衝突するアメリカ社会

トランプ大統領の登場で勢いを増す白人至上主義者たち。これに反発するグループとの対立がエスカレートしています。双方の衝突事件をめぐるトランプ大統領の発言が波紋を広げ、政権運営に影を落とす事態にも発展。今アメリカで何が起きているのか取材しました。(ワシントン支局記者 広内仁)

衝突事件で死者

先月12日、アメリカ南部バージニア州のシャーロッツビルで、白人至上主義や極右思想を掲げるグループと、これに抗議する市民グループが激しく衝突。15人がけがをしたほか、市民グループに車が突っ込み、女性1人が死亡し、19人がけがをしました。車を運転していたのは20歳の白人至上主義者の男でした。

勢い増す白人至上主義者

アメリカでは、トランプ大統領の登場で、白人至上主義者が活動を活発化させています。
人種差別を肯定し、反社会的だとされ、これまで隠れるようにしてきた人々が人種差別をも表現の自由だと公然と主張。中には集会を開き、ナチス式の敬礼で、トランプ大統領を礼賛する人たちもいます。
白人の権利拡大を訴えてきた男性は、インタビューに対し、「白人がこの国を作ったのに、常に憎まれてきた。これ以上我慢できない。われわれは、ほかの人種のせいで不利益を被りたくない」と主張しました。

アメリカでは平等を重んじるあまり、マイノリティーが優遇され、白人の権利が軽視されていると感じていると言います。

抗議活動も活発に

一方、白人至上主義者に対抗する動きも勢いを増しています。毎週のように全米各地でデモが行われ、参加者は人種や世代を問わず幅広い層に広がっています。

西部カリフォルニア州でデモの開催を呼びかけたイベット・フェラルカさんに話を聞きました。中学校の教師をしているフェラルカさんは、若い頃から人種問題に関心がありました。白人至上主義者の台頭で、アメリカが重んじてきたはずの平等や多様性という価値観が揺らいでいると感じています。

フェラルカさんは「トランプ大統領が出てきてからというもの、白人至上主義者が自信を持ち、危険はどんどん高まっている。トランプ大統領は人種差別や移民の排斥を助長している」と主張しました。去年、デモのさなか、白人至上主義者にナイフで切りつけられたフェラルカさんは過激化する相手に、より強く対抗していく考えです。

増える「アンティファ」

白人至上主義の集会が予定されると、突然、数百人規模で現れる黒い服の集団がいます。危機感を強める人たちの中から現れた過激な行動に走るグループです。

その名は、アンチ・ファシズムを意味する「アンティファ」。敵と見なせば、「お前に権利などない。ナチは家に帰れ」などと激しい罵声を浴びせ、暴力もいといません。彼らにとっては、トランプ支持者も白人至上主義者と同じで、攻撃の対象です。実態はほとんど明らかになっていませんが、アンティファは、この1年ほどで、若い世代を取り込みながら、急速に増えていると言います。

白人至上主義者の報復を恐れ、顔は出せないということでしたが、今回、活動の中枢にいる人物が取材に応じました。

その人物は「歴史上、市民はファシズムや人種差別に抵抗したからこそ、勝利してきた。暴力を振るう白人至上主義者には暴力で対抗するしかない」と主張しました。彼らは全米でおよそ20のグループと連携し、ソーシャルネットワークなども使い、実力行使の必要性を訴えていると言います。

銅像撤去が争点に

異なる意見に対する寛容さを失いつつあるアメリカでは、今、歴史への認識までも争点になっています。南北戦争当時、奴隷制度の存続を主張する南軍を率いたリー将軍の銅像。

これが「人種差別の象徴だ」として撤去を求めるグループと、「白人の英雄だ」として撤去を阻止しようとするグループが衝突を繰り返しているのです。
先月、バージニア州で起きた衝突事件も、銅像の撤去計画が発端でした。南北戦争の南軍に由来する銅像やモニュメントは全米に700以上。各地で撤去計画が持ち上がり衝突の火種となっています。銅像をめぐって町が分断されるのではないか、アメリカ市民の間に不安が広がっています。

波紋広げるトランプ発言

バージニア州で起きた衝突事件をめぐっては、トランプ大統領の発言が波紋を広げました。トランプ大統領は、当初、「憎悪と偏見、暴力を非難する」と述べましたが、白人至上主義を明確に非難しなかったため、人種差別への問題意識が十分ではないなどと反発が広がりました。

これを踏まえ、トランプ大統領は、事件の2日後、白人至上主義団体のKKK=クー・クラックス・クランや、ネオナチを名指しして批判。しかし、その翌日には、「一方のグループは悪かったが、もう一方のグループも非常に暴力的だった。誰も言いたがらないが、私は言う」と述べ、抗議していた市民グループについても非難しました。そして「双方に責任がある。間違いない」と主張。これに対し、「白人至上主義者を擁護するのか」などと批判が巻き起こったのです。

辞任ドミノ

トランプ大統領の発言に抗議し、大手半導体メーカーのインテルのCEOなど大企業の経営者らが、大統領の助言役を次々と辞任。トランプ大統領が経済政策の助言を受けるため、肝いりで立ち上げた「製造業評議会」と「戦略・政策フォーラム」は、辞任するメンバーが相次いだため、解散に追い込まれました。
さらに、芸術など文化面で助言を行う別の機関のメンバーがトランプ大統領に連名で書簡を送り、一斉に辞任すると伝えるなど、いわゆる「辞任ドミノ」が起きたのです。

批判にさらされる与党

さらに、与党・共和党の議員も有権者から厳しい批判にさらされました。トランプ大統領を支える共和党のピテンジャー下院議員が、議会の夏休み中に、地元の南部ノースカロライナ州で開いた対話集会を取材しました。

集会では、参加者から「トランプ大統領は人種差別的な行動をとる人々を擁護した。あなたは大統領の発言を擁護するのか?」といった厳しい質問が相次ぎました。
これに対し、ピテンジャー議員は「私は白人至上主義者やKKKを非難してきた。大統領が非難しなかったというのは誤解だ。彼は非難した」などと釈明に追われました。

しかし、参加者からは、ブーイングが起こるなど、集会は険悪な雰囲気に。このあと、質問した女性に聞いたところ「議員の説明には納得できない。はっきり『トランプ大統領は間違っている』と言うべきだ」と話していました。

与党議員も距離

強まる批判に押され、共和党内でも、トランプ大統領と距離を置く議員が増えています。アメリカの保守系のメディアでさえ、トランプ大統領の発言を擁護する議員は見つけられないと言うほどです。

世論調査では、共和党支持層のおよそ7割が、大統領の発言を支持していますが、発言を擁護すれば、有力なユダヤ系団体などから人種差別を容認していると受け止められかねない危険があります。

それだけに、この発言には触れたくないというのが本音で、対話集会を中止した共和党議員も多いと言われています。トランプ大統領を支持してきたコーカー上院外交委員長も、「大統領は不安定で、能力があると示せていない。何か抜本的な変化が必要だ」と述べ、公然と批判しました。

政権運営に影

これに対し、トランプ大統領は、ツイッターなどで反論。身内である与党議員への攻撃を強め、亀裂を深めています。
ワシントンにあるシンクタンクのブルッキングス研究所のジョン・ヒューダック上級研究員はインタビューに対し「トランプ大統領と議会の関係は夏休みの間にさらに悪化した。大統領の前には困難が待ち受けている」と話していました。

アメリカ議会は、今月5日から審議を再開しました。しかし、今回の衝突事件をめぐる発言で、孤立したトランプ大統領。企業経営者などと実効性のある経済政策を立案し、議会で共和党の協力を得て必要な法案を可決して支持者への公約を実現するという思惑には、水が差された形で、政権運営に影を落としています。

広内仁

ワシントン支局記者

広内仁

平成9年入局

横浜局をへて政治部

4年前からワシントンでホワイトハウスなどを担当