オリンピック サッカー男子 痛感した世界トップとの差

東京オリンピック、サッカー男子の日本代表は3位決定戦に破れて4位に終わり、53年ぶりの銅メダル獲得はならなかった。2012年のロンドン大会に続いてベスト4まで進んだものの、世界のトップとの差を見せつけられた形になった。

目次

    最強メンバーで臨んだオリンピック

    3位決定戦でメキシコに臨む日本代表

    原則24歳以下で構成される東京オリンピックのサッカー男子は「史上最強」との呼び声が高いメンバーで臨んだ。冨安健洋や堂安律、それに久保建英など、海外の主要リーグで活躍し、年齢制限のない代表でも経験の豊富な若手がそろった。

    さらにオーバーエイジ枠には「短期決戦では簡単に失点しないことが重要になる」と森保監督はキャプテンの吉田麻也をはじめ、酒井宏樹、遠藤航という年齢制限のない代表で守備の要を担う3人を補強した。

    オーバーエイジ枠の選手をこれまでの大会よりも1か月以上早く合流させてチームとしての完成度を高め、本番前の強化試合でも一定の成績を収めるなど自国開催のオリンピックでの金メダルへ自信を深めていた。

    頭角現した守りの新戦力

    森保監督はオーバーエイジ枠の3人には「経験の浅い選手たちに成長を促してほしい」という期待もあった。その影響もあって、今大会で頭角を現した若手がいた。

    22歳の田中碧だ。ボランチとして遠藤とコンビを組み、すべての試合で先発出場した。

    田中は遠藤について「守備の予測の部分など学ぶべきものがたくさんある」と話しともに中盤で相手の攻撃を防いでは前線へ正確なパスを送り続け攻守でチームに欠かせない存在になった。

    さらに中山雄太は今大会、本職ではない左サイドバックで起用されたが右サイドバックの酒井にアドバイスをもらいながらプレーを続け、とくに守備面で安定した動きを見せた。

    そして、20歳のゴールキーパー、谷晃生は準々決勝でペナルティーキックを止めてヒーローになり、センターバックとして谷のすぐ近くでプレーする吉田は「大会を通してパフォーマンスが上がっている」と目を細めた。

    オーバーエイジ枠の3人と成長著しい若手がかみ合って準々決勝までの4試合で失点はわずか1。森保監督の狙い通りに堅い守りが光り、2大会ぶりのベスト4に駒を進めた。

    痛感させられた世界との差

    しかし、53年ぶりとなるメダル獲得が見えてきたところで世界の壁にぶつかった。

    初めての決勝進出を目指した準決勝のスペイン戦。世界の強豪に見せつけられたのは、ここいちばんでの決定力だった。

    圧倒的にボールを支配されながらも粘り強く無失点でしのぎ、延長戦に持ち込んだが、終了間際にスペイン1部リーグの強豪・レアルマドリードでプレーするマルコ・アセンシオにワンチャンスをものにされた。

    吉田は「よく耐えたが、最後にクオリティーの差が出た」と認めるしかなかった。

    さらに3位決定戦のメキシコ戦では相手よりボールを長く支配し、相手の2倍以上の19本のシュートを打ったものの結果として1対3。

    ここでも差を見せつけられた。

    森保監督

    「相手はのらりくらりしながらもチャンスと思えば集中してパワーをかけてきた」

    酒井宏樹選手

    「本当にあと1歩のところだけど、その1歩が大きい」

    攻撃の精度に難

    メダルをかけてより厳しい戦いが始まる準々決勝以降、3位決定戦までの3試合で日本の得点は「1」にとどまった。

    同じ3試合で見るとメキシコは「9」得点。さらにシュート全体を見てみるとメキシコは31本のうち、58%にあたる18本を枠の中に飛ばしていた。

    日本はメキシコを上回るシュート49本を打ちながら、枠の中に飛んだのは10本で全体の20%にとどまった。チャンスは作りながらその精度に大きな差が出ていた。

    誤算が選手層の薄さに

    大会の序盤は久保建英、堂安律の2枚看板が日本の攻撃をけん引した。予選リーグでは久保が3試合連続ゴールを決め、堂安も1ゴール、1アシストをマークして3連勝に貢献した。

    「個」で打開できる2人がここぞの場面でゴールを決め、長年の課題だった決定力不足が解消されるのではないかと期待も膨らんだ。

    しかし、その先が続かなかった。

    久保と堂安は代えがきかない選手として負担が重くなり、6試合の合計の出場時間は久保が525分、堂安が521分に上った。3位決定戦で敗れたメキシコの攻撃の中心選手に比べると50分近く長い。

    さらに森保監督が「相手が研究して2人をつぶしにきた。試合を追うごとにプレッシャーがきつくなった」と分析するように中2日の連戦で疲労が重なる中で相手のマークが集中し、本来の姿を徐々に失っていった。

    誤算もあった。

    「チームにとって痛かった」と森保監督が久保と堂安以外に攻撃の軸と期待した国内組の2人が大会直前にけがをして本調子ではなかったことを明かした。

    東京オリンピック世代のチームで最多得点をマークしたフォワードの上田綺世は6月下旬に足の付け根を痛め、大会直前の強化試合でようやくプレーを再開できる状態だった。

    緩急をつけたドリブルでJリーグで活躍する三笘薫は、6月から7月にかけてウズベキスタンで行われたアジアチャンピオンズリーグから帰国後、太ももに痛みを抱え、十分な練習を積むことができないまま大会本番に突入した。

    上田は大会を通して得点を奪えず、三笘も3位決定戦のメキシコ戦では途中出場し、得意のドリブルで相手の守備をほんろうして1点を奪ったが、遅かった。

    森保監督

    「三笘は先発で使うか途中出場でジョーカー的な存在になるはずだった。相手の脅威になる使い方ができれば戦い方も変わっていた」

    教訓をワールドカップへ

    ここから1か月もたたないうちに9月上旬からはワールドカップカタール大会の最終予選が始まる。

    53年ぶりのメダルを逃した悔しさは残った。だが、今大会で得た教訓をこれを次につなげる力にする。

    吉田はことばに力を込めた。

    吉田選手

    「ここがゴールではない。ここからカタールのワールドカップにどれだけの選手が食い込めるか。そのあとのワールドカップでどれだけの選手が主力になっていけるか。常に戦いは続く。立ち止まらずにやっていきたい」

    (スポーツニュース部 記者 武田善宏)

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