府もわかっている。だからアジアでは、戦争が起きる危険性が日ごとに増しているのだ」

「もしもトランプ大統領の戦略が失敗すれば、核兵器保有国になることを認めることで抑止力を持たせるのか、あるいは行動に移さず張り子の虎になるか、どちらかだろう」

「私自身、トランプ大統領が進める北朝鮮への制裁には反対していない。この25年間、北朝鮮に対する政策は機能しなかったといったトランプ大統領の発言は正しいと思うし、オバマ前政権の8年間の“戦略的忍耐”は、北朝鮮が核開発を進める“フリーカード”になってしまい、北朝鮮は何の痛みも伴わなかった」

太平洋開戦を教訓に…

カーチス氏に長い時間にわたってお話をうかがいましたが、その大半が北朝鮮に関する問題についてでした。締めくくりも北朝鮮に関する次のような警告でした。

「太平洋戦争の歴史は語る。1941年にアメリカは、日本を中国への侵略から手を引かせるために制裁を強めた。その結果、日本は“窒息”して滅びることより、真珠湾を攻撃することを選択した。日本は、そうすることでアメリカは、何かしらの和平交渉に応じてくれるだろうとの期待を抱いていたかもしれないが、逆に広島と長崎に原爆が投下され、無条件の降伏を余儀なくされてしまった。この歴史的教訓は、今の北朝鮮情勢にも通じている。北朝鮮も、当時の日本と同じようなやり方で反応をするかもしれず、アメリカの同盟国に対して、何かしらの軍事行動をしかけることで、アメリカを交渉の場に引きずり出せると考えるかもしれない。ただ、これは大惨事への処方箋でしかない」

久米井彩子

国際部

久米井彩子 デスク

アメリカ担当デスク

ニューヨークで特派員を経験