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カギはロシアへの“強制力”?ウクライナどうなる?

「プーチン氏は自分の本当の意図を隠します。トランプ大統領とプーチン氏の会談は、逆説的ですが、何も悪いことではないと思います」

こう話すのは、ロシアによる侵攻以来、ゼレンスキー大統領の側近を務め続けるポドリャク大統領府顧問です。

なぜ両者の会談は“悪いことではない”のか。侵攻からまもなく3年となる中、ウクライナは戦争終結の道筋をどう描いているのか。NHKの取材班が首都キーウで聞きました。

※以下、ポドリャク大統領府顧問の話(インタビューは1月29日に行いました)

ロシアの侵攻3年、どう見ている?

ロシアが負けていたかもしれない時期があります。それは2022年の終わりから2023年の初めにかけてです。

ウクライナへの軍事援助や軍需産業への投資、ウクライナへの世界的な支援に関する、現在の決定がその時期にすべてなされていたら、ロシアは負けていたでしょう。

しかし3年が経過し、ロシア軍は全く異なる軍隊となりました。ロシア軍も、ロシアとともに戦っている北朝鮮軍も実戦経験を積み、立て直されています。

彼らは、戦場でどのような武器が効果的で、どのような武器がそうでないか、理解しています。そしてこの事実を、各国はまだ十分に認識していません。

ポドリャク大統領府顧問

米ロ首脳会談 実現しても大丈夫?

トランプ大統領とプーチン氏の会談は、逆説的ですが、何も悪いことではないと思います。なぜかというと、プーチン氏と個別に話をすれば、彼が不合理で不適切な人物であることがわかるからです。

プーチン氏は自分の本当の意図を隠します。合意した内容を順守するような人物でもなく、交渉できる相手ではありません。戦闘を望んでいる人物であり、戦争を終わらせることはできないのです。

私は、この戦争を終わらせる方法について、そしてロシアについて、トランプ大統領や彼の周囲の人々から、まったく異なる意見も聞いています。ロシアは暴力による支配を望んでいて、ロシアに対する“強制力”なしには何も起こらないし交渉も不可能だと、アメリカは気づいています。

ロシアに対する“強制力”とは?

トランプ氏自身がすでに述べていますが、第1には、経済的な手段による圧力です。

例えば、原油ですが、私の考えでは、もっと早い段階でロシアの原油に対し、禁輸措置を科すべきでした。ロシアは原油を売ることで、戦争のための資金を調達しています。

ロシアからの原油を載せた大型タンカー(中国 山東省 2023年)

また、ロシアには多くの天然ガスがあり、それを依然としてヨーロッパに対して売っています。ロシアには、戦争を継続するための十分な資金があるのです。

トランプ氏はこれまで『ヨーロッパはロシア産のガスを排除しなければならない』と、はっきり述べてきました。これらは、非常に前向きなシグナルです。トランプ氏の発言からは、ロシアの侵攻の動機をより深く理解していると感じます。ロシアの侵攻は強制的に止めることはできても、「止まってください」とお願いして止めることはできません。

もし、トランプ氏の発言がすべて実行されるのであれば、ロシアは戦争のコストが増大し資金が枯渇し、行動が大きく制限されます。しかし、これらの手段が語られるだけで、それに基づいた行動がなければ、ロシアは戦争をそのまま続けるための手段や資源を持ち続けることになるのです。

北極圏にあるロシア北部のガス田(ヤマロ・ネネツ自治管区)

どうやってロシアに“強制”させる?

ロシアに対して何かを強制するということは、経済的な圧力と軍事的な圧力、両面の圧力によってのみ達成可能です。

軍事的な圧力とは、ウクライナの軍事力を強化することであり、ロシア領内奥深くを攻撃し、より多くのインフラを破壊する能力が必要です。その軍事的な資源を破壊し、ロシア領内への攻撃を増やすことをしない限り、何も起こりません。そうしなければ、ロシアは「戦争とは何か」、「戦争の代償が何であるか」を理解しないのです。

ロシアへの“強制力”は、経済、資金へのアクセスの制限、ロシア領土への攻撃の増加といった形で機能します。それによって、ウクライナは“強い立場”に置かれ、停戦や真の交渉などが可能となるのです。

ロシアは他人の領土にやってきて、ただ殺し、奪っていきました。それが罰せられることなく、彼らの占領を許したままにすれば、ウクライナだけでなくヨーロッパ全体がうっ屈とした雰囲気に覆われることになります。

ロシアに停戦する気はあるのか?

ロシアに戦争を終わらせる用意はありません。

彼らにとっては、“凍結された紛争”※が好都合です。紛争が凍結されれば、彼らは莫大な資金を費やして、ウクライナ内部の結束を破壊し、内紛を起こそうとするでしょう。

そして内紛が起きた瞬間に、戦争の第3段階を始めるのです。これは明らかです。

「紛争を凍結しよう」という人がいますが、混乱によって「ウクライナの立場が弱くなった」と考えたロシアが戦争を止めようとするでしょうか。

北欧や東欧の国々は、もしいま、ロシアを抑えられなければ、もしロシアがこの戦争に“負けない”ということになってしまえば、明日はもっとひどくなるということを理解しています。

プーチン氏にとっては体制を維持するために戦争が必要であり、ロシアの侵攻の動機は、拡張主義です。これが理解できなければ、ヨーロッパで戦火がおさまることはないでしょう。

銃を構える親ロシア派のメンバー(ウクライナ東部 2015年)

※ “凍結された紛争”
紛争は収まったものの、根本的な解決は棚上げされている状態。
ウクライナ東部では2014年、ロシアが後ろ盾となった親ロシア派の武装勢力とウクライナ軍の戦闘について、いったんは双方が停戦に合意した。
しかし、親ロシア派勢力とウクライナ政府のにらみ合いが続き、2022年2月の本格的な侵攻につながった。旧ソビエトでは、モルドバ東部の沿ドニエストル地方やジョージアのアブハジア自治共和国で紛争が凍結されている。

停戦はどうすれば実現するのか?

多くの人は停戦がどのように機能するのかを理解せずに停戦について語っています。

ロシアとの前線は1300キロと長大で、ロシアによって占領された地域にはすでに60万人ものロシア人が暮らしています。こうした状況下で、停戦とは何を意味するのでしょうか。

これ以上、ロシア軍が前進しないということなのか、大砲や迫撃砲を使って挑発してこないということなのか。2014年の停戦合意の後にも、ウクライナ東部ではロシア軍が後ろ盾となった親ロシア派による挑発が続きました。

停戦は“監視”なしには不可能で、ロシアにそれを守らせるためには、明確な「安全の保証」が必要なのです。

ウクライナ軍へ砲撃するロシア軍(2024年1月)

「安全の保証」はどういったものであるべき?

「安全の保証」は単なる紙切れであってはなりません。平和維持部隊、ミサイル基地、十分な防空システム、軍用機や大砲の大幅な増加を意味します。

もし、ロシアがウクライナ領内に侵入しようとした場合、ロシア領内に打撃を加えることができるミサイル基地や十分なミサイルを保有すること。これらの準備が整えば、ウクライナは、戦争を終わらせることができます。

ここで問題になるのは「ロシアがこうしたことに同意するのか」ということです。だからこそ、ロシアへの“強制力”なしに停戦を実現することは不可能なのです。

そして、ロシアへの“強制力”によって、停戦だけでなく、ロシアの段階的な敗北につなげることができるのです。

アメリカ製の射程の長いミサイル「ATACMS」

取材を通じて

ポドリャク氏はインタビューで「トランプ氏がプーチン氏と直接会談すれば、彼がいかに不合理で不適切な人物であるかが分かる。ウクライナにとってむしろ好都合だ」という趣旨の発言をしていたが、インタビューから2週間あまりがたったいま、そのような展開にはなっていない。

プーチン大統領との会談を先行させ、ウクライナ側には、支援と引き換えに天然資源をめぐる“取り引き”を行おうと持ちかけるトランプ大統領。ウクライナ国内では「国の独立と民主主義を守るための戦争の大義が揺らぎかねない」と懸念する声も上がり、不信感が広がっている。

大国の都合と利益が優先され、侵略された当事者であるウクライナが脇に追いやられることはないか。

キーウでは、戦地で最愛の息子を亡くした母親、攻撃で仕事場を失い途方に暮れる市民など、戦争によって犠牲を強いられた人々に多く出会った。こうした悲しみや怒りが、さらに深まることにはならないか。

ゼレンスキー大統領は、ウクライナの命運を背負い、欧州の未来も見据えながらトランプ大統領と向き合い、いずれロシアとも対じすることになるだろう。この戦争がどのように終結するかは、今後の国際秩序や欧米を中心とした民主主義国家の結束にも大きな影響を及ぼしかねない。

重大な岐路に立たされているのはウクライナだけではない。

国際部デスク
松尾 寛
1996年入局 熊本局 新潟局 国際部を経てモスクワ支局などを歴任
現在は国際部で欧州ロシア担当のデスク
ロシアによるウクライナ侵攻などのニュースを担当
社会番組部ディレクター
中川 雄一朗
2014年入局 大阪局などを経て現所属
軍事侵攻直後からウクライナの実情を伝える番組を継続的に制作
国際部記者
有水 崇
2017年入局 北海道や徳島での勤務を経て国際部
ロシアやウクライナ、旧ソ連圏を取材