オリンピック 体操ニッポン 橋本と北園 飛躍を生んだ出会い

東京オリンピック、体操男子で日本は金メダル2つ、銀と銅を1つずつの合わせて4つのメダルを獲得。男子の日本代表の監督を務める水鳥寿思が「100点に近い」と評した結果は、19歳の橋本大輝と18歳の北園丈琉の活躍抜きに語れない。世界トップレベルの演技を見せた10代の2人は、日本の育成、強化策にそれぞれのある出会いが絡んで、生まれた。

目次

    “狭間の世代”の危機感 強化へ奔走

    東京オリンピックの開催が決まった2013年。前年から日本体操協会の男子強化本部長を務めていた水鳥は当時を振り返る。

    「開催が決まり、どうやれば東京で勝てるか考えた。長い目で見ると、2020年くらいにちょうど、狭間の世代になるのではないかという危機感があった」

    その頃、日本を支えていた内村航平や同世代の選手たちが、2020年には体操でベテランの域に達する30歳前後の年齢となる。
    東京オリンピックで日本は金メダルを獲得できるのか。
    水鳥はあらゆる強化策を探った。全国各地の体操クラブや体育館などを巡り、有望選手を間近で見てまわった。

    世界選手権やオリンピックを目指す日本代表の強化合宿にはジュニア世代の有力選手を呼び寄せて、上から下まで一体となった強化を目指した。

    「早くからジュニアの選手をシニアの合宿に呼んで、国内トップの内村選手から刺激をもらえる機会を増やしたりした。ジュニアの指導者たちも“この選手たちを東京で勝たせるんだ”という思いでやってくれた」

    独自の採点方式“より難しい技をより美しく”

    リオ五輪 体操男子団体総合で優勝した日本チーム

    2016年のリオデジャネイロオリンピック。絶対的エースの内村を筆頭に、白井健三などを揃えたメンバーで日本は金メダルを勝ち取った。しかし水鳥の危機感は続く。リオのメンバーが東京の主力になるとは限らないと感じていたからだ。

    「リオデジャネイロは国内のスター選手たちがそろっていた。東京こそ危機だ」

    不安は的中した。2018年の世界選手権、日本は中国とロシアに敗れ3位に終わった。

    リオデジャネイロオリンピック以降、技の出来栄えを表すEスコアの採点が厳しくなり、完成度の高さや姿勢の美しさなどがより求められるようになった。中国やロシアの選手たちはその時代の流れに沿うように美しい体操をめざし、日本を上回る完成度の高い演技をこなしていた。

    世界選手権の結果を受けて、水鳥たち体操協会の強化本部は、選手たちに単に美しさを求めるだけでなく、より難しい技をより美しくこなす必要があるとして、国内大会で技の難度の基準を設けて、それを下回ると減点される独自の採点方式をつくった。

    さらに若手の成長を促すため有望なジュニア世代の選手には、推薦枠をつくってトップレベルの大会に出場させる枠組みもつくった。そして、強化策が少しずつ実り始める。

    強化策続け見つけた1人の高校生

    中学時代の橋本選手(2015年)

    2019年1月、日本代表レベルの選手が集まった強化合宿。水鳥は、ここにもジュニア世代である中学生や高校生の選手を呼んだ。そこにある高校2年生の選手がいた。

    全国的には無名に近い存在だったが、水鳥は、その体操のスケールと手足の先まで伸びた美しい体操を評価していた。

    ことしの目標を尋ねた。

    「高校3冠です」

    水鳥は期待を込めてこう返した。

    「そうじゃない。世界選手権の代表を目指しなさい」

    その高校生こそ、橋本大輝だった。

    リオデジャネイロオリンピックをテレビで見ていた橋本。

    「夢のまた夢だよな」

    オリンピックを遠い世界の話だと思っていた当時、中学生の橋本は、体操の強豪校に進んでから徐々に力をつけ、ここで水鳥と出会った。水鳥の言葉に橋本は「自分の努力の先に日本代表があるなんて思っていなかった。自分も代表を目指していいんだ」と感じたという。

    高いモチベーションを与えられた橋本は圧倒的な練習量とたぐいまれな空中感覚で瞬く間に難度の高い技を覚え、さらに美しい姿勢の演技でトップ選手の仲間入り。その年の世界選手権代表にも選ばれた。

    橋本の成長は、その後も続いた。去年からことしにかけて、ゆかや鉄棒でG難度の大技を、跳馬で世界最高難度の技を次々と自分のものにしていく。それらの技を、ただこなすだけでなく、すぐに高い完成度に仕上げていく。より難しい技をより美しくこなす。

    リオデジャネイロオリンピック後、日本が目指してきた体操が具現化され、橋本は東京オリンピックで2つの金メダルを獲得した。

    ジュニア世代のエース北園

    高校生の途中まで無名に近かった橋本と対照的に、北園丈琉は中学生の頃から将来の日本を担うと期待されていた。2016年、代表クラスが顔を揃えた合宿にジュニア世代の選手の1人として中学生の北園も呼ばれた。そして憧れの内村と直接、対面する。

    内村は北園に熱心に鉄棒の技のアドバイスをした。当時、内村は「中学生がやる技ではないのだが、すごくかわいかったのですごく教えた」と冗談交じりに話したが、北園の演技に大きく光るものを見つけたからこそ熱心に指導したのだろう。

    内村のアドバイスを緊張した様子で聞いていた北園は、2年後のユースオリンピックで5つの金メダルを獲得。6種目を高いレベルでこなすオールラウンダーは「内村2世」とも呼ばれるようになり、2024年のパリオリンピックでエース級の選手にと期待されていたが、東京オリンピックの1年延期でチャンスがまわってきた。

    北園は「内村さんと一緒に東京オリンピックに出る」と、急成長で国内トップレベルの選手となり、去年の全日本選手権で2位に。

    しかし東京オリンピックの代表選考を兼ねたことし4月の全日本選手権では鉄棒で落下し、両ひじをけがして、代表入りが危ぶまれた。落ち込んでいた北園を救ったのは内村からもらった励ましの電話だった。

    「諦めなかったら、戻ってこれる。気持ちだけ強く持っとけよ、そういうことを言ってもらった」

    北園は心を立て直し、その後の2つの代表選考会をクリアしてオリンピックの切符をつかみ、日本の銀メダルに貢献にした。

    体操ニッポン、次の五輪へ

    今回の体操男子の結果を水鳥は「100点に近い」とした上で、「団体で金メダルを逃したのはすごく悔しいが、自分たちが、ここまで演技しよう、こういう態度で最後までやろうと思い描いたことができた」と納得の表情で述べた。

    そして橋本と北園について「これだけ若い選手がここまでもってこられたのは彼らのすごさ。18歳、19歳で成し遂げるには相当ハードなこと。これからパリへ向けて日本がより強くなっていくと確信している」と語った。

    もし水鳥が橋本に声を掛けなかったら。あるいは内村が北園にアドバイスをおくっていなければ。東京オリンピックの結果、そして体操ニッポンの未来は違っていたかもしれない。

    それぞれが偶然に出会い、今回の結果をもたらしたように見えるが、これらの出会いは地道な育成、強化策の延長にあるものだ。

    体操NHK杯の公式練習での北園選手(左)と橋本選手

    橋本は金メダルをとった後、「早く練習がしたい。パリまでの月日を逆算して1日もムダにせず過ごしていきたい」と語った。

    北園も最後の出場だった種目別の鉄棒で6位となったあと、「日本の頼れるエースにあと3年でなれるように練習をがんばりたい。パリでは必ず結果を出して恩返しをしたい」と話した。

    3年後のパリオリンピックへ、体操ニッポンの時はすでに動き始めている。

    (※選手の年齢は競技当時)

    (東京オリンピック取材班 記者 田谷亮平)

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