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米大統領選 アイオワ州で幕開け

アメリカの指導者を選ぶ4年に1度のアメリカ大統領選挙が、いよいよ幕を開けました。
2月1日、中西部アイオワ州で行われた党員集会。民主党、共和党の候補者選びは、初戦から激しい戦いとなりました。
現地で取材をしたワシントン支局の禰津博人記者の報告です。

トランプ氏敗れる 民主は大接戦に

「アイオワ勝者はクルーズ上院議員」
州都デモインの集計センターで取材をしていたNHK取材班のところに一報が飛び込んできたのは、党員集会の開始から約2時間後の午後9時すぎ。 ほどなくして、デモイン市内の集会に現れた共和党、クルーズ議員は「アイオワ州、そして、全米の勇気ある保守派にとっての勝利だ」と誇らしげに宣言しました。

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支持率トップを維持し、直前の世論調査でも優勢が伝えられていた不動産王のトランプ氏は2位に。全米を強烈に巻き込んできたトランプ旋風に「待った」がかけられた瞬間でした。

一方、クリントン前国務長官とサンダース上院議員の事実上の一騎打ちとなった民主党。
州内およそ1700の地区で行われた党員集会の結果が次々と入ってきますが、両者はほぼ互角。アメリカのメディアも「あまりの大接戦にどちらが勝ったか伝えられない」などと報じました。

クリントン氏がかろうじて僅差で逃げ切ったことが判明したのは、翌2日の早朝4時ごろで、その差は0.2ポイント。
有権者が議論をしながら候補者を決める党員集会ですが、数か所の会場では、コインを投げる、いわゆるコイントスで最終的に候補者を決めざるをえなかったというエピソードまで飛び出しました。

全米、そして世界各国から1600人の報道陣が集結し、注目された初戦の戦いは、歴史的な大接戦で幕を閉じました。

なぜアイオワは重要か

アメリカ中西部に位置し、映画「マディソン郡の橋」の舞台にもなったアイオワ州。

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豚やトウモロコシ、大豆などの生産が盛んで、人口は300万人余り。アメリカ全体の1%ほどで、ふだんは注目を集める州ではありません。

しかし、マラソンにも例えられる長丁場のアメリカ大統領選挙では、大統領候補を絞り込むための民主・共和両党が各州で行う、「党員集会」や「予備選挙」が最初に行われることから、ひときわ注目されてきました。

選挙が近づくと、町なかは、候補者のTシャツやグッズが売り出されたり、党員集会にあやかったビールの人気投票や、その名も「党員集会」というタイトルのミュージカルも上演されるなど、選挙一色となっていました。

なぜ、大統領選挙でアイオワ州は重視されるのか。
地元の「デモイン・レジスター」紙の論説委員は「初戦のアイオワの役割は、ある種の『選別』だ。ここきっかけに急上昇した例もあるし、次につながる大事なステップだ」と指摘しています。

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実際、アイオワ州での勝敗の行方や、候補者の戦いぶりが、その後の資金集めや選挙戦に大きな影響を与えると言われ、アイオワ州、そして、次のニューハンプシャー州の予備選挙のどちらでも上位2位に入れなかった候補者が大統領候補に選ばれたことはありません。

指名を獲得するための重要な州に位置づけられるアイオワ州。
候補者は、初戦で勝利をつかむために集中的に現地入りし、支持を訴えていました。

なぜトランプ氏は2位に?

全米で支持率トップだったトランプ氏が2位に終わった理由は何か。それは、かねてから指摘されてきたトランプ氏の弱点が露呈したことにありそうです。

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自家用ジェット機で飛び回り、派手な話題を振りまき、連日メディアに登場してきたトランプ氏。圧倒的な存在感を持つ候補者みずからが広告塔になっての「空中戦」を展開しましたが、一方、草の根の組織力の弱さが指摘され、「地上戦」が弱点だと言われてきました。
最終盤、テレビ討論会をボイコットするという「奇策」も、図らずもトランプ氏自身が認めたように、有権者軽視として悪影響を与えた可能性がありそうです

一方、トップを勝ち取ったクルーズ議員は、キリスト教保守派、いわゆる「エバンジェリカル」の票固めなどに専念し、9000人のボランティアは徹底的に戸別訪問を繰り返しました。
アイオワ州の選挙事務所では、連日、ボランティアが電話攻勢を掛ける姿が見られ、クルーズ氏もみずから、僅か50人ほどの有権者が集まる地方の集会所にも足を運び、支持の訴えを続けました。数百人規模の大型集会を繰り返したトランプ氏とは対照的でした。

アイオワ州の党員集会に足を運ぶのは、熱心な党員が多いと言われますが、クルーズ氏は、着実に票の掘り起こしに成功したと言えそうです。

アイオワの結果がトランプ氏にどう響くのかは未知数です。今後、トランプ氏の支持にどのような影響が見られるのか、注視していく必要があります。

一方、民主党のクリントン氏。8年前の大統領選挙で、アイオワ州でオバマ大統領に敗れた「悪夢の再現」は、かろうじて免れました。

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初戦を一応勝利で飾れたことは大きかったですが、盤石の強さを見せられず、ここまで苦戦したのは誤算でした。特に、党員集会に参加した若者の8割以上はサンダース氏を支持しています。
圧倒的な知名度を誇り、最有力候補とされる一方で、新鮮味がないと言われてきたクリントン氏。今後、若者に支持を広げられるかどうかが課題といえそうです。

次はニューハンプシャー州 注目は

アイオワ州の戦いを終え、次は東部ニューハンプシャー州です。

依然として9人が争う共和党は、アイオワ州で苦杯をなめたトランプ氏が、事前の世論調査では2位以下に20ポイント近くの差をつけて優勢で、巻き返すのかどうかが焦点です。

そして、もう1人、注目を集めているのは、共和党のマルコ・ルビオ上院議員です。44歳のルビオ氏は「若手のホープ」と目され、初戦のアイオワ州では激しく追い上げてトランプ氏に僅差で迫る3位と予想外の躍進をしました。

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アイオワ州の戦いのあと、選挙戦から撤退した候補者の1人は、ルビオ氏を「あらゆる勢力を団結できる次世代のリーダー」と支持を表明しています。
アイオワの戦いで共和党の主流をまとめる候補だと印象づけた形で、「アイオワの勝者はルビオ氏だ」という声も上がっています。

アイオワ州でトップだったクルーズ氏、そしてトランプ氏も、共和党内では異端扱いされており、特にトランプ氏に対しては、主流派は公然と「トランプ降ろし」に動き始めています。
ルビオ氏がトランプ氏の対立軸としての存在を固めるのか、それとも、別の候補がニューハンプシャーで名乗りを上げるのか、目が離せない状況です。

一方の民主党。初戦アイオワ州で大健闘したサンダース議員ですが、実は、次のニューハンプシャー州は、サンダース氏の地元バーモント州に近いこともあり、世論調査ではサンダース氏が優勢となっています。

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今後の長い選挙戦を展望すれば、クリントン氏の優位は動かないとみられますが、サンダース氏が、アイオワ州に続き、ニューハンプシャー州でも躍進すれば、双方の一騎打ちがさらに激しくなる可能性もありそうです。

そして、ニューハンプシャーの戦いを終えたあと、戦いは南部サウスカロライナ州や西部ネバダ州に。3月1日には、多くの州で、党員集会や予備選挙が集中的に開かれる「スーパーチューズデー」があり、候補者選びは最大の山場を迎えます。

7月に行われる民主党、共和党の党大会で正式に指名されるのは誰か。ますます目が離せなくなりそうです。

禰津博人
ワシントン支局
禰津 博人