東京へのヒントは?西岡良仁が見たテニスツアー大会の新型コロナ対策とは

新型コロナウイルスの影響で、世界のスポーツ界がすべての動きを止めた2020年。東京オリンピック・パラリンピックの延期に代表されるようにスポーツイベントのカレンダーは大幅な修正を余儀なくされた。各競技団体や大会の主催者は、中止や延期、リーグ戦の中断をへてようやく再開にこぎつけたというのが現状だ。
こうした中、テニスは8月から世界を舞台に戦うツアー大会を再開。世界中のトップ選手が集結する四大大会のひとつ、全米オープンも開催された。
”現場では、どのような対策が行われているのか?”
その疑問を来年の東京で主役となるアスリートにぶつけたいと思い、インタビューを申し込んだ。相手はプロテニスプレーヤーの西岡良仁選手。トッププロのツアー転戦中の貴重な時間を削るわけにはいかない。許されたインタビュー時間は、ちょうど30分だ。
(スポーツニュース部記者 西村佑佳子)

目次

    検査結果を待つ間に…

    9月11日朝、西岡選手はローマのホテルで、取材する側もされる側もこの数か月で、馴染み深いものとなったインターネットのテレビ会議システムを使ってインタビューに応じた。PCR検査の結果を待っているところだった。

    西岡良仁選手

    「このあと午前10時から、圭くんと練習予定だったんですけど検査結果が2人とも来ていなくて…」

    年上の錦織選手を親しみを込めて「圭くん」と呼ぶ西岡選手は24歳。
    錦織選手と同じアメリカ・フロリダのテニスアカデミーに留学し腕を磨いた。プロ転向は2014年。ことし2月には世界ランキングを自己最高の48位まで上げて、東京オリンピック代表に手が届くところまで来るなど、着実に力をつけてきているレフティーだ。

    西岡選手が見たウイルス対策

    テニスのツアー大会は、新型コロナウイルスの影響でおよそ5か月の間中断した。再開したのは8月のアメリカの大会からだ。女子シングルスで大坂なおみ選手が優勝を果たして話題となった全米オープンが行われたあと、舞台はヨーロッパへ移っている。
    西岡選手も全米オープンから、オーストリアの大会に転戦、インタビューをした時点ではイタリアで行われる大会の準備に入っていた。
    再開したツアーのこれまでと異なる点について尋ねると、ひとつの例として全米オープンでの出来事をあげた。

    西岡良仁選手

    「ホテルの部屋の前に何人か、監視役がいたんです。1日以上、(PCR検査の)結果が出なくて部屋から出られなかった選手もいました」

    全米オープンに出場するため日本を出発し、訪れたアメリカの空港で必要だったのはパスポートと大会から発行された招待状だけだった。
    しかし大会側が指定したホテルに到着するとそのまま検査室へ。PCR検査の結果が出るのは早くて10時間後で、それまでは一歩も部屋から出てはいけないルールだった。
    西岡選手は全米オープンの新型コロナウイルス対策が「かなり厳格だった」と振り返る。

    PCR検査後のホテルで
    • ▽4日に1回義務づけられていたPCR検査。
    • ▽試合会場内のレストランは自分で料理を取りに行くことすらできない。スマートフォンを使い、QRコードを読み取って注文を行う。
    • ▽ホテルと試合会場以外、出歩くことを禁じる行動制限の徹底。
    • ▽選手であることを証明するために、携帯していたパスには位置情報が分かるものが埋め込まれていた。
    • ▽指定された場所から出た場合は、大会への2年間の出場停止処分が課されると伝えられていた。

    特に困ったことを聞くと「練習相手」というのは、いかにも選手らしい回答だった。 通常の大会であれば、練習相手は大会側が調整して出場する選手のほか、地元の学生などのヒッティングパートナーを紹介してもらえるが、今回は運営スタッフを減らすためとして、選手どうしが直接、連絡を取り合わなければならなかったのだ。

    閑散とした全米オープンの試合会場

    西岡良仁選手

    「僕は左利きなので、右利きの選手と対戦する試合の 前にはやりたくないって断られるんです。相手が見つからなかったらどうしようって、どきどきしました」

    ウイルス対策は、選手に思わぬ負担をかけることがあると感じた。

    西岡良仁選手

    「ちょっといいですか。圭くんから電話が来たので」

    ここでいったんインタビューは中断となった。時計を見ると約束の30分には、まだ早い。

    西岡良仁選手

    「結局、(PCR検査の)検査結果が昼ごろまで出ないかもしれないので、お互い部屋で待っていようということになりました」

    もう少しこちらの、取材に応じてくれることになった。

    ウイルス対策の”温度差”

    8月に日本を離れ、すでに複数の国を訪れた西岡選手から見ると、新型コロナウイルス対策は国や大会によって”温度差”があるというのが率直な感想だ。
    アメリカに入国する際にPCR検査は無かったものの、ホテルに到着した直後から繰り返し検査が行われ行動制限も徹底された。

    一方で、ヨーロッパに渡るとドイツでは入国の際に48時間以内にPCR検査を受けたかどうか厳しくチェックされたが、陸路で移動したオーストリアや、イタリアの空港で検査の有無を確認されることはなかった。
    来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、徐々に日本でも海外からの人の受け入れについてどのように対応するのか動き始めているが、選手にとっては入国の際のチェックに加えて、大会期間中にPCR検査がこまめに行われ、感染者との接触リスクが低いエリアにいることができれば、安心感があり、競技に集中できるというのが西岡選手の意見だ。

    閑散とした全米オープンの試合会場

    西岡良仁選手

    「今回のテニスを見ていると、選手や大会関係者しか入ることができないエリアの中は、本当にうまく機能している。ツアー大会を行っても感染する選手が少なかったのは、いい意味でのサプライズ。世界中から色々な人が集まっても、ルールを破る人がいなければ、うまくできるんじゃないかと思いましたね」

    “ウイルス対策とベストパフォーマンス” 両立は可能か?

    西岡選手によると全米オープンの際に滞在していたホテルには、行動を制限されている選手や関係者が息抜きできるよう、ゲームセンターにあるような機械や卓球台などが置かれたスペースがあったという。
    最優先されるべきは新型コロナウイルスの感染防止対策であることに疑いの余地はないが、そのうえで、制限するだけではなく、できる限りストレスなく過ごせる環境整備も求められていることに改めて気づかされた。
    極度の緊張状態が続くオリンピックやパラリンピックに臨む選手たちが、力を十分に発揮できるような受け入れ側の工夫は来年、必ず必要になると確信した。

    インタビューを終えて…

    30分と少しかかったインタビューを終えたあとの現地時間午後3時前。西岡選手のSNSが更新された。 そこには、コートサイドで錦織選手と並んでいる笑顔の写真。
    よかった。無事に2人で練習ができたようだ。

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