“東京パラのレガシーは人の中に残る”河合純一JPC会長

「パラリンピックは“人間の可能性の祭典”だ」
いよいよ2020年。東京オリンピックに続いて行われる、東京パラリンピックの新たな顔となった人のことばです。
その人は、パラリンピック6大会に出場し、金メダル5個を含む21個のメダルを獲得したレジェンド、河合純一さん(44)。
1月1日にアスリート出身として初めて、JPC=日本パラリンピック委員会の委員長に就任しました。東京パラリンピックで何を目指すのか、何を「レガシー」=遺産として残していきたいのか熱く語りました。

目次

    パラ界の“レジェンド”

    「パラリンピックが2020年にあったからこそ、日本は変わったし、世界を変えられたと思われる史上最高の大会にしたい」

    今月10日に行われた就任記者会見でこう強く意気込んだ河合さん。スーツに身を包んだ姿からは少し想像がつきにくいかもしれませんが、パラリンピック界では知らない人はいないレジェンドです。

    河合さんは、全盲のスイマー。パラリンピックの競泳、視覚障害のクラスで1992年のバルセロナ大会から2012年のロンドン大会まで6大会に連続で出場。金メダル5個を含む21個のメダルを獲得しました。
    3年前には日本からは初めて、パラリンピックで大きな功績を残した人をたたえるパラリンピック殿堂入りを果たしました。

    目指すは、満員の会場と選手の活躍

    JPC=日本パラリンピック委員会の委員長は、東京パラリンピックに向けた選手の強化や競技の普及などを取りしきる責任者です。
    就任にあたってNHKの単独インタビューに答えた河合さんに、東京パラリンピックでの目標を率直に尋ねました。

    すると話し始めたのは、日本でまだパラスポーツがほとんど知られていなかった28年前、初めて出場したバルセロナパラリンピックでの体験でした。

    「観客席がいっぱいになって、1か月前までオリンピック選手が泳ぎ、メダルを獲得していた同じ場所で大声援をおくられる。残念ながら当時の日本では、日本代表を決める大会でも大きなプールも借りられないし観客の数も全く及ばないのが現状だったんですね。バルセロナの時に刺激を受け、こういう風に日本もなってほしいなという夢と希望を僕自身は持った。大歓声ほど、選手、アスリートの力を引き出すものはないんです」

    そして、東京パラリンピックに向けて「やっぱり会場を満員にしていくこと、そして日本の選手が大活躍する環境を作る、これに注力していきたい」と目標をあげました。
    そのことばは、みずからの強烈な体験があったからこその力にあふれていました。

    “人間の可能性の祭典”

    河合さんが最も強調したのが、パラリンピックが人々の意識を変える可能性です。

    「オリンピックは“平和の祭典”だと言われますが、パラリンピックは“人間の可能性の祭典”だと思うのです。パラリンピックは普通に見ていたらオリンピックに比べると、タイムが遅いとか、距離が短いとか、記録では劣っているように見える部分もあるかもしれません。でも、どうだろう、全く目が見えない状態で泳いで、走っている。あれってできるのだろうか。いや、そもそも見えていてもあんな記録で走ったり泳いだりできないよねって感じることができる」

    「人々が感性を研ぎ澄ませていくことによってパラリンピアンのすごさに気付けると思うんです。人々の持ってる可能性に出会う場として、パラリンピックは非常に価値があるのです。会場で実際のパフォーマンスを見た時に驚きや感動と出会うことを通じて、今まで無意識のうちに持っていたかもしれない“心の中のバリアー”を除去していく力になっていくんじゃないか」

    “感性”が揺り動かされる体験を

    中学生の時に病気で視力を失った視覚障害者の河合さん。
    障害者を取り巻く日本の現状については、「新幹線の車いす席が少ないとか、駅のエレベーターが少ないとか、いろいろな課題はまだあるにしても、点字ブロックの敷設がこれほど進んでいる国はなく、ホームドアの敷設も進んでいて世界的に見ても特に東京はすばらしい」
    とバリアフリー化が進んでいることを高く評価しています。

    その一方で、多くの人たちの“心の中にあるバリアー”を取り除かなければ、本当のバリアフリーは実現できないといいます。

    「ハードがすべてそろったら、人々のサポートはいらないのかというとそうではない。ハードのバリアがあっても、ハートで超えていくことができると思っています。必要なのは、人々の気付きであり、その気付きを促すのは、感性、感じる心だと思うんですよ」

    パラリンピックには、心の中のバリアーを取り除くために欠かせない“感性”を揺り動かすものがあると河合さんは強調しました。

    “人”こそレガシー

    そのうえで河合さんは、東京パラリンピックがこの日本に残すものとして「人」というキーワードをあげました。

    「東京パラリンピックのレガシーは人の中に残る。人そのものがレガシーになると思っています。パラリンピックに関わった、見た、感じた人たちそのものをこれから先の日本の最大のレガシーにしていけるといいのではないでしょうか。そして共生社会を作る体現者になっていってもらう。誰もが取り残されることのない社会を作るために、パラリンピックは非常に大きな力を果たすとわれわれは信じています」

    東京パラリンピックを見に行こう!

    「感性」や「心の中のバリアー」「共生社会」「レガシー」。

    そんなことばで東京パラリンピックを熱く語った河合さんが、最後に口にしたのは意外にもシンプルなことばでした。

    「そんなに難しいことを考えるより、やっぱりスポーツの大会なので、楽しみに来てほしいですよね。ルールがわからないから観戦が難しいという声も耳にしますが、去年のラグビーワールドカップの時、本当に皆さんルールをわかって会場に行っていたのだろうか。行ってみて、関心を持って、もっと知ろうと思った人も多くいらっしゃったはずです」

    「空間とか時間を仲間と共有したいとか、楽しみたいという気持ちに素直になっていただいて、楽しみに来てもらったらいいのかなと。会場に行ったらよかったよ、いい経験だったよと。今後も見に行きたいな、応援したい選手を見つけたなって。スポーツってそういうことでいいんじゃないでしょうか」

    東京パラリンピックは、観戦チケットの2回目の抽せん販売の申し込みが今月29日まで行われ、春以降は都内の販売所などでも販売が始まります。
    まずはこの夏、パラリンピックの会場に足を運び、直接、見て、触れて、その魅力を感じ取ってみてはいかがでしょうか。
    (スポーツニュース部 記者 島中俊輔)

      最新ニュース

      情報が入り次第お伝えします

      もっと見る