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米大統領選挙 トランプ氏の自信

アメリカ大統領選挙に向けた候補者選びは、1日に行われたスーパーチューズデーの戦いで共和党では注目の不動産王のトランプ氏が、民主党はクリントン前国務長官が多くの州で勝利して指名獲得に一歩近づきました。当初は異色候補とみられていたトランプ氏が勢いを得ているのはなぜなのか。そして、今後の指名獲得争いの行方はどうなるのか。現地で取材にあたった国際部の望月麻美記者の報告です。

ヤマ場のスーパーチューズデー

民主・共和両党、それぞれ11の州で一斉に予備選挙や党員集会が行われた候補者選びのヤマ場、スーパーチューズデー。「ジョージア州とバージニア州で民主党のクリントン氏が勝利確実。バーモント州はサンダース氏が勝利確実」。開票開始と同時に、私たちは速報を続けました。

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結果は、共和党はトランプ氏が、民主党はクリントン前国務長官が、それぞれ11州のうちの7つの州で勝利。両氏は指名獲得に一歩近づきました。
アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは翌朝の一面で、「フロントランナーたちが大きく前進した」という見出しで、両氏の勢いを大々的に伝えました。2人の独壇場だったという見方も出ています。

政治への怒りを呼び起こしたトランプ氏

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「私は人々をまとめることのできる人間だ。みんなを1つにしたいし、そうすれば誰もわれわれを負かすことはできない」。トランプ氏はこの日開いた記者会見で自信に満ちた表情でこう述べました。
ジョージア州やアラバマ州のほか、テネシー州、マサチューセッツ州、バージニア州、バーモント州、それにアーカンソー州の合わせて7つの州で勝利を収めました。
当初、トランプ氏は、格差に不満を持つ白人労働者層からの支持が中心でした。その過激な発言に眉をひそめる人たちも少なくなく、メディアもしばしば否定的に伝えていました。
しかし、今回、政治の現状への怒りや不満の受け皿として、トランプ氏の主張がもっと広範な有権者の間で受け入れられていることを裏付けました。今回、注目すべきは投票率です。多くの州で前回を大きく上回る記録的な高さとなっています。トランプ氏の過激な発言で政治に関心のなかった人たちの票を掘り起こし、無党派層の取り込みにも成功したとみられています。
トランプ氏のライバル、保守強硬派のクルーズ上院議員は地元テキサス州を死守したほか、キリスト教保守派の影響力が強いオクラホマ州など合わせて3州を制しました。また、若きホープとされ、共和党主流派が期待するルビオ上院議員はミネソタ州での勝利にとどまりました。しかし、両氏の一本化は進んでいません。トランプ氏は独走状態に入り、いよいよ指名獲得が現実味を帯びてきたと思います。

クリントン氏黒人層の厚い支持

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一方の民主党。クリントン氏が勝利したのは、ジョージア州やバージニア州のほか、アラバマ州やテネシー州、それにアーカンソー州、テキサス州、さらにはマサチューセッツ州の合わせて7つの州に上りました。
クリントン氏は勝利演説で、「私たちは壁を作るのではなく、労働者や子ども、女性、黒人の家族が直面している障壁を一丸となって打ち砕き、その力を引き出していく」と力強く訴えました。
クリントン氏は序盤ではサンダース氏に苦戦を強いられました。クリントン陣営は黒人の有権者が多い南部の州をおさえる戦略を打ち出し、南部での戦いを「ファイアーウォール」、防火壁と呼んでサンダース旋風を食い止める作戦を展開しました。多数のボランティアを動員して戸別訪問を行うなど、きめ細かな運動を進めました。
クリントン氏は、南部アーカンソー州で知事も務めた夫のビル・クリントン元大統領とともに、長年、人権問題に取り組みました。もとからの黒人の支持に加え、「ファイアーウォール」作戦も功を奏し、狙い通りに南部の州で軒並み大差で勝利しました。
クリントン氏の集会を取材して印象的だったことがあります。壇上に夫の元大統領も登場し、「妻に初めて出会ったときから、いつも良いものを作りだしていた。妻よりそれに長けている人には出会ったことがない」と、妻の優秀さを夫婦愛に絡めて参加者に語りかけていたことです。それから、黒人の歌手や俳優などの支持者が次々と登場して熱くクリントン氏への支持を訴える姿です。夫妻が長年、南部に根づいて活動してきたことの厚みのようなものを感じました。
スーパーチューズデーでクリントン氏は、黒人の多い南部6州で、黒人有権者から少なくとも80%という圧倒的な支持を勝ち取り、黒人の支持の盤石ぶりを証明しました。さらに、ヒスパニック系の有権者からもサンダース氏を上回る支持を得ました。
一方のサンダース氏は、地元のバーモント州に加え、ミネソタ州、コロラド州、オクラホマ州という4州で勝利しました。クリントン氏に食い下がり、善戦したという見方もありますが、その支持は白人の若者層に集中していて、広がりが見られないのが現状です。

「ミニ・スーパーチューズデー」

トランプ氏、クリントン氏ともに勢いをつけたスーパーチューズデー。次の焦点は今月15日です。

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フロリダ州やイリノイ州、オハイオ州など5つの州で予備選挙が行われ、「ミニ・スーパーチューズデー」とも呼ばれます。
大統領選挙の指名争いは、各候補が獲得する代議員数の戦いです。これまでは、各州での得票率などに基づいて代議員を各候補に振り分けられてきましたが、この日以降、共和党では勝者がすべての代議員を獲得する「総取り」方式をとる州が多くなります。

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いまや本格候補になりつつあるトランプ氏はここでも勝利して、指名獲得に向けてさらに前進するのでしょうか。
アメリカのシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のカーリン・ボウマン上級研究員はNHKのインタビューに対し、共和党ではトランプ氏が予想以上に多くの支持を得ていると指摘し、民主党ではクリントン氏が指名を獲得する可能性が高いという見方を示しました。では、トランプ氏とクリントン氏が本選挙で戦うことになったらボウマン上級研究員は、接戦となり、トランプ氏が当選する可能性もあると指摘しています。
投票所の取材で、投票を終えた人にインタビューをすると、いつも返ってくる答えがあります。「I voted to make my voice heard(自分の声を届けるために投票しました)」。
大統領選挙はアメリカ国民の民意を映し出す鏡です。民意は誰を大統領に選ぶのか。今後も続く候補者選びの行方から目が離せません。

望月麻美
国際部
望月 麻美