ニュース画像

ビジネス
特集
市場を駆ける“トランプ・ショック”

「「まさか」「信じられない」ーーー市場関係者の予想に反する結果となったアメリカ大統領選挙。トランプ氏の優勢が疑いようもない事実となった11月9日の午後、投資家の不安心理が一気に高まり、株価は暴落。東京株式市場は“トランプ・ショック”の激震に見舞われました。しかし、一夜明けた10日は、逆にトランプ氏への期待感から株価は急上昇しました。“トランプ次期大統領”の誕生を、市場はどのように受け止めたのでしょうか。(経済部 市原将樹)

まさかの“トランプ優勢”

11月9日の午前8時。アメリカ大統領選挙の開票が始まりました。 開票速報で民主党のクリントン候補の優勢が伝わり、日経平均株価は一時、250円を超える上昇となりました。この時点では、多くの投資家がクリントン氏の優位を疑いませんでした。

開票が進む中、投資家が特に注目したのは、フロリダ州とオハイオ州です。フロリダ州は接戦州の中でも選挙人の数が29人と最も多く、オハイオ州は半世紀余り、ここを制した候補者が必ず大統領に就任してきたからです。

異変が起きたのは、午前10時半すぎ。フロリダ州でトランプ氏が優勢だと伝えられたのです。このあと、日経平均株価は下落に転じます。
さらに、オハイオ州でもトランプ氏が票を伸ばしていると伝わり、午前11時半には、平均株価の下げ幅は500円まで拡大。その後は、売りが売りを呼ぶ展開となり、トランプ氏の勝利が濃厚となった午後2時すぎ、ついに下げ幅は1000円を超えました。

ニュース画像

リスク回避が加速

安全な通貨とされる円を買う動きも、一気に加速しました。朝方、1ドル=105円台半ばをつけていた円相場は、一時1ドル=101円台前半まで上昇。ドルに対する円相場の変動幅は4円以上に達しました。

東京・千代田区にある「みずほ銀行」の為替のディーリングルームでは、トランプ氏の優勢が伝えられ、円高が加速すると、顧客からの電話がひっきりなしに鳴り続け、ディーラーたちは慌ただしく対応していました。

みずほ銀行で為替市場の分析を行う唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「朝の段階で、この情勢を予想した人はほとんどいなかったと思う。世界経済の行方がどうなるのかわからなくなった」と驚きを隠せない様子でした。

ニュース画像

当選確実後 “予想外”の反応

トランプ氏の当選確実が伝わったのは、午後4時半すぎ。ここで、またもや意外な状況が生まれます。円相場が一転して円安方向に動いたのです。

多くの投資家は、過激な主張を繰り広げてきたトランプ氏が勝利すれば「世界経済の先行きは不透明感を増す」として円高が進み、1ドル=100円を突破するだろうと見ていました。なかには、1ドル=95円台を予想する市場関係者もいたほどです。

しかし、午後5時には1ドル=103円台まで値を戻し、その後の海外市場では105円台まで下落しました。事前の予想に反して円安が進んだ背景には、トランプ氏の当選確実を機に、いったん利益を確定しようと、値上がりした円を売る動きが出たこと、さらにニューヨーク市場で株価が値上がりしたことやアメリカの長期金利が上昇したことがあると指摘されています。

一夜明けて“V字回復”

ニュース画像

トランプ氏の勝利から一夜明けた10日の東京株式市場で、“予想外”はさらに続きます。買い注文が殺到し、全面高に。日経平均株価は一時、1100円以上も値上がりし、終値でもことし最大の上げ幅となりました。

トランプ氏は、選挙戦で一貫して自由貿易に後ろ向きな姿勢を見せ、日本に対しても厳しい発言を繰り返してきました。日本企業にとっては「悪夢」のような主張のオンパレードに、企業関係者からは「グローバル時代の終わりの始まりだ」と先行きを悲観する声さえあがっていました。

では、なぜ市場のムードは一変したのでしょうか。
ポイントは、大統領選挙にあわせて行われた連邦議会選挙にあります。共和党が上下両院を押さえたことで、トランプ氏が主張してきた規制緩和や大型減税といった大胆な政策への期待感が広がったのです。さらに、勝利が決まったあとにトランプ氏が行った演説を評価する声もあります。

松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「これまでのような過激な発言を抑え、アメリカ国民の融和を求める路線を打ち出したことが意外性をもって受け止められた。経済についても現実的な政策を打ち出すのではないかという期待が広がった」と指摘しています。

この先は・・・

ニュース画像

この2日間の乱高下で、金融市場は“トランプ・ショック”を乗り越えたのでしょうか。

見方は分かれています。1つは、超大国・アメリカの次期大統領が決まり、市場に漂っていた不透明感が取り払われ、投資家が落ち着きを取り戻すという見方です。
もう一方は、トランプ氏が具体的に打ち出す政策こそが真の“トランプ・リスク”だという見方です。

三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは、「これまでのところ、市場はトランプ氏が打ち出した規制緩和や減税が、景気にプラスに働くと前向きに反応しているが、移民問題や通商政策などで持論を貫き、保護主義的な政策を実行に移せば、警戒感が一気に強まることも考えられる」と指摘しています。

今、はっきり言えることは、トランプ氏が実際にどのような政策をとるのかは分かっていないということです。トランプ氏の発言や動向、そしてどのような人事を行うか。あらゆる動きに神経をとがらせながらの展開が続くことになります。

市原将樹
経済部
市原 将樹 記者