黙秘に「ガキだよね」発言 取り調べは違法と認め国に賠償命令

黙秘を続ける容疑者に対し、検事が「ガキだよね」などの発言を繰り返したのは、黙秘権の保障の趣旨に反する違法な取り調べだとして、東京地方裁判所は国に110万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

元弁護士の江口大和さんは、6年前に横浜市で起きた無免許運転の死亡事故をめぐり、運転していた男にうその供述をさせた疑いで逮捕され、その後、有罪が確定しました。

江口さんは当時、取り調べに対して黙秘を続けていましたが、横浜地方検察庁の検事から「ガキだよね」「うっとうしい」などと言われ、精神的な苦痛を受けたとして、国に賠償を求める訴えを起こしました。

国は「真実を供述するよう説得した」などとして争っていました。

18日の判決で東京地方裁判所の貝阿彌亮裁判長は、取り調べについて「事件とは関係なく侮辱的な発言を一方的に繰り返した。人格的な非難を繰り返すことで黙秘をやめさせようとしたと認めざるを得ず、黙秘権の保障の趣旨に反する」と指摘しました。

そのうえで、検事の取り調べは違法だったと認め、国に110万円の賠償を命じました。

この裁判では、取り調べを録音・録画した映像の一部が法廷で再生され、江口さんの弁護士がその後、ネットでも公開するなどして話題となっていました。

原告「納得できない」 控訴する考え

判決のあと、原告の江口大和さんは都内で会見を開き、「判決では黙秘権の行使をばかにする発言などについて許されないと判断されていて、よかったと思う。ただ、説得と称して56時間にわたって取り調べを続けたことは違法ではないと判断されていて、納得できない」と話し、控訴する考えを明らかにしました。

趙誠峰弁護士は「取り調べでは、黙秘している容疑者のプライドを傷つけるような発言を行い、反論させようとする行為がいまも日常的に行われている。こうした手法について黙秘権の保障の趣旨に反すると判断した点は評価できる」と話しました。

高野傑弁護士は、「取り調べの違法性を問うこれまでの裁判では、実際にそのような発言があったかどうかという点から争われるケースが多かった。きょうの判決で検事の発言が事実だと認められたのは、法廷で動画が再生された効果だと思う」と話しました。

13分間の映像 ネットで公開

弁護団によりますと江口さんは逮捕後、「事実無根です。これ以上話すことはありません」と伝えたあと黙秘を続け、起訴されるまで21日間、56時間におよぶ検察の取り調べを受けたといいます。

弁護団は今回の裁判で採用された取り調べの動画のうち、法廷で再生された13分間の映像をネットで公開しました。

映像からは検事が黙秘を続ける江口さんに対し、「ガキだよね」、「うっとおしい」、「社会性が欠けている」、「嘘をつきやすい体質」などと発言していることが分かります。

こうした発言について判決は、「人格を不当に非難するものだ」と指摘しました。

原告側の弁護士によりますと民事裁判の法廷で取り調べの映像が再生されたのはこの裁判が初めてとみられるということです。