トランプ氏 指名受諾演説 団結呼びかけ バイデン政権を批判

アメリカ大統領選挙に向けた野党・共和党の全国党大会で、トランプ前大統領が党の大統領候補への指名を受諾する演説を行いました。みずからが銃撃された事件に触れ、国民の団結を呼びかけた一方、演説の多くの時間を割いてバイデン政権を批判しました。

中西部ウィスコンシン州で4日間にわたり開かれてきた野党・共和党の全国党大会は18日、最終日を迎え、党の大統領候補に指名されたトランプ前大統領が銃撃事件後、初めておおやけの場で演説しました。

トランプ氏は事件を振り返り「最後の瞬間に頭を動かさなければ、暗殺者の弾丸が命中していただろう。神のご加護によって、わたしは皆さんの前に立っている。凶悪な攻撃があったが今夜、私たちはかつてないほどの決意で団結する」と述べました。

その上で「社会における不一致と分断は癒やされなければならない」と述べて国民の団結を呼びかけました。

そして「私はアメリカの半分ではなく、アメリカ全体のための大統領になろうと立候補した」と述べ、党の大統領候補への指名を受諾しました。

一方、トランプ氏は国内で続くインフレについて「アメリカ国民をかつてないほど疲弊させている」と批判し、自身がインフレを終わらせると主張しました。

またバイデン政権について「われわれは無能な指導者から国を救わなければならない。わが国は衰退の一途をたどっている」と述べて厳しく批判しました。

トランプ氏の演説は1時間半以上に及び、冒頭、銃撃事件を振り返り、国民の団結や分断の修復の必要性などを抑制的なトーンで呼びかけましたが、その後、しだいに演説は熱を帯び、バイデン政権の政策や民主党に対する批判に多くの時間を割きました。

トランプ氏としては、バイデン氏が選挙戦からの撤退圧力にさらされる中、党大会を通じて党の結束を図るとともに、自身と距離を置く有権者にも支持を訴え、政権奪還に向けて選挙戦に臨みたい考えです。

《トランプ氏の演説 詳報》

「米国の歴史上、最も重要な選挙」

トランプ氏は演説の中で「アメリカの半分ではなく、アメリカ全体のための大統領になろうと立候補した。なぜならアメリカの半分のために勝ったとしても勝利したことにならないからだ」と述べて、すべてのアメリカの人々に尽くす大統領をめざす考えを強調しました。

そして「政治がわれわれを頻繁に分断するこの時代、今こそ、皆が同じ市民であることを思い出すときだ」と述べて、分断のない国を追求する考えを示しました。

また今回の大統領選挙について「わが国の歴史上、最も重要な選挙となるだろう」と述べたうえで「この選挙では、わが国が直面しているさまざまな問題を取り上げ、いかにしてアメリカを成功させ、安全で、自由で、再び偉大な国にするかを問うべきである」と述べました。

さらに「これまで私を支持してくれた人もそうでない人も、これから先、私を支持してくれることを願っている。なぜなら、私はアメリカンドリームを取り戻すからだ」と述べ、幅広い支持を呼びかけました。

「あと数ミリで私の命を奪うところ」

トランプ前大統領は演説の冒頭、およそ20分にわたって銃撃事件について説明しました。銃撃後、トランプ氏が事件についておおやけの場で話すのはこれが初めてです。

トランプ氏は「暗殺者の弾丸はあと数ミリで私の命を奪うところだった。あまりにもつらい話なので2度、話すことはないだろう」と前置きをしたうえで「事件当日は美しい夕暮れ時で、支持者たちが大歓声を上げて喜んでいる中、自分は力強く話し始めた」と当時の状況を振り返りました。

その後、右を向くと大きな音がして、右耳に何かが非常に強く当たり、トランプ氏は「今のは何だ。弾丸に違いない」と感じて右手を耳に当てると、手が血まみれになっていたと説明しました。

トランプ氏は当時の心境について「私はすぐに、これは攻撃を受けている、深刻な事態だとわかった」と述べその後、地面に倒れ込んだと振り返りました。

そして、トランプ氏は「まさに最後の瞬間に私が頭を動かさなければ、暗殺者の弾丸が完全に命中していただろう。私は今夜ここで皆さんと一緒にいなかったかもしれない。神のご加護によって、私はこのアリーナで皆さんの前に立っている」と述べました。

また、支持者たちは自分が死んだと思って混乱し、悲しんでいたと受け止めたとして「彼らに私の無事を知らせるために、何かしたかった。私は右腕を上げ、固唾をのんで待っていた何千人もの人々を見て、『ファイト、ファイト』と叫び始めた」と拳を振り上げた経緯を説明しました。

そして「私が拳を振り上げると、支持者たちは私が無事であることに気づき、これまで聞いたことのないような、われわれの国への誇りに満ちた歓声を上げた」と述べました。

また、銃撃事件で死亡した人やけがをした人についても触れ、会場の支持者たちとともに黙とうをささげたほか、国民から寄せられた支援に感謝の意を示す場面もみられました。

事件の経緯を説明したあと、トランプ氏は「凶悪な攻撃があったが今夜、私たちはかつてないほどの決意で団結する。これまでにないほどアメリカの人々に奉仕する政府を実現するという決意が砕かれることはなく、目標も変わることはない」と述べて国民に団結を呼びかけ、大統領再選への意欲を示しました。

「不法移民危機を終わらせる」

トランプ氏は演説の中で移民政策について「われわれは不法移民危機も抱えている。南部の国境における大規模な侵略は不幸や犯罪、貧困、病気、そして破壊を国中にまん延させている」と述べました。

そのうえで「私は国境を封鎖し、私がほぼ完了させていた、国境の壁の建設を完成させ、不法移民による危機を終わらせる」と訴えました。

さらに「史上最大の侵略がわれわれの国で起きている。南アメリカだけでなく、アフリカやアジア、中東とあらゆるところから来ている」として対策を進める必要性を訴えました。

「インフレ危機を終わらせる」

トランプ氏は経済状況について「インフレ危機によって生活は苦しくなり、労働者や低所得者層の所得を激減させ、アメリカ国民をかつてないほど疲弊させている」と述べました。

その上で「私は、この壊滅的なインフレ危機を速やかに終わらせ、金利を引き下げ、エネルギーコストを引き下げる。『掘って掘って掘りまくれ』だ」と述べ、国内の石油や天然ガスの生産を増やすことでエネルギー価格を低下させ、インフレの抑制につなげると強調しました。

また「われわれは減税を行うつもりだ。それが大きな経済成長につながるだろう。この国の成長を望んでいる。それによって債務を減らすのだ」と述べて、減税によって経済成長を後押しし、財政赤字を減らすとの考えを示しました。

ただ、経済の専門家からは▽大規模な減税を行えば財政が悪化するという指摘や▽党の政策綱領に盛り込まれている追加の関税によってインフレ率が上昇する可能性があると指摘されています。

さらにEV=電気自動車について「電気自動車の義務化を大統領就任の初日に終わらせる。それによってアメリカの自動車産業を完全な崩壊から救い、消費者は1台あたり数千ドルも節約することができる」と述べました。

この発言はバイデン政権が気候変動対策として進める自動車の排ガス規制などが念頭にあると見られますが有力紙ニューヨーク・タイムズは、「電気自動車の義務化というものはない」として誤解を招く表現だと指摘しています。

「ウクライナ侵攻など終わらせる」

トランプ氏は国際情勢をめぐり「われわれの地球は第3次世界大戦の瀬戸際に立たされている」と述べた上で「私が大統領だったら決して起こらなかったであろうロシアとウクライナとの恐ろしい戦争やイスラエルへの攻撃によって引き起こされた戦闘など、いまの政権が作り出した国際的な危機を、私はひとつ残らず終わらせる」と述べ、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘を終わらせると強調しました。

さらに、「ブッシュ大統領の政権時代に、ロシアはジョージアに侵攻した。オバマ大統領の政権時代に、ロシアはクリミアを併合した。現政権下ではロシアはウクライナ全土を狙っている。トランプ政権のときはロシアは何もとらなかった」と述べ、自身が大統領だった間にはロシアによる侵攻が起きなかったと主張しました。

また、北朝鮮について「私はキム・ジョンウン総書記とうまくやり、私たちは北朝鮮からのミサイル発射を止めた」と主張したうえで「いま、北朝鮮は再び、暴れている。私が戻れば、彼とうまくやる。彼も私の復帰を望んでいる」と述べました。

そして、トランプ氏は演説で自身の政権時代を振り返り「世界史上最高の経済だった。われわれは誰も見たことがないほど飛躍し、中国を含むすべての国を打ち負かしていた」と主張しました。

そのうえで自動車産業を念頭に「われわれは長年にわたり多くの雇用を失ってきた。20年、25年にわたり、中国やメキシコに雇用が奪われている。われわれはそれらをすべて取り戻すつもりだ」と述べました。

「バイデン大統領の損害大」

トランプ氏は演説の中でバイデン大統領について「アメリカの歴代の大統領の中で史上最悪だった10人が与えた損害を足し合わせたとしても、バイデン大統領ほどの損害を与えていない。バイデンの名前を使うのはこの一度だけにする」と述べました。

また、民主党の重鎮のペロシ元下院議長について「クレイジーなナンシー・ペロシ」と表現してやゆしました。

また、バイデン政権のもとでの気候変動対策を念頭に「『緑の新たな詐欺』に何兆ドルも費やし、エネルギーコストに加えてインフレへの圧力も引き起こした。まだ使われていない何兆ドルものお金は道路やダムなどの重要なプロジェクトに振り向け無意味な『緑の新たな詐欺』に使われることを許さない」と述べました。

トランプ氏が選挙演説中に銃撃された事件以来、おおやけの場で演説するのはこれが初めてで、銃撃事件を受けて、国民から寄せられた支援に謝意を示しました。

また、事前に明らかにされた演説の抜粋によりますとトランプ氏は演説で、アメリカで続くインフレや、法的な手続きをせずにメキシコとの国境を越えて入国を試みる人が急増していることを挙げた上で「適切なリーダーシップがあれば、あらゆる惨事は修正され、速やかに解決される」と述べ、大統領選挙の勝利に向けて自身への支持を呼びかける見通しです。

陣営の関係者はトランプ氏が銃撃事件のあと、みずから演説を大幅に書き直したと明らかにしていました。

民主党のバイデン大統領が選挙戦からの撤退圧力にさらされる中、トランプ氏としては政権奪還に向けて党大会のハイライトとなる指名受諾演説で国民に団結を呼びかけ、選挙戦に弾みをつけたい考えです。

大手メディアの評価は分かれる

共和党大会の最終日に大統領候補の指名受諾演説を行ったトランプ前大統領について、大手メディアの評価は分かれています。

アメリカの新聞大手ニューヨーク・タイムズは「トランプ氏は団結を約束したあと、攻撃に転じた」と伝え、演説の内容を検証して「虚偽」や「誇張」、「誤解を招く表現」などと分類しています。

CNNテレビも発言内容を検証して20以上の誤りがあったとして「極めて不誠実な指名受諾演説だった」と結論づけています。

またワシントン・ポストは「アメリカの衰退や、政敵や移民への嫌悪感といったいつもの視点を団結を目指す新鮮な態度で包み込んだ」として演説でトランプ氏はイメージを変えようとしたと分析しています。

一方、保守系のFOXテレビは、トランプ氏が「社会における分断は癒やされなければならない」と述べたことを取り上げ、「トランプ氏は暗殺未遂事件後初めての公の演説で前向きな態度を打ち出した」などと伝えています。

Xでトランプ氏画像 ハッシュタグにあわせて表示

SNSのXで、トランプ前大統領に関するハッシュタグにあわせてトランプ氏の画像が表示されるようになり、アメリカで拡散してトレンド入りしています。

18日、Xのハッシュタグでトランプ前大統領のキャッチフレーズ「アメリカを再び偉大にする」を略した「MAGA」と入力すると、13日の銃撃事件の際にトランプ氏が拳を突き上げている様子を表した画像が絵文字のように表示されるようになりました。

Xのアメリカのトレンドでは「#MAGA」が1位になりました。また「#TRUMP2024」と入力すると、アメリカ国旗の絵文字が表示されトランプ陣営によるプロモーションと記されています。

Xを所有するイーロン・マスク氏は13日の銃撃事件の直後にトランプ氏への支持を表明したばかりで、アメリカの有力メディア、ニューズウィークは「これがマスク氏の指示で行われたのかは定かではない」としたうえで、ハッシュタグに画像をつけるしかけについて「購入することができる」とするXの広報担当者の説明を伝えています。

共和党 ジョンソン下院議長「米を再び偉大に」

共和党のジョンソン下院議長は19日、SNSに「議会下院で過半数を占めている議席をさらに増やし、上院の多数派を奪還し、トランプ氏をホワイトハウスに戻すことでアメリカを再び偉大にするのだ」と投稿し、秋の大統領選挙とともに行われる上下両院の議会選挙も含めて、勝利を目指す意気込みを示しました。

バイデン陣営「トランプ氏 解決策示さなかった」

トランプ氏の共和党の大統領候補としての指名受諾演説を受けてバイデン陣営は19日、声明を発表し「トランプ氏はアメリカの問題点を見つけようとしたが、解決策は示さなかった。経済を破壊し、権利をはく奪し、中間層を破たんさせたのは、トランプ氏だ。彼はこの国を自分の求めるところに導くため、より過激なビジョンで、大統領の座を求めようとしている」と批判しました。

そして「バイデン大統領は異なるビジョンを掲げている。彼は民主主義を衰退させるのではなく、守るために立候補している。われわれの権利を回復し、自由を守るのであって、奪うためではない」と主張しました。

また、民主党の上院トップのシューマー院内総務は19日、SNSに「これほど盛り上がりに欠けるばかげたショーは見たことがない。しかし、このショーは何百万人ものアメリカ国民の権利を危険にさらすものだ」と投稿して、批判しました。

ゼレンスキー大統領「難しい仕事になる」

ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカのトランプ前大統領が大統領選挙で勝利した場合、新たな政権との連携について「難しい仕事になる」と述べる一方、いかなる政権が誕生しようとアメリカと足並みをそろえていくことに変わりはないと強調しました。

イギリスの公共放送BBCは18日、ウクライナのゼレンスキー大統領のインタビューを伝えました。

この中でゼレンスキー大統領は、アメリカ・共和党の副大統領候補に指名されたバンス上院議員がウクライナヘの支援継続に反対していることについて「彼はウクライナで何が起きているか、よく分かっていないのかもしれない」と述べました。

その上で「もし新たな政権が生まれれば、その政権と連携していかなければならない。難しい仕事になる。それを恐れることはない」と述べ、いかなる政権が誕生しようと最大の支援国であるアメリカと足並みをそろえていくことに変わりはないと強調しました。

一方、ウクライナでは激しい戦闘が続いていて、ウクライナのメディアは、南部クリミアでは18日にかけてウクライナの無人機や無人艇が、ロシアの沿岸警備隊の拠点を攻撃したと伝えました。

弾薬庫や攻撃拠点を破壊したとしていますが、これに対して、ロシア国営のタス通信は地元当局の話として「ロシア軍が無人艇による攻撃を撃退した」と伝えています。