“世界一の選手を目指して” バレーボール 石川祐希

パリオリンピックで52年ぶりのメダル獲得を目指すバレーボール男子の日本代表。世界ランキング2位にまで押し上げる原動力となったキャプテンの石川祐希選手(28)は『チャンスがある』と強調しました。

大学在学中の2014年から世界最高峰のイタリア1部リーグに挑戦。以来、イタリアでプレーを続け、来シーズンからは今季のリーグ王者、ペルージャへの移籍が決まりました。

一貫して掲げるのは“世界一の選手になる”という目標。日本代表としても個人としてもその目標にまた一歩近づいたなかで迎える自身2回目のオリンピック。大会への特別な思いをNHKの単独取材で語りました。
(スポーツニュース部 記者 今野朋寿)

イタリアで挑戦を続ける理由

ことし4月上旬、イタリア・ミラノ。

石川選手は、所属するイタリア1部リーグのミラノがプレーオフに臨むなか、NHKの取材に応じました。

インタビューの場所はミラノ市街を一望できる郊外の小高い丘。りんとした表情でカメラを見据えた石川選手。まず、およそ10年にわたって海外で挑戦を続けてきた理由を語りました。

石川祐希 選手
「イタリアリーグにはオリンピックや世界選手権でメダルを取っているトップ選手たちが多く在籍している。世界一の選手になるためには、ここでトップになることが1つの証明だと僕は思っていて、それをつかみ取るためにここにいる」

イタリアにこだわり続けて5クラブ目。

在籍4季目となったミラノでは10代や20代前半の若い選手も多いなか、石川選手は得点源としてだけでなく、精神的な支柱としてもチームを引っ張ってきました。

マテイ・カジースキ選手

チームメイトでリーグMVPに輝いたこともあるブルガリアのマテイ・カジースキ選手のことばが、その存在の大きさを物語っています。

カジースキ選手
「チームの中でも重責を担い、それを見事に果たしている。苦しいときには誰もが彼を頼る。石川選手がコートにもたらすものは心の強さであり、それが強さの源だ」

コート外でも積み重ねる努力

チームから支給された車で練習に向かう石川選手

取材では石川選手の自宅にも伺いました。

バレーボールに多くの時間を費やす日々のなか、部屋に置かれたものは少なくきれいに整頓されていました。

そして、テーブルに置かれていたのはイタリア語の教材。

語学も堪能な石川選手ですが、コート外での努力のあとが垣間見えます。

専属トレーナー 野口嵩広さん

プレーオフの最中、日本から駆けつけていたのが専属トレーナー、野口嵩広さん。

石川選手が高校生のときからプレーを支えています。

多いときには週2回の試合を重ねていく厳しいシーズン。体のケアには細心の注意を払い、タイミングを見て野口さんが訪れマッサージや治療を行います。

そしてコンディションの維持だけでなく常に進化しようと、去年からは自宅でのエクササイズも始め、この日も体幹や関節の動きを入念に確認していました。

野口嵩広さん
「レベルが極めて高い世界なので練習から常にいい状態をどのようにして作るか。質の高い練習を重ねて試合に臨むというのは石川選手もこだわりを持っている」

石川祐希 選手
「常にバレーボールのことを考えて生活するということが一番。その点はほかの選手とは違うところ、自分がこだわりを持ってやっているところ」

勝ち取ってきた信頼

4月3日。ミラノで行われたプレーオフ準決勝、ペルージャとの第2戦。試合2時間前の午後6時すぎからミラノのホーム会場に集まり始めるファンたち。

日本の公共メディアであると伝えると、ミラノファンの60代の女性が快くインタビューに答えてくれました。

60代女性ファン
「石川はすばらしい選手だ。ジャンプ力、プレーも美しい、チームビルディングでも彼が中心だ」

地元ファンからも高く評価されるリーダーシップ。そして何よりも驚いたのが会場内での声援でした。

イタリアの選手よりも石川選手に送られる声援がひときわ大きかったのです。

試合は常にペルージャに先行される厳しい展開でしたが、ミラノも石川選手を中心に粘りを見せ、フルセットに持ち込んだ末に逆転勝ちする劇的な結末で終わりました。

この試合で19得点を挙げてチームを勝利に導き、世界最高峰のリーグで積み上げてきた信頼と実績の大きさを示しました。

「みんなが苦しいときに助け、チームがどんな状況でも前を見続けさせることが僕の役割。会場で僕の名前が呼ばれたときに歓声が大きくあがるのはうれしいし、今まで積み上げてきたというか僕がいいプレーを続けられているからこそ地元の人たちに受け入れられている。とても幸せなこと」

パリ五輪への決意

強い意志を持って海外で成長を続ける石川選手。

パリオリンピックに向けて強調したのは、メダル獲得への自信でした。

「日本代表の個々の能力もどんどん上がってきていてチーム力も上がっている。今までもメダルを取ることを目標でやっていても心のどこかで『難しいんじゃないか』とかそういう気持ちを持っている選手が少なからずいたと思う。でも今は間違いなく全員が『メダルを取るんだ』という気持ちで代表に集まってくる。今がチャンスだなと思う」

そして、日本代表での自身の役割はクラブと変わらないと言います。

“苦しいときに頼りになる”

キャプテンとして、心技体ともに万全な状態で臨む自身2回目の大舞台。目標を現実にする強い決意があります。

「苦しいときに頼りになる『祐希がいれば大丈夫』と言われる存在でいたい。自分の人生を賭けて臨む大会に間違いなくなる。絶対にメダルを取るんだという強い気持ちでやらなければ取れないものだと思うので、その覚悟と強い意志は必ず必要になる。パリオリンピックでやりきった姿を皆さんに見ていただきたいし、その結果がやっぱり一番いい色のメダルで終われるようにイメージしながら臨みたい」

◇◇取材こぼれ話◇◇

ある日のイタリアでの夕食。

高校時代から一緒に過ごす野口トレーナーとの会話から石川選手の思いが…

<競技普及への思い>
「子どもたちがやりたいと思えるスポーツになってほしい。そのためにもまずは日本代表で結果を出して『代表ってかっこいいな!バレーボール始めたい!』と思ってもらいたい。やはり代表で結果を残すことが一番影響を与えると思っているので、代表での活躍だったり見られ方というのは大事」

<海外挑戦への思い>
「海外に出る選手が増えて欲しい。新しい環境、慣れない国で力を発揮するのは大事なことで、それを経験したらより選手としても人としても成長できる。成功、失敗ではなくて新しい環境に身を置くことが僕は大事だと思う」

(2024年4月17日「ニュースウオッチ9」で放送)

《基礎情報》石川祐希(いしかわ・ゆうき)選手

▽生年月日:1995年12月11日
▽出身地:愛知県
▽主な実績:
・星城高校→中央大→イタリア1部リーグ(2014~)→ミラノ(2020~2024)→ペルージャ(2024~)
・日本代表(2014~) 東京五輪代表