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超大国アメリカ 次のリーダーは

いよいよ4年に1度の大統領選挙の年を迎えたアメリカ。与党・民主党、野党・共和党の候補者選びが、2月1日、中西部アイオワ州から幕を開けます。民主党、共和党ともに8年ぶりに、新人どうしの戦いとなり、年が明けて候補者間の舌戦もいっそう熱を帯びています。
中東で混乱が広がるなど、先行きが見通せない不安定な世界。こうしたなか、超大国アメリカの次の指導者は誰が選ばれるのか。ワシントン支局の禰津博人記者の解説です。

衰えないトランプ旋風

「アメリカンドリームは死んだ。しかし、私ならかつてないほど強力で偉大な国にしてみせる」総資産額は5000億円の不動産王として知られる、共和党のドナルド・トランプ氏。高い支持率を維持し、その強気の発言はさらにヒートアップしています。

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当初は泡沫(まつ)候補とも見られていたトランプ氏。しかし、最新の世論調査の平均値では、共和党内で支持率35%と、2位の候補者に15ポイントも引き離し、去年の夏以降、ほぼトップを維持しています。去年12月には、「イスラム教徒の入国を禁止すべき」といった発言まで飛び出し、アメリカ国内だけでなく、世界中から激しい非難の声を浴びたトランプ氏。その発言はイスラム過激派の宣伝ビデオにまで利用される事態となりましたが、いまだ「トランプ旋風」の衰えはみられていません。

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私も、トランプ氏の集会を何度も取材しましたが、演説の4時間以上も前から会場外には行列ができ、「民主党を支持してるが、話題のトランプを見たいんだ」と話す若者の姿もありました。支持者からの熱い声援だけでなく、人種差別だと叫ぶ抗議デモもたびたび行われており、その姿は、多くの物議を醸しながらも、ここ数か月間、大統領選挙の主役であり続けています。

深刻な政治不信 広がるテロの不安

しかし、なぜトランプ氏への支持が続くのか。そこには、歯に衣着せぬ発言で「強いアメリカ」を訴えるトランプ氏への共感もありそうです。
オバマ大統領と議会との激しい対立で、政治のこう着状態が続いてきたアメリカ政治。多くの国民が、政治への根強い不信感を抱くなか、トランプ氏は、政治家では無いことを逆に武器とした「アウトサイダー」の強みを発揮してきました。

そして、アメリカは、国際社会での指導力の低下が指摘されています。泥沼化するシリアの内戦には有効な手段を見いだせずに過激派組織IS=イスラミックステートの拡大を許し、対立が続くロシアには、クリミア半島を併合され、アジアでは、中国が南シナ海や東シナ海で海洋進出を進め、北朝鮮は核実験を強行。当初は高い評価もされたオバマ大統領の外交ですが、最近の世論調査では、その手腕を評価をしない声が、大きく上回るようになっています。アメリカが国際社会での指導力を失い、世界はリーダー不在の「Gゼロ」だと言われる状況に、アメリカ国民の不満が徐々に高まっているのです。

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さらに、トランプ氏にとって追い風となっているのが、アメリカ国内に広がるテロへの懸念です。去年12月、西部カリフォルニア州では14人が死亡する銃撃テロ事件が発生。国内外から非難が集中するトランプ氏の「イスラム教徒の入国禁止」発言ですが、共和党内に限っては、支持する声が上回っています。

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既存政治への不信感や外交への不満、そしてテロへの懸念。

そうしたさまざまな層の人たちは、トランプ氏が掲げるキャッチコピー、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にする)」、というメッセージに、失われたアメリカの強い指導力を見いだしているようです。

大混戦の共和党 長期戦か

それでは、トランプ氏はこのまま共和党の正式候補に選ばれるのか。これについては、多くのアメリカの専門家も明確な答えを見いだせていません。
国民のいらだちを受け皿とするトランプ氏ですが、政策は現実味がなく、いずれ飽きられるという指摘もあり、これから始まる実際の投票行動に、現在の人気がどこまで反映されるのかは未知数です。

一方、トランプ氏を、支持率2位で追いかけるのが、テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員。保守派の草の根運動、ティーパーティーの支持などを受ける強硬派で、序盤のアイオワ州では善戦しているものの、共和党内では、主流派とはみなされていません。また、支持率の3位には、ヒスパニック系のマルコ・ルビオ上院議員がつけています。44歳で若手のホープとして知られるルビオ氏は、民主党のクリントン氏に、最も勝つ可能性がある候補ともみられており、今後、どこまで存在感を発揮できるかが注目されています。

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いまだに12人の候補者が乱立する共和党。こうしたなか、最終的には、トランプ氏を軸に大接戦が続いて、7月の党大会まで決着がもつれる40年ぶりの事態になるという見方すら出ています。

大本命クリントン しかし焦りも

一方、対照的なのが民主党です。抜群の知名度と経験をいかして、初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントン前国務長官。2位のバーニー・サンダース上院議員を大きく引き離し、支持率でもトップを独走しています。
すでに大統領のような風格すら漂うクリントン氏。しかし、予想外のトランプ氏の躍進の前に、危機感も感じているようです。

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世論調査では、大統領選挙でトランプ氏とクリントン氏が戦うことになった場合、どちらに投票するかという質問でほぼ互角となっているのです。12月の民主党のテレビ討論会の視聴者は、全米でおよそ785万人。トランプ氏が登場した共和党の討論会と比べると半分以下で、今回の大統領選挙の中で最低を記録しました。また、トランプ氏は、オバマ政権の国務長官を務めたクリントン氏に対しても、その外交姿勢を「弱腰」だとして、攻撃を強めています。
こうしたなか、クリントン氏も、強い指導力をアピールする必要に迫られ、自分こそが、アメリカを安全に導く最高司令官にふさわしいと訴える、新たなテレビCMも公開しています。民主党では、指名獲得が確実視されているクリントン氏、すでに共和党との本選挙を睨んだ戦いが進められています。

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今後の選挙戦は

2月1日、中西部アイオワ州で党員集会が、続いて9日には東部ニューハンプシャー州で予備選挙が行われます。2州のうち少なくとも1つでよい勝ち方をし、今後の指名争いに弾みをつけられるのかどうかが次の焦点です。
トランプ氏は、今週から、アイオワ州などに、毎週およそ2億円の資金を投入して、初めてのテレビCMを展開。その発言もさらに攻撃性を増しています。一方の民主党のクリントン氏。圧倒的な人気を誇り、最終兵器とも評される夫、ビル・クリントン元大統領も活発に応援に加わるなど、熱が入っています。

そして、候補者選びは、3月1日に、党員集会や予備選挙が集中する「スーパーチューズデー」を迎え、7月の党大会には、正式に候補者が選ばれます。

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投票日の11月8日まで続く長いレースを勝ち抜けるのは誰なのか。そして選挙戦に伴って、新たなアメリカの在り方、指導力を巡り、経済や外交安全保障などでどのような議論が繰り広げられるのか。不安定化した世界に大きな影響を与える選挙にアメリカ国民だけでなく、全世界の目が注がれることになります。

禰津博人
ワシントン支局
禰津 博人