NHKの取材班は6日、レバノンから陸路で国境を越え、シリアに入りました。
国境の検問所は、アサド政権の崩壊以降、入国審査が行われない状況が続いていましたが、係官による審査が再開され、入国のスタンプを押す手続きが行われるようになっていました。
一方、内戦で家を追われ、レバノンに避難していた人たちがシリアに戻る動きは続いていて、6日も家財道具を積んだトラックや家族連れの車が次々に国境を越えていました。
10年ぶりにシリアに戻ってきたという38歳の男性は「ついに国に戻れることがとてもうれしいです。シリアは大きく変わり、私たちは自由になりました」と話していました。
国境から首都ダマスカスへと向かう道路にはかつて通行する人や車を厳しくチェックする軍の検問所がありましたが、現在は廃止され、施設の解体が進められていました。
シリア アサド政権崩壊まもなく1か月 現地で見えた希望と不安
シリアで独裁的なアサド政権が先月8日に崩壊して、まもなく1か月となります。NHKの取材班は6日、シリアに入りました。変わりつつある現地で取材を進めると住民の「希望」と「不安」が見えてきました。
現地取材で見えた住民の「希望」と「不安」
施設のそばには旧政権の軍の戦車がいまも放置されていました。
政権崩壊前にはいたるところに掲げられていたアサド前大統領のポスターはすべて取り外されていて、検問所の施設ではアサド氏の顔の部分が破りとられたポスターの切れ端だけが残されていました。
ダマスカスに入ると、多くの商店やレストランが通常どおり営業していて、通りは大勢の買い物客などでにぎわい、車の激しい渋滞も起きていました。
ダマスカス市内ではかつては多くの警察官や治安部隊が市民の動向に目を光らせていましたが、いまでは警察官の姿はほとんどなく、取材班が街頭で撮影やインタビューをしていても呼び止められたり尋問されたりすることはありませんでした。
母親と買い物に来ていた19歳の大学生の女性は「すべてがよい方向に変わっています。街では検問もなくなり、大学構内で当局の監視の目を気にする必要もなくなりました。かつては外国に逃げることも考えていましたが、いまは将来に大きな希望が持てます」と話していました。
一方、50歳の男性は「いまもまだ政府も大統領も議会もない状況に不安を感じています。宗教の違いなどによる差別が強まることも心配ですし、いま力を持っている勢力がかつてアサド政権側にいた人々に復しゅうを始めることも恐れています」と述べ、将来への不安ものぞかせていました。
警察学校 入隊を希望する人たちの長蛇の列
シリアの暫定政権がアサド政権下で市民を弾圧してきた治安部隊を解散させ、新たな部隊の創設を進めるなか、首都ダマスカスにある警察学校の前には、入隊を希望する人たちの長蛇の列ができていました。
隊員の募集は先月12日から行われていますが、いまでもダマスカスやその周辺から1日に500人から600人が手続きに来るということで、一定の訓練を行ったあと選抜が進められることになっています。
応募に訪れた23歳の男性は「正義を実行する仕事につきたいと思ってここに来ました。かつてのような市民を弾圧する治安部隊ではなく、市民を守る治安部隊にならなければなりません」と話していました。
また30歳の男性は「新たな政権になって国のために働きたいという気持ちがわいてきました。かつての治安部隊は、アサド家という1つの家族のためだけに働いていましたが、新たな治安部隊は、国全体に奉仕する存在にならなければならないと思います」と話していました。
「和解センター」で多数の元兵士が武器を返却
シリアの暫定政権は旧アサド政権の武装解除を円滑に進めるためシリア国内の数か所に「和解センター」と名付けた窓口を設けて、かつて政府軍に所属していた兵士らに武器を返却するよう求めています。
このうち首都ダマスカスの和解センターは長年、アサド家の独裁を支えた政権与党「バース党」の事務所に設けられ、6日、NHKの取材班が訪れたところ、多数の元兵士が長い列を作り所有してきた銃や手榴弾を返却していました。
北部アレッポの部隊に6年間、配属されていたという元兵士の男性は、「今後のトラブルを避けるために来ました。新しい暫定政権は旧政権と違って平和的に対応してくれるので銃を手放し、かえって安全になったと感じます」と話していました。
また、19年間、軍用車両の運転手を務めたという38歳の男性は、「アサド前大統領が逃げたと聞いたときは、言いようのない怒りを覚えました。旧政権で罪を犯した人たちはきちんと償うべきだと思います」と話していました。
この和解センターの責任者を務めるユセフさんは「和解センターと名付けたのは、旧アサド政権の兵士たちにわたしたちは敵ではないということを伝えるためです。私自身は旧アサド政権と戦ってきましたが、新しい暫定政権の方針に従って彼らを許さなければならないと思っています」と話していました。
首都ダマスカスの空港 国際線の運航が再開
シリアの首都ダマスカスの国際空港では7日、国際線の運航が再開され、午後7時すぎに中東カタールの「カタール航空」の便が到着しました。
複数のアラブメディアによりますと、カタール航空がシリア行きの便を再開させたのは13年ぶりです。
このほかにもシリアとUAE=アラブ首長国連邦を結ぶ路線も7日に運航を再開したということで、シリア国内では国際線の運航再開に期待が高まっています。
「新しい国づくり これからが正念場」(取材班 小林雄記者)
Q.首都ダマスカスには取材にあたる小林記者。旧政権下とはだいぶ変化も見られるようだが、現地の状況は?
A.私がいるのはダマスカス中心部のウマイヤド広場です。つい1か月前までここにはアサド前大統領の肖像画やポスターがいたるところにありましたが、いまはすべて撤去され、暫定政権の新しい旗が掲げられています。ダマスカスの街は独裁の時代が終わり、自由にものが言えるようになった解放感と高揚感に政権崩壊から1か月となった今も包まれています。
Q.シリアの国の再建は、今後、どのように進みそうですか。
A.険しい道のりが待ち受けています。ダマスカスでは武装解除が進み、治安は安定しているように見えますが、旧アサド政権の地盤地域では暫定政権と抵抗勢力の衝突が起き、北部では隣国トルコが支援する勢力とクルド人勢力の衝突も頻発しています。暫定政権が乱立してきた武装勢力を新たな政府軍としてまとめあげるのは至難の業だと言わざるを得ません。
またダマスカスから一歩外に出れば内戦で破壊された膨大ながれきの山が残っていて、国の再建には国際社会の資金協力などが欠かせません。暫定政権を主導するイスラム過激派を母体とする勢力は、欧米諸国から支援を行う前提として、穏健で包括的な政府を樹立するよう注文をつけられていますが、まだ道筋は見えていません。
さまざまな不安要素が山積するなか、シリアの新しい国づくりを平和的に進めることができるか、これからが正念場といえます。
シェイバニ外相 湾岸諸国を相次いで訪問
先月、シリアで独裁的なアサド政権が崩壊したことを受けて発足した暫定政権のシェイバニ外相は6日、UAEの首都アブダビを訪れ、アブドラ外相と会談しました。
シェイバニ外相は今月に入ってサウジアラビアやカタールといった湾岸諸国を相次いで訪問していて、内戦で荒廃した国の復興に向けて、支援を取りつけるねらいがあるとみられます。
一連の外遊でシェイバニ外相は復興の妨げになっているとして、アメリカなどがアサド政権下のシリアに科してきた経済制裁の解除も訴えています。
これについて、アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは5日、当局者の話として、バイデン政権が制裁自体は維持しながらも、援助団体や企業による水や電力、それに人道支援物資などの提供を認める形で、緩和する方針だと伝えました。
暫定政権を主導する「シリア解放機構」に対しては国連やアメリカなどがテロ組織に指定したままで、国の安定とともに国際社会が復興支援にどう関与していくかも課題となっています。
米財務省 シリアへの規制 一部緩和を発表 人道支援を可能に
アメリカのバイデン政権は独裁的な政権が崩壊したシリアに対して、制裁を維持しながらも人道支援を行えるようにするため一部の規制を緩和すると発表しました。
先月、シリアで独裁的なアサド政権が崩壊したあと、暫定政権を主導する「シリア解放機構」について、アメリカはテロ組織の指定を解除しておらず制裁を科した状態が続いています。
6日、アメリカの財務省が発表した声明では、制裁は維持しながらも、シリアの人たちに対して人道的な支援を可能にするため、6か月間の期限つきで一部の規制を緩和するとしています。
具体的には、制裁のもとでは禁じられてきたシリアの統治機関との取り引きや、石油や天然ガスなどのエネルギーの販売、それに、シリア中央銀行を通じたものを含む、非商業的な個人への送金を認めるとしています。
一方で、武器の輸出につながるものやシリアの軍と情報機関に関わる取り引き、資産の凍結解除、それに、シリアを介してロシアやイランに関わる取り引きなどは引き続き認められないと明記しています。
財務省は今回の措置について「公共サービスの提供や人道支援を含む、人間の基本的なニーズを満たすための活動が制裁により妨げられないようにするというアメリカの決意を強調するものだ」としていて、バイデン政権としては内戦で荒廃したシリアの復興に向けた支援について前向きに取り組む姿勢を示したものとみられています。