対北朝鮮 どう出るトランプ政権

国際社会に非難されながらも核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に、トランプ政権はどう対処していくのでしょうか。トランプ政権の基本スタンスは何か? 武力行使の可能性はあるのか? また、アメリカが北朝鮮の核保有を認める可能性はあるのか? 1つ1つ読み解いていきます。

「平和的な圧力」が基本

資金源根絶し開発阻止狙う

トランプ政権の基本スタンスは、北朝鮮に対し、外交と経済の両面からあくまで「平和的な圧力」を強め、資金源を遮断することで核・ミサイル開発を阻止しようというものです。

ただ、北朝鮮はこれを無視する形で核実験と弾道ミサイルの発射を繰り返しており、北朝鮮は早ければ来年にも核弾頭の小型化を果たし、アメリカ大陸を射程に収めるICBM=大陸間弾道ミサイルを実戦配備するという見方も出ています。

このため、アメリカにとって自国が北朝鮮の核ミサイルの射程に収められるという、容認しがたい状況が生じるのは時間の問題とみられ、「全ての選択肢はテーブルの上にある」と軍事的選択肢をちらつかせて強くけん制しています。

マティス国防長官は、北朝鮮がアメリカや同盟国の日本や韓国に脅威を与えた場合、北朝鮮は「大規模な反撃に見舞われることになる」と述べ 北朝鮮のさらなる挑発を強くけん制したほか、外交による解決に失敗すれば「軍事的な選択肢しかなくなる」と警告しました。

対話に向けた柔軟姿勢も

一方で、ティラーソン国務長官とマティス国防長官は連名でアメリカの新聞に寄稿し、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発行為をただちに停止すれば、交渉する用意があると明言しました。

さらにティラーソン長官は、ことし8月に行った就任半年の記者会見で、アメリカは北朝鮮の体制の転換にも政権の転覆にも関心がなく、北朝鮮と韓国の統一を追求するつもりもなければ、アメリカ軍を38度線の北側に送り込むつもりもないと強調し、北朝鮮が非核化に向けて踏み出しさえすれば対話に応じる姿勢を示し、決断を迫りました。

背景には、アメリカが軍事力を行使すれば、北朝鮮軍の反撃を招き、戦争状態に突入することは避けられないと見ていることがあります。このためアメリカとしては、北朝鮮との結びつきが強い中国やロシアに粘り強く協力を働きかけながら、事態打開の糸口を探っていく以外に有効な手立てがないのが実情です。

「平和的な圧力」 矛先は中国にも

トランプ政権の基本スタンスである、北朝鮮への「平和的な圧力」の強化。その矛先は、北朝鮮の最大の貿易相手国である中国にも向けられています。アメリカは、中国が北朝鮮に石油を供給し、北朝鮮企業の中国国内での活動を容認しているかぎりは、北朝鮮による核・ミサイル開発を止められないと考えているからです。

圧力強化の中核は安保理制裁

圧力強化の中核に位置づけているのが、国連の安全保障理事会決議を通じた制裁です。安保理は北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を断つことを目指し、9回にわたり制裁決議を採択しています。

ことし8月には、北朝鮮の石炭や鉄鉱石、海産物などの輸出に、上限や例外を設けることなく、一切、禁止する制裁決議を全会一致で採択していて、アメリカは「北朝鮮に対する、過去最大の経済制裁だ」と強調しました。

そして、北朝鮮の6回目の核実験を受けて9月11日には、北朝鮮へのガソリンや灯油などの石油精製品の輸出量に、来年以降、年間200万バレルを上限とする新たな規制を盛り込んだ制裁決議を採択しました。

アメリカ単独の制裁措置も

アメリカが安保理決議とともに重視しているのが、アメリカ単独の制裁です。アメリカ政府は去年12月、海外に労働者を派遣して外貨を稼いでいた北朝鮮の国営企業4社と、国営のコリョ航空など、合わせて16の団体と7人の個人を独自の制裁リストに加えました。

さらにことし9月、トランプ大統領は、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を遮断するため、アメリカ財務省の権限をさらに拡大させる大統領令に署名。北朝鮮に出入りした船舶や航空機、北朝鮮国内で建設業や漁業などに従事する個人も制裁対象とすることを可能にしました。安保理決議に盛り込めなかった分野を単独制裁でカバーすることで、中国やロシアなどに、さらなる協力を迫る狙いがあるとみられています。

アメリカの友好国による対抗措置

ペンス副大統領は8月に中南米を訪れた際、メキシコ、ペルー、ブラジル、チリの4か国を名指して北朝鮮との外交や貿易関係を絶つよう呼びかけました。ティラーソン国務長官も、東南アジア諸国などに同様の働きかけを繰り返しました。

その結果、9月には、メキシコやペルーが北朝鮮大使の国外追放を発表したほか、スペインも北朝鮮の外交官の退去処分を発表。表向きは発表しなくとも、すでに北朝鮮との外交・経済関係を縮小させる措置を取った国は複数あるとされ、こうしたアメリカの友好国による「対抗措置」が徐々に効果を挙げているという見方もあります。

ちらつかせる軍事オプション

武力行使の可能性はどれだけ?

トランプ大統領は外交による事態の打開を最優先とする一方、「第2の選択肢」として、北朝鮮に対する軍事的な選択肢も排除しない姿勢を示しています。

ただ、韓国メディアによりますと、北朝鮮は韓国との軍事境界線の近くに、口径170ミリの自走砲や口径240ミリと300ミリの多連装ロケット砲を合わせて300門以上配備しているとされ、これらは韓国の首都ソウルの都市圏を射程に収めているとみられます。

韓国には在韓米軍の家族など、合わせておよそ10万人のアメリカ人も住んでいます。
仮に、アメリカが北朝鮮に対する軍事行動に踏み切った場合、それが限定的な攻撃であったとしても、北朝鮮軍は即座に報復攻撃に踏み切り、ソウルを中心に甚大な被害が出ると予想されています。
さらに、アメリカの同盟国の日本も弾道ミサイルによって攻撃される恐れがあり、軍人だけでなく一般市民にも多くの死傷者が出る恐れがあります。

このためトランプ政権は、アメリカ本土が直接攻撃されないかぎり、軍事オプションを取る可能性は低いとみられています。
ただ、アメリカは、口先だけで軍事行動の可能性をちらつかせているわけではありません。アメリカが「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言って、北朝鮮に核・ミサイル開発を踏みとどまらせようとしている裏には、以下のような、西太平洋地域に実際に存在する軍事力があります。

B1爆撃機 バンカーバスターも

グアムのアンダーセン空軍基地には、B1爆撃機が配備されています。B1爆撃機は、敵の防空レーダーが捉えにくい低空を超音速で飛行することで、領空に入り込むことができるのが特徴で、北朝鮮がもっとも警戒している兵器だとされます。

B1爆撃機は、厚いコンクリートや地表を貫通して地下施設を爆撃できる「バンカーバスター」と呼ばれる爆弾を搭載することができ、北朝鮮の地下にあるとされる軍の司令部などの重要施設を攻撃することも可能だと見られています。

巡航ミサイルによる精密爆撃も

地上施設に対する精密爆撃に使用できる巡航ミサイル「トマホーク」も配備しています。巡航ミサイルを発射できるのは、朝鮮半島周辺に展開可能なイージス艦や、アメリカ海軍最大のオハイオ級原子力潜水艦などの艦船です。

オハイオ級原子力潜水艦は、1000キロ以上離れた目標を正確にとらえる「トマホーク」を150発以上搭載することができることから、いざとなれば、韓国との軍事境界線の付近に展開する北朝鮮の砲兵部隊を集中的に爆撃することができるとされています。

さらに北朝鮮のレーダー設備や防空施設に爆撃を加え、防空能力を無力化することで制空権を掌握し、北朝鮮の反撃を封じる作戦にも使用される可能性が指摘されています。

サイバー攻撃

作戦時には、北朝鮮の防空能力を弱めるためにサイバー攻撃を仕掛ける能力を有しています。さらに敵の通信やレーダーを妨害する能力に優れたEA18電子戦機を朝鮮半島周辺に展開させたアメリカ軍の空母から派遣し、B1爆撃機とともに飛行させることも可能です。

空母打撃群による攻撃

北朝鮮が制空権を掌握されても反撃を続ける場合、アメリカは周辺に展開した複数の空母から1隻あたり70機前後の艦載機を投入して、北朝鮮の軍事施設を中心に徹底的な爆撃を加える能力もあります。

北朝鮮の核保有 認める?認めない?

北朝鮮の核保有 断固認めず

北朝鮮が核開発を進める最大の目的は、アメリカから体制の保証を得ることにあります。北朝鮮は長年、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換し、アメリカに体制を認めさせることを目標としているのです。そのためには、何としても核兵器を保有しなければならないと考えているようです。

しかし、トランプ大統領は、北朝鮮の核保有を断固認めない姿勢です。また、北朝鮮に地理的に近く、弾道ミサイルの射程圏内にある日本にとっても、北朝鮮の核保有を容認することは断じて出来ません。

「認めざるをえない」という声も

しかし、北朝鮮が核・ミサイル開発を急ピッチで進める今、すでに事実上の核兵器保有国だと認めざるを得ないという声が、アメリカ国内の特に野党・民主党系の有力者から出始めています。

オバマ政権のもと、ホワイトハウスで安全保障問題を担当したライス前大統領補佐官はことし8月、アメリカの有力紙「ニューヨークタイムズ」に寄稿し、「必要とあらば、北朝鮮の核武装を容認することも必要だろう。そのうえで核の使用を抑制させ、アメリカの防衛力を高めるべきだ」と主張しました。

仮に、北朝鮮を核保有国として認める場合、核保有国としての責任をきちんと果たしているのか、核監視体制の強化が欠かせなくなります。核保有国は、NPT=核拡散防止条約のもとで核軍縮を進める特別な責任を負っています。

また、北朝鮮を核保有国として認めれば、アメリカはみずからの抑止力に効果がなかったことを認めるに等しく、国際社会からの信頼を失うことは避けられそうにありません。

核廃棄を前提とせず対話の可能性は?

北朝鮮と、非核化を前提とせずに対話を進めるべきだという意見もあります。ペリー元国防長官など、北朝鮮の核問題に関わってきたアメリカ政府の元閣僚や高官らはことし6月、トランプ大統領に書簡を送り、「制裁だけでは問題は解決しない」として北朝鮮の核・ミサイル開発を食い止めるためには、まず非核化を前提条件とせずに対話に早く乗り出すべきだと訴えました。

これについて、東アジアの安全保障に詳しい神奈川大学法学部の佐橋亮教授は「これは、今すぐに非核化を実現することが難しいため、いったん核保有の問題を棚上げすることで、核実験やミサイル発射をやめさせ、緊張緩和を図ろうという考えだ。しかし、結果的に北朝鮮の核保有を認めることになりかねない」と指摘しました。