知恵と工夫でスポーツを止めない コロナ禍の奮闘

「スポーツの秋」。ここにも新型コロナウイルスの影響が及んでいます。トップアスリートだけでなく、むしろ深刻なのは「草の根」のスポーツ。東京オリンピック・パラリンピックの開催をきっかけに、スポーツに取り組む人を増やそうとしてきた国は、危機感を募らせ“異例”の対応をスタートさせました。そして現場では知恵と工夫で「スポーツを止めない」と奮闘が続いています。
(スポーツニュース部 記者 佐藤滋)

目次

    バラバラのスタート

    まず訪れたのは、大阪。秋晴れとなった10 月中旬に大阪市内の公園で開かれた市民マラソンの大会です。フルマラソンとハーフマラソンのスタート時間、午前9時になっても参加者がスタート地点に一斉に集まる、いつもの光景はありませんでした。
    参加者は、距離を取って、時間を空けて、バラバラにスタート。これが「ウィズコロナ時代」の新たな方式で行うこの大会の最大の特徴です。
    ICタグを体につけた参加者がスタート地点のマットの上を通るとセンサーが反応し、タイムの計測が始まります。一定の時間内に自由にスタートすることで「密」を避けるのが狙いです。
    多くの大会が中止や延期になる中で、開催された大会。密対策としてスタート時間をずらす取り組みにも「待たされる時間がない」とランナーの評判は上々です。
    何より「目標の場がある喜び」、「ほかのランナーと競い合う喜び」を口にしていました。

    消毒係にネット記録証

    感染予防の対策は、至る所で徹底されていました。
    この大会では駅伝のようにリレー方式で行われる種目もあります。
    つなぐのは、これまでの「たすき」ではなく「バトン」。接触を減らすのが狙いです。感染のリスクを下げるため、バトンも直接手渡すことはしません。いったん「消毒係」に渡され、しっかり消毒したあと次のランナーに渡されます。

    参加者とスタッフの接触の機会も極力減らしました。
    タイムや順位を記した紙の記録証の配布をやめ、速報記録はスマホで見られるように。記録証は後日、サイトに掲載されます。

    大会の仕掛け人は…

    大会の実行委員長、倉田敬太さん(61歳)。減量を目的に15年近く前に始めたマラソンに魅力を感じ「多くの人にもっと気軽に楽しんでもらいたい」と、経営コンサルタントの仕事のかたわら、大会を立ち上げました。

    「ランニングブーム」が続く中で参加者は順調に伸び、大会は全国に拡大。そうした中で直面したのが、新型コロナウイルスでした。
    ことしは予定していた半数にあたる15の大会が中止に。感染対策と大会をどう両立させるのか。国やスポーツ団体が出すガイドラインなどを読みあさり、たどりついたのが独自の方式、名付けて「スマートマラソン」でした。

    倉田敬太さん

    「このままの状態が正常に戻ることは多分ないんじゃないかなと思う.そういう前提のもとで工夫していかないといけなかった.ゼロからどうやってやっていったらいいかを1つずつ調べたり工夫したりシミュレーションしたり…」

    人もお金も欠かせない

    3か月かけて新たな方式を作った倉田さん。大会を開く地元の自治体や住民への説明に奔走しました。
    何とか理解を得ましたが、今度は、人とお金の問題にぶつかります。スタート時間を延ばし、タイム計測のために新たな機器を設置、コース上で密を避ける呼びかけを徹底させる、これまで以上の費用とボランティアの数が不可欠でした。

    スポーツ庁 異例の支援

    そんな時、倉田さんが目にしたのがスポーツ庁の新たな取り組みでした。
    48億円規模の予算を組み、ウイルスで活動に影響を受けた団体や個人が再開や継続にかかる費用に最大150万円を補助する仕組みです。
    事業を進めるのはスポーツの振興に取り組む日本スポーツ協会です。スポーツの「すそ野」に与えたダメージは計り知れないと強調します。

    日本スポーツ協会 森岡裕策常務理事

    「草の根のスポーツに対する48億円規模の支援は“異例”で、国の強い姿勢の表れだ。スポーツ人口を増やすことがミッションの我々にとって、一度止まってしまったスポーツの再開のための支援は不可欠だ」

    7月の申請開始に合わせて早速、手をあげ補助金を受けることが決まった倉田さん。「タイムリーな内容だったので活用した。(申請書を書くために)考え方をまとめることが後に役に立った」と歓迎しています。

    うれしい誤算

    もう1つの悩みは「人」、ボランティアが集まるかです。
    倉田さんによると、ボランティアの60%以上は、ウイルスの感染リスクの高い高齢者と、保護者の同意が必要な未成年。どう集めればいいか、不安を募らせていました。
    ところがふたを開けると、募集に対して「ものすごいスピードで」(倉田さん)希望者が集まりました。その「熱」の高さは思ってもみないことでした。

    当日参加していたボランティアの1人に話を聞きました。18年ほど前からスポーツのボランティアをしてきた年配の女性。次々とくるランナーに対し、ふだんなら「ファイト!」と大きな声をかけます。
    でもこんな時期、大声を出せない代わりに、ひたすら拍手や手を振り続けていました。

    ボランティアの女性

    「自分が走らなくても走っている人から元気をもらえる。一緒に喜べる」

    純粋にスポーツから得る喜び、楽しみを感じていました。
    マラソン大会には午後になっても、続々と、そしてバラバラに参加者たちが訪れてきました。そのたび、何度も何度も同じ説明をする倉田さんの姿がありましたが、その表情は充実感にあふれていました。

    接触は不可避 少林寺拳法の子どもたち

    子どもたちの活動を守ろうと力を尽くす人たちもいます。
    宮城県美里町などで少林寺拳法を行うスポーツ少年団、こちらも3か月活動を停止していました。

    互いに対面し接触も避けられない少林寺拳法の活動を続けるうえで、感染リスクを考えると悩みは尽きなかったといいます。

    宮城美里スポーツ少年団 阿部恵副部長

    「少林寺拳法の教えの中で『組手主体』というのがある。2人で組むことで協調性を養ったり技のタイミングを計ったりする利点があるとされているが、はじめはまったくできなかった」

    組手練習は半分の時間に

    活動を続けてもらうために、「自粛期間」に始めたのが「LINE」での指導。自宅での練習で浮かんだ疑問や質問に対し、動画で回答しました。
    ただ、活動再開にあたって“密”対策を考えれば、これまで通りの「組手」中心の指導は行えません。
    そこで取り入れてみたのが、テンポの良い音楽のリズムに合わせて体を動かす「スポーツリトミック」という運動でした。

    少林寺拳法とは全く異なる動きですが、リズム感は演武では欠かせない要素のひとつです。1時間ある教室のうち15分を「スポーツリトミック」に割きます。
    その後の15分は同じ方向を向いての基本練習。休憩時間のたびに手指の消毒を繰り返します。
    そして終盤、ようやく「相対」と呼ばれる2人1組の練習に移りました。
    マウスシールドをつけたまま20分、ふだんの半分ほどの時間が、考え出したギリギリの時間だったといいます。

    知恵と工夫が効果を生んだ

    こうした知恵と工夫は、マラソン大会に続き「うれしい誤算」を生みました。
    「LINE」での遠隔指導を続けたところ、子どもたちの技やモチベーションが向上。「スポーツリトミック」を導入した活動再開後は、入団希望の子どもたちが一気に10人ほど増えました。

    少林寺拳法を行う「ハードルが下がった」と感じる子どもや保護者が多くいたためです。
    さらに、培ったリズム感によって「全員一斉に同じ動きをする“団体演武”の時にきれい動きがそろう。相手への反撃のタイミングがはかれるようになる」(阿部恵副部長)。そういった少林寺拳法の動きにプラスの効果を生んだのです。

    台風被害、コロナ禍…それでも

    この少年団は1年前の台風19号で活動拠点の1つが浸水。保管していた防具などが使えなくなってしまいました。ほかの団体の支援も受け、年明けからようやく活動が活発になってきた中で今回のコロナ禍。それでも「スポーツを止めない」思いにブレはありません。

    宮城美里スポーツ少年団 阿部恵副部長

    「子どもたちには“できないかもしれないと思ったらもうできない、だからできるかどうか分からない時はできるつもりでやろう”と言ってきた。なので、自分も“練習できなかったらどうしよう”と思うのではなく“練習をするために何をしなくちゃいけないか”と常に考えるようにしている」

    “不要不急”だからいらない?

    緊急事態宣言のさなか、スポーツは“不要不急”だと言われました。
    部活動の場を失った中高生が、外で体を動かすことで「批判を受けた」という声を、私は何人もの指導者から耳にしました。一方で、体を動かす機会が減ったことが“二次被害”になっていると専門家たちが問題を指摘し、国も今回のように対策に乗り出しています。
    今回取材した2つの団体がともに受けているスポーツ庁の補助事業。10月28日現在で補助が決まった個人や団体はおよそ1800、金額は2億円ほどと、まだ予算には十分余裕があります。日本スポーツ協会は申請の期限を11月末まで1か月延長しました。

    日本スポーツ協会 森岡裕策常務理事

    「まだまだ周知が足りないことが課題だ。支援が早く、広く届くように力を尽くしたい」

    知恵と工夫でスポーツを止めない人たちを支える、そんな動きに終わりがないことを願います。

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