1年後の舞台へ 東京パラリンピック開幕へ 選手たちの思い

東京パラリンピックは、1年後の2021年8月24日から9月5日までの13日間の日程で22競技539種目が行われ、最大で182の国と地域からおよそ4400人の選手が参加する予定です。
困難を乗り越え来年の大会に挑もうとするパラアスリートたちの意気込みです。

目次

    パラ陸上 佐藤友祈「目標があるから頑張れる」

    パラ陸上のエース、佐藤友祈選手(30)は、東京パラリンピックが延期されても車いすの2種目で金メダル獲得という大きな目標をみずからに課し、来年のパラリンピックに臨もうとしています。
    21歳のときの病気が原因で両足と左腕に障害がある佐藤選手は、初出場となったリオデジャネイロパラリンピックで400メートルと1500メートルの車いすの2種目で銀メダルを獲得しました。
    その後も記録を縮め、去年の世界選手権では同じ2種目で優勝して東京パラリンピック代表を内定させ、現在も世界記録をもつことから「金メダルに最も近い男」と言われています。
    大会の延期が決まった後も通常のトレーニングを継続し、緊急事態宣言で競技場が使えない間は、河川敷での走り込みや消毒を徹底したジムでの筋力トレーニングなどを続けてきました。そして、先月、8か月ぶりに出場した実戦レースでは、400メートルでみずからの世界記録に迫る好タイムをマークしました。
    今の心境について、佐藤選手は、「1年後の開催を危ぶむ声や、オリパラを開催している場合ではないという意見は、コロナが終息しないかぎり、あって当然だと思う。それでもコロナ禍の中で目標を失わずに働いている人たちがいるように、僕も東京パラリンピックでの金メダルという目標があるから頑張れる」と話し、逆境の中でも揺るぎない目標が力になっていると明かしました。
    そのうえで、東京パラリンピックに向けて、「できることなら観客を入れて、国立競技場で僕が走ってるところを多くの人に見てほしいし、そこで目標を達成する姿を想像できている。400メートルと1500メートルで必ず世界記録を更新して金メダルを獲得することを約束する」と述べ、目標達成への強い意志を示しました。

    パラ陸上 中西麻耶「逆境を嘆いている間は前に進めない」

    パラ陸上の女子走り幅跳びで東京パラリンピックの代表に内定している義足のジャンパー、中西麻耶選手(35)は、練習環境が制限される逆境を力に変えてトレーニングを続けています。
    21歳のとき、仕事中の事故で右足を失った中西選手は義足で陸上を続けてきましたが、去年の世界選手権で初優勝し、一躍、東京パラリンピックの金メダル候補に躍り出ました。
    しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で高齢の家族の感染を避けるため長年、練習拠点としてきた地元大分を離れ、コーチがいる大阪に拠点を移さざるを得なくなりました。
    さらに競技場が閉鎖されたため、練習場所になったのは近くの公園や駐車場です。こうした場所は足場が不安定で走るときには段差などの障害物が多くありますが、中西選手は逆に義足で身につけるのが特に難しい左右のバランス感覚を磨けるチャンスととらえました。
    中西選手は競技場が使えるようになったいまも柔らかい芝生の上や段差のある駐車場などを走り込み、バランス感覚を徹底的に鍛えています。
    中西選手は「通常の練習ができないと焦るのではなく、どうしたら継続的に練習を積めるのかを考えた。逆境を嘆いている間は前に進めないので、今の環境でできることに工夫しながら取り組むことが1番大事で、それが逆境からの逆転につながると思う」と話していました。
    東京パラリンピックでオリンピック選手に迫る6メートルを跳ぶことを目標に掲げる中西選手は、「しっかりした記録を出してパラリンピックの中心選手になれるように頑張りたい。東京でパラリンピックをやってよかったなと思ってもらえる大会にしたい」と話していました。
    そのうえで、「新型コロナウイルスの影響でパラ陸上の大会はほとんどが中止になり、選手が活躍の場を失っている。障害のある人が健常者の大会に当たり前に出ていければ、活躍の場はもっと広がるので、東京パラリンピックではひとりの走り幅跳びの選手として認めてもらえる記録を出して、インパクトを与えたい」と話しています。

    パラ陸上 伊藤智也「僕には“ウィズコロナ”はない」

    パラ陸上のベテラン、伊藤智也選手(57)は、新型コロナウイルスによるリスクが特に高いため、屋外での活動が厳しく制限されていますが、トレーニング方法を工夫して来年の東京パラリンピックに向け強化に励んでいます。
    陸上、車いすのクラスでパラリンピックに3回出場し、金メダル2つを獲得している伊藤選手は、免疫に異常が生じる難病のため新型コロナウイルスに感染した場合、命に危険がおよびます。
    すでに東京パラリンピックの代表に内定していますが、感染を防ぐためことし5月までの半年間はほとんど外出をせず自宅にこもらざるを得なくなりました。緊急事態宣言が解除された後も競技場やジムの利用は感染リスクを避けるため人の少ない午前中に限られるなど練習環境に厳しい制約があります。
    ことし最初のレースとなる来月の日本選手権も最近の感染状況を踏まえ、出場を諦めざるをえませんでした。伊藤選手は「僕には“ウィズコロナ”はない。基礎疾患のある僕にとって死に直結するウイルスで絶対にかかってはいけないので共存しようがなく、最大限、臆病にならざるをえない。この中で競技力を上げるのは非常に難しい課題だ」と話します。
    それでも自宅の中で車いすをこぎ続け、筋力アップに努めた結果、再開後の競技場での練習では自己ベストに迫る好タイムを記録するなど東京パラリンピックに向けて着実に強化を進めています。
    伊藤選手は「自宅で工夫を尽くし、レースの緊張感は想像力で補いながら練習していきたい。来年は大会に無事に出ることのほうがメダルを取るより難しい、そういう時間を過ごしている選手がたくさんいるが、コロナとの闘いの先にパラリンピックが開かれ、コロナ禍を生き抜いた選手たちと世界中の人たちの心が1つになれたら最高にうれしい」と話しています。

    パラ陸上 高田千明「諦めずにやり続ける」

    パラ陸上女子走り幅跳びの高田千明選手は全盲のため接触による感染リスクを避けづらい難しい状況にありますが、来年の東京パラリンピックでの金メダル獲得を目指して強化を続けています。
    18歳の時に病気で視力を完全に失った高田選手は前回、リオデジャネイロパラリンピックの代表で、去年の世界選手権の視覚障害のクラスで自身の日本記録を更新する4メートル69センチを跳んで4位に入り、東京パラリンピックの代表に内定しました。
    しかし、新型コロナウイルスの影響が続くいまも道具を準備するときにも両手で触って探すうえ、練習でもコーチが隣で走ったり肩に触って助走の方向を指示したりするなど直接、人やものと触れることはどうしても避けられません。
    通常より高い感染リスクにさらされる難しい状況で迎える東京パラリンピックについて高田選手は「パラリンピックを来年、やるのかやらないのか、練習はできるのかできないのかっていうような不安がいっぱいの中で1年前を迎えても気持ちの持って行き場がない」と複雑な心境を話しました。
    それでも高田選手は来年、東京パラリンピックが開催されることを願って練習を再開させています。目標は5メートルを超える跳躍で金メダルを獲得することです。
    高田選手は「新型コロナウイルスという目で見えない、においもしない、怖いものがあったとしても、目標がなくなってるわけではない。諦めずに何でも続けてやり続けることの大事さを見てもらいたい」と話しています。

    パラ陸上 マルクス・レーム「世界記録を更新して優勝したい」

    パラ陸上男子走り幅跳び義足のクラスの世界記録保持者で「ブレードジャンパー」とも呼ばれるドイツのマルクス・レーム選手は東京オリンピックの金メダリストの記録を上回る跳躍でパラリンピック3連覇を達成するという目標を今も変えず大会にも出場しながら調整を重ねています。
    14歳のときに事故で右足を失った義足のジャンパー、レーム選手は男子走り幅跳びでパラリンピックを2連覇していて自身の持つ8メートル48センチの世界記録はリオデジャネイロオリンピックで金メダリストがマークした記録を上回ります。
    レーム選手は東京パラリンピックが1年延期されたことについて「いい状態に仕上がっていたので悲しかった。ベストな準備をしていたのでそれを披露する機会がないのは残念だ」と述べました。
    現在は助走のスピードの強化などを意識して練習に取り組んでいるということで、今月21日にドイツで行われたパラ陸上の大会では8メートル32センチの記録で優勝し、来年に向けてさい先のよいスタートを切っています。
    レーム選手は来年の東京パラリンピックで3連覇を目指すことを改めて目標に掲げたうえで「自分の世界記録を更新して優勝したいし、東京オリンピックで優勝した選手の記録を超えるジャンプをしたい」と意気込んでいました。
    そのうえで、大会を開催する意義については「オリンピックとパラリンピックがともに協力できるチャンスだと思う。パンデミックに対して互いに協力できればすばらしいことだ」と話していました。

    パラ競泳 木村敬一「人間の可能性を示す」

    4大会連続のパラリンピックとなる東京大会への出場が内定し、初の金メダル獲得を目指すパラ競泳のエースで、全盲の木村敬一選手(29)は1年後に迫った大会について「人間の可能性を示すことでコロナ禍で疲弊した社会から人々が立ち上がるきっかけになるのではないか」と、その意義を強調しています。
    2歳の時に病気で視力を失ったパラ競泳の木村選手は、2008年の北京大会から3大会連続でパラリンピックに出場し、これまで銀メダルと銅メダル合わせて6つを獲得しています。去年の世界選手権では、100メートルバタフライの視覚障害が最も重いクラスで優勝し、4大会連続となる東京大会の代表に内定しています。
    木村選手は2018年から単身アメリカに渡ってトレーニングを積んできましたが新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、アメリカでの生活が難しくなり現在は、国内で強化を続けています。
    1年後に迫ったパラリンピックについて木村選手は、これまで唯一取れていない金メダル獲得を目標に掲げる一方で、「去年の今頃は絶対1年後にパラリンピックがあると思っていたが、今は本当に来年、パラリンピックができるのかと思いながらトレーニングしている。1年前を節目と考えてもしょうがなく、ただ毎日の積み重ねだけだと思っている」と述べ、先が見通せない現状への複雑な心境をのぞかせました。
    そのうえで、「パラリンピックは人間の可能性を示すものであり、それを見てもらうことで、新型コロナウイルスによって疲弊した社会から人々が立ち上がっていくきっかけになると思っている」と1年後の大会開催の意義を強調しています。

    パラ競泳 鈴木孝幸「自国大会、存分に味わいたい」

    4大会連続でパラリンピックに出場し、金メダルを含む5つのメダルを獲得している、パラ競泳の鈴木孝幸選手(33)はベテランらしく、焦らずに強化を続けて東京大会でも金メダル獲得を目指しています。
    生まれた時から両足と右手がなく、左手の指にも障害がある鈴木選手は、アテネ大会から4大会連続でパラリンピックに出場し、2008年の北京大会では金メダルを獲得した実力者です。
    7年前からイギリスを拠点として強化を続けてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でことし3月には帰国を余儀なくされ、国内でも2か月ほどは、プールでの練習が難しかったといいます。
    これについて鈴木選手は「自分の障害では、水泳以外は有酸素運動ができず陸上でできるトレーニングでは不十分なので、心肺機能を戻していかないといけない」と述べ、みずからの現状を冷静に分析しています。
    イギリスの大学院に通っていて今月(8月)19日に現地に戻った鈴木選手は、いま修士論文にも取りかかっているため練習の頻度を少なくせざるをえないということです。
    こうした状況の中で金メダル獲得を目指して臨む東京大会に向けては、「1年間頑張り続けるのは無理で、焦っても状況は変わらない。選手としておそらく最後のパラリンピックになると思うし、自国開催の大会は初めての体験なので、存分に味わいたいと思う。選手が楽しんだり競技に集中したりする姿が結果的に見る人に影響を与え、楽しんでもらえると思うのでしっかり準備をして臨みたい」と話していました。

    カヌー 瀬立モニカ「感動や勇気を与えるのが使命」

    東京パラリンピックの代表に内定しているカヌーの瀬立モニカ選手(22)は大会が延期となり、一時は落ち込むこともありましたが、現在は地元東京での金メダル獲得を目指して強化を続けています。
    東京 江東区出身の瀬立選手は、高校生の時に転倒して頭を打ったことが原因で腰回りの筋肉を動かすことができなくなる「体幹機能障害」と診断され、車いす生活になりました。
    それでも以前から取り組んでいたカヌーを続け、前回のリオデジャネイロパラリンピックに初出場を果たしました。その後も地元江東区などから支援を受けて強化を続け去年の世界選手権で5位に入り、東京パラリンピックの代表に内定しました。
    冬の間は、沖縄県大宜味村を拠点に本番と同じ海上でのトレーニングを続けていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で他の場所への移動が難しくなり滞在の延長を余儀なくされました。
    地元で開かれるパラリンピックの延期が決定したあとは心が沈むこともあったということで、その時の心情について「自分がやっている練習がどこにつながっているのか、目標を置けない環境が自分の中でつらかった」と振り返りました。
    しかし、その間もウエイトトレーニングを重ね上半身の筋肉を徹底的に鍛えるなど強化を続けてきました。最近は瀬立選手にもトレードマークの笑顔が戻り、今月初めに再開された大会にシートを新調して臨み、200メートルでリオデジャネイロパラリンピックの記録を10秒近く縮めた好記録をマークするなど強化は順調です。
    来年の東京パラリンピックに向けて瀬立選手は「果たして開催できるのかと不安はあるが、まずはウイルスの収束を願うしかない。スポーツが楽しめる状況になったときに感動や勇気を与えるのが使命だと思っているので、そのときは地元の東京大会で金メダルを取りたい」と話していました。

    車いすラグビー 池透暢「金メダルが揺るぎないモチベーション」

    車いすラグビー日本代表のキャプテン、池透暢選手は(40)大会が中止ではなく、延期になったことを前向きに受け止め、初の金メダルに向けて強化を続けています。
    19歳のときに交通事故で左足を切断し、左腕にも障害が残っている池選手は、正確なロングパスを武器に日本代表のキャプテンとして2018年の世界選手権の初優勝に貢献しました。
    日本は東京パラリンピックでも初の金メダルが期待されていますが、大会は新型コロナウイルスの影響で1年延期されることが決まり池選手は「当時はパラリンピックの開催は無理ではないかと考えていた。中止になると選手としての存在価値まで失うような気持ちになったので、延期が決まって救われた」と前向きに受け取ったことを明らかにしました。
    日本代表が活動を自粛していた期間は自宅で筋力トレーニングをしたり公園の坂道を車いすで走ったりして、体を鍛えていたということです。
    池選手は「パラリンピックが来年、開催されるのであれば不安の中で行われると思う。大会ではその不安を払拭(ふっしょく)するくらいすばらしいものを見せたい。本当の世界一と認められるためにもパラリンピックで金メダルを取ることが自分の揺るぎないモチベーションだ」と意気込みを話していました。

    車いすラグビー 池崎大輔「まだまだ成長できる」

    車いすラグビー日本代表のエース、池崎大輔選手は東京パラリンピックでの初の金メダル獲得に向けて新たなトレーニングを導入し、持ち味のスピードとパワーの強化に取り組んでいます。
    6歳のときに手足の筋力が低下する進行性の難病を発症した池崎選手は、巧みな車いすさばきとスピードを生かした突破力を持ち味に、2018年の世界選手権ではエースとして初優勝に貢献し、最優秀選手に選ばれました。
    東京パラリンピックでは初の金メダル獲得をめざしていて、新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されたことについては「金メダルを取るために念入りな準備ができるとポジティブに考えている」と述べました。
    金メダルへ向けて最大のライバルと予想されるのが世界ランキング1位のオーストラリアで、日本は去年の国際大会で敗れています。池崎選手は病気のため握力などが弱く重い機具を使ったトレーニングは行えませんが、東京大会でオーストラリアに勝つため持ち味のスピードとパワーを強化しようとことし3月からは新たに「加圧トレーニング」を取り入れました。
    「加圧トレーニング」は腕や足の血管を圧迫することで筋肉を疲れやすくして、軽い負荷でも、筋力の強化ができるということです。全力で車いすをこぎ続けるなどさまざまなメニューを取り入れた加圧トレーニングを週に3回ほど、2時間かけて行った結果上腕の太さは5センチアップしたということです。
    42歳の池崎選手は「20代や30代と比較しても今がいちばん、体ができているしパフォーマンスもよい状態だ。まだまだ成長できると感じているので、この1年間を有効に使って自分を高めたい。東京大会では金メダルを取って真のチャンピオンになりたい」と意気込んでいました。

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