年齢を感じさせない力
杉浦選手は、3日に行われた自転車の女子個人ロードレース運動機能障害のクラスで、今大会2つめの金メダルを獲得。3日前のロードタイムトライアルでみずからがつくった日本選手のパラリンピックでの金メダル獲得の最年長記録を更新しました。
「私が50歳というのはみんなわかっているから、もう年齢のことは言わなくていいからね」
茶目っ気たっぷりの笑顔で答えました。とはいえメダルを争ったライバルたちの年齢を見ると銀メダルを獲得したスウェーデンのアンナ・ベック選手は41歳で年齢は近いものの9歳下。銅メダルを獲得したオーストラリアのペイジ・グレコ選手は24歳、わずかの差で4位となりメダルを逃した中国の王小梅選手も21歳と30歳近く若い選手です。
そうした顔ぶれの中でも2つの金メダルを獲得した杉浦選手。
大会の1年延期を追い風にしてパワーをつけることができたと勝因を話しましたが、ふだんからの前向きな姿勢も大きな原動力となりました。
「ゴールの向こうには栄光が待っている」
「きょうは年齢は忘れた」
「最年少記録は2度と作れないけど最年長記録は作れる」
レースで力を使い果たし、その場に倒れるほどになっても大きな瞳を輝かせて彼女が発する言葉には年齢を感じさせない力があります。
恐怖心はねのけ“楽しみ”に
2人の子どもを育てる母親でもある杉浦選手、趣味のトライアスロンを続けていた5年前、自転車のレースで転倒し記憶力などが低下する「高次脳機能障害」と右半身のまひが残りました。
事故のあと1週間の記憶がなく、退院する時に医者から「もう自転車には乗れない」と告げられましたが、リハビリのために再び自転車に乗ると奇跡的な回復を遂げました。
恐怖心を少しずつはねのけ、“楽しみ”に変えてきたと言います。
「障害や年齢に関係なく成長できることを証明したい」
よくとしの2017年からはパラ選手として本格的に競技に取り組み始めました。トライアスロンで鍛えた持久力を武器に、ロードの世界選手権は2年連続で優勝。2018年には国際競技団体からその年に最も活躍した選手に選ばれるなど成績を残しパラリンピック出場という新たな夢につなげたのです。
伝えたいメッセージ
パラリンピックで日本最年長の金メダリストになった杉浦選手。挑戦を続けるみずからの姿をとおして伝えたいメッセージがあると言います。
「どん底に落とされてもまた登ることができる。そこから新しく歩む道はある。私を見て運動しようと思ってくれたら、健康寿命が伸びて80歳になっても『体は20歳です』という日本人がいっぱい増えてくれたらうれしい」
杉浦選手は、今後は自転車だけでなく趣味だったトライアスロンにも再挑戦したいと、とどまることのない意欲も見せました。これからも力強いメッセージを発信し続けます。