トップインタビュー 住友商事 上野真吾社長

トップインタビュー 住友商事 上野真吾社長
アメリカの著名な投資家ウォーレン・バフェット氏ら海外の投資家が熱視線を送る日本の総合商社。そのひとつ、住友商事の新社長にことし4月就任した上野真吾さんに話を聞いた。

どのような成長戦略を描くのか。その根底にある経営哲学は、私たちの働く姿勢のヒントにもつながっていた。

(経済部記者 河崎眞子)

競争優位を磨け

ユーモアがある人物というのが最初の印象だった。

インタビューの冒頭で自身の経営哲学を率直に質問すると、「2つ、3つある」と言っていたが、実は4つだった。

この4つ目こそが、社内で全面的に押し出している核心だった。
・社長も社員と同じ目線で
・社会価値の向上につながるビジネスを
・仕事にも旬がある
・競争優位を磨け
上野社長
「飛躍的な成長を成し遂げるステージに来ていて、どうやって成長させていくかというキーワードは競争優位だと思いますね。あまたあるビジネスで、それぞれに強みを持っている。そこに大きな経営資源を投下していこうと考えています」
弱みの克服にばかり注力するのではなく、強みに焦点を当てて伸ばしていくことが成長につながるということだ。

これは、社長就任後に発表した新中期経営計画で、“No.1事業群”と表現されている。

会社のそれぞれのビジネス領域で、どんなNo.1になれるのか、それを見つけることを求めているという。
「皆さんなりのNo.1を目指してくださいと。その目指すNo.1は何なのか現場で議論してくださいと。シェアなのか、売り上げなのか、利益なのか、ひょっとしたらニッチな世界でここだけでは負けないなのか、それも世界なのか、日本なのか、業界なのか、それはお任せしますと。

少なくとも、皆が自分たちで決めたNo.1を目指して行きましょうと。そうすれば、その集合体の結果がグループとしてNo.1事業群になっているんです」

次世代エネルギー関連に1兆5000億円投資

それではどのような事業が競争優位となるのか。

新中期経営計画には不動産やヘルスケア、建設機械など8つの分野を成長事業と位置づけている。
このうち再生可能エネルギーなど次世代エネルギーの分野は、事業の枠を超えた横串となってさまざまな分野に関わるという。

そのうえで関連する事業に2030年までに1兆5000億円規模の新たな投資を行う計画だ。

いわゆる川上から川下までを自社で手がけている強みがあるという。

インタビューでは、投資額をさらに上積みする可能性も明らかにした。

例えば、2025年春に稼働開始する予定の福島県阿武隈地域にある風力発電所は、発電容量がおよそ14万7000キロワットと国内最大級の規模となる。

年間の想定発電量はおよそ12万世帯分の消費電力量に相当するという。
「蓄電所」の投資も強化する計画だ。

天候の影響を受けやすい太陽光や風力による発電を安定的に利用するために、電力を一時的にためることができる蓄電所は再生可能エネルギーの活用に欠かせない設備になるとしている。
これまでに北海道や九州などで4か所の蓄電所を建設したが、2030年度までに新たにおよそ10か所の建設を全国で進める方針だ。

さらに、全国の発電事業者との連携を進めていくという。

再生可能エネルギーの需要と供給を予測し、調整役を担うアグリゲーターと呼ばれる事業の新会社をことし3月に設立した。
「世界が、まさにカーボンニュートラルに向けて動き出しているので、それに少しでも貢献できるようにプロジェクトをどんどん仕掛けていきたい。カーボンニュートラルを目指すスピード感の違いは地域によってあると思いますが、化石燃料をどんどん燃やす社会に戻ると私は思いません」

短期的と長期的な成長

株主からは短期的な目線で見られる傾向が強くなるなか、こうした再生可能エネルギーの分野は短期的に収益をあげにくいという課題もある。
「収益性っていうのは、会社ですから当然厳しく見ていかなければいけません。短期的に実績が出なくても長期的には必ず出るというところに厳選してお金を張っていくと。それが社会課題の解決に資するということになれば必ず収益が上がっていく。そして、持続的な成長が遂げられると思っています。これはほぼ確信に近い」
この確信の背景には、もうひとつの経営哲学がある。

それはビジネスと社会課題の関係性だ。
「基本としてぶれてはいけないのは、社会課題の提起や解決につながらないビジネスはやるべきではないということ。これは強い信念をもっています。社会にどれだけの価値を提供するのか、それが経済的な価値と同時に相まって、会社の価値が伸びていく。両方追求していくというこの考え方でいけば、会社は持続的な成長を成し遂げられる」

上野社長の競争優位は

最後に、上野社長自身の競争優位はどこにあるのか尋ねた。
「初対面の方でも割と打ち解けるのが得意っていいますか、人とこう話をしながらビジネスにつなげていくっていうのが、自分で言うのもなんですけど(笑)、割と得意なほうではないかなと思います。そういう場面ではどんどん僕を引っ張り出してくれと言っているんですけど(笑)」

取材後記

上野社長は、エネルギー分野のトップを務めていた時代に1700億円にのぼる特別損失を出してしまった際、上司と部下という立場に関係なく、入社10年から15年目の若手社員たちと組織をどう立て直すか夢中になって議論したという。
4つの経営哲学のうちの「社長も社員と同じ目線で」につながる経験だ。

相談しやすい環境をつくり、トップダウンによる指示よりも議論を重視する。

引き込まれるような話術の裏には、組織のなかで上の立場になっても変わらない人間力があると感じた。

(7月8日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
河崎 眞子
2017年入局
松山局を経て現所属