五輪開幕を前に パリ市長がセーヌ川を泳いで水質改善アピール

今月、フランスでオリンピックが開幕するのを前に、地元パリの市長は、トライアスロンなど大会の競技会場となるセーヌ川に入って泳ぎ、水質の改善をアピールしました。

パリオリンピックは今月26日から開幕する予定で、パリ市内の中心部を流れるセーヌ川では、トライアスロンとマラソンスイミングの競技で選手が泳ぐ予定です。

セーヌ川は水質の悪化などから長年遊泳が禁止されてきましたが、市などは大会を機に、新たな浄水施設を設けるなどして水質の改善を進めてきました。

大会の開幕まで間近となった17日、パリ市のイダルゴ市長は、大会組織委員会のエスタンゲ会長とともに、報道陣の前でセーヌ川に入り、水質の改善をアピールしました。

イダルゴ市長が川に入ると、周囲に集まった多くの人からは、大きな拍手が送られていました。

そして、クロールで息継ぎをしながら、セーヌ川を50メートルほど泳ぎきりました。

イダルゴ市長は、報道陣の取材に対し「水は透き通っていて、とても気持ちよく、水の外に出たくない気分でした」と述べました。

またエスタンゲ会長は「きょうは大会に向けて準備が整ったということを確認する重要な節目となりました。選手たちにこの場所を明け渡しましょう」と述べ、開催に向けて準備が整ったことを強調しました。

市の関係者などもセーヌ川での遊泳を楽しむ

パリ市のイダルゴ市長がセーヌ川で泳いだあとには、市内のスイミングクラブのメンバーや、市の関係者などもセーヌ川での遊泳を楽しんでいました。

このうち40代の男性は「きょうは日ざしもあり、とても気持ちよかったです。川の水もきれいでした。セーヌ川で泳ぐことができたらと幼い頃から思っていたので水質が改善されたことはとてもすばらしいことです」と話していました。

30代の女性は「セーヌ川で泳げるようになれば、出勤前に泳ぐこともでき、これまでの生活が変わると思います。ここパリで大会を開催できることを本当に誇りに思っています」と話していました。

セーヌ川についてパリにいる人たちは

パリ郊外に住む43歳の公務員の女性は、イダルゴ市長がみずからセーヌ川を泳いで水質改善をPRしたことについて「パリ市などはセーヌ川がきちんとした水質になるようすごく努力してきた。市長みずからが泳ぐことはとてもいいことだ」と話していました。

また、9歳の息子がいるパリ市の51歳の男性は、「大会をきっかけにして川で泳げることが分かればパリ市民も泳ぐようになるかもしれない。うちの子も絶対に泳ぐよ」と笑顔で話していました。

イギリスから親子で訪れた49歳の観光客の男性は「川岸には有名なモニュメントもたくさんあるので見た目もいい。セーヌ川で行われる競技はとても感動的なシーンになる」と話していました。

ただ、14歳の娘は「私だったら泳がない」と苦笑いしていました。

競技会場として注目のセーヌ川 水質改善の経緯は

パリオリンピックの競技会場の1つとして注目されているのが、市内の中心部を流れるセーヌ川です。

今月30日から行われるトライアスロンと、来月8日から行われるマラソンスイミングの競技では、選手が泳ぐ予定です。

ただ、課題として指摘されているのが、川の水質です。

セーヌ川ではかつて市民が遊泳を楽しむ姿が頻繁にみられたといいますが、水質の悪化が進みました。

1988年には当時のパリ市長だったシラク元大統領が「セーヌ川がきれいになったことを証明するため、将来、川で泳ぐ」と述べましたが、水質の改善は進まず、実現しませんでした。

大きな妨げとなってきたのがパリの下水事情です。

パリの地下を流れる下水道は、全長2500キロ以上あり、19世紀後半の「パリ大改造」と呼ばれる大規模な都市計画の中で整備されました。

大雨などで下水道に流れ込む水が一定の量を超えると、一部をセーヌ川に排水していて、これが、水質の悪化につながってきたとされています。

こうした中、フランス政府やパリ市などは、水質の改善に取り組み、泳げるセーヌ川を取り戻して大会のレガシーとしたい考えで、大会後の2025年夏には、市内3か所に遊泳場を設ける方針です。

水質改善に向けた取り組みの1つが、市内中心部の地下に設けた巨大な貯水槽です。

大きさは直径50メートル、深さ30メートルで、雨水などで下水の量が増えた場合に、一時的に競技用プール20杯分にあたる5万立方メートルの水をためることができ、下水をセーヌ川に排水せずにすむようになります。

貯水槽はことし5月に完成し、先月から稼働しているということです。

このほかにも新たな浄水施設を上流に完成させるなどして改善をはかっていて、対策のための費用はおよそ14億ユーロ、日本円でおよそ2400億円にのぼるということです。

パリ市は開幕が間近に迫った今月12日、水質はおおむね国の基準を満たしていて、「比較的良好だ」と発表したほか、市の幹部も地元メディアに対し、「競技開催への懸念はない」と述べました。

一方、大会組織委員会のエスタンゲ会長は、セーヌ川の水質が悪化した場合の選択肢として、トライアスロンは水泳競技を中止し、マラソンスイミングはカヌー競技などが行われる別の会場で行う案があることを明らかにしています。

大会の開幕が迫る中、国をあげたセーヌ川の浄化の取り組みが成果を上げ、無事に競技が行えるのか、注目が集まっています。

水質調査をした国際NGO “競技を行える可能性は高い”

セーヌ川で水質調査を行う国際NGOは、川の水質はことし5月以降改善し、天候によっては再び悪化するリスクはあるものの、今の改善傾向からセーヌ川で競技を行える可能性は高いとしています。

海洋汚染の問題に取り組んできた国際NGO、「サーフライダー財団」は去年9月から、セーヌ川で独自に水質調査を行ってきました。

川の水を定期的に採取して検査機関に送り、分析しています。

このNGOは半年にわたる調査のあとことし4月、セーヌ川では大腸菌の数値が高く、このままの水質では選手にとってリスクがあるという声明を出しました。

しかし5月下旬以降はその数値が低下傾向を見せ、先月には国の基準値を、今月初めには国より厳しい競技団体の基準値もクリアしたということです。

要因としては、5月以降、天候が回復し雨量が減ったり、強い日ざしによって水面のバクテリアが減少したりしたことに加え、貯水槽の整備など対策の効果が現れたのではないかと分析しています。

NGOの広報のリオネル・シェリュスさんは、「今後も雨が多く降ったり、日ざしが弱まったりすることはあり、リスクは常にある。セーヌ川で泳げるかどうかは100%確実ではないが水質の改善傾向からすると可能性は高い」と話しています。