NATO ロシアに対する防衛態勢強化 最前線の「飛び地」では

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATO=北大西洋条約機構は北欧で加盟国を拡大し、ロシアに対する防衛態勢を強化してきました。一方、ロシア側の最前線にある「飛び地」では緊張感が高まっています。

ロシアで最も西に位置するカリーニングラード州は、人口およそ100万、日本の岩手県ほどの面積です。

第2次世界大戦の終結まではドイツ領で、ケーニヒスベルクと呼ばれ、今も市内の一部にはドイツ風の町並みが残っています。

大戦後、当時のソビエトが領土に編入しましたが、ソビエト崩壊に伴いバルト三国が独立。

カリーニングラードは、NATOとEU=ヨーロッパ連合に加盟するポーランドとリトアニアに挟まれる「飛び地」となっています。

カリーニングラードのバルト海に面した沿岸にはロシア海軍の主要艦隊の一つ、バルト艦隊の拠点が置かれ、NATOに対抗するための重要な戦略拠点となっています。

ロシアのプーチン政権は、核弾頭を搭載できる短距離弾道ミサイル「イスカンデル」や地対空ミサイルシステム「S400」、さらに極超音速ミサイルだとする「キンジャール」なども配備したとして軍備増強を進めてきました。

一方、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、去年、北欧のフィンランドがそして、ことしはスウェーデンが相次いでNATOに加盟し、NATO側はロシアと対じする上で戦略的に重要なバルト海を加盟国で包囲する形になりました。

NATOは6月、20か国による大規模な合同軍事演習をバルト海で実施し、カリーニングラードの対岸からおよそ300キロのスウェーデンのゴットランド島でも演習を行うなど、ロシアを念頭にした防衛態勢を強化しています。

こうした動きに対し、プーチン政権はことし2月、カリーニングラードを含む地域を「レニングラード軍管区」として再編し、NATOと向き合うロシア北西部で軍の機能強化を図る動きを見せています。

6月には、レニングラード軍管区の部隊やロシアと同盟関係にあるベラルーシの部隊も参加して戦術核兵器の使用を想定した軍事演習を行い、核戦力も誇示してNATOへの威嚇を繰り返しています。

また、EUはロシアに対する制裁を強化していて、ロシアからEU加盟国のリトアニアを経由してカリーニングラードに通じる陸路での輸送も制限しています。

ロシアと欧米諸国との対立が激化する中で、カリーニングラードは軍事的な緊張とともに経済的な対立を象徴する場となっています。

「飛び地」の市民からは

ロシアとNATO諸国との間で対立が深まっていることについて、ロシアの飛び地、カリーニングラードの市民からはさまざまな声が聞かれました。

このうち、若い男性は「NATO加盟国が拡大し、特にフィンランドとスウェーデンの加盟によって、NATOの艦隊が拡大したことは気をつけなければならない」と述べ、警戒感を示しました。

そのうえで「われわれには、海軍のバルト艦隊やFSB=連邦保安庁がいる。何も恐れることはない。誰が来ようとも、カリーニングラードの市民は故郷を守るために武器を手に取るだろう」と強調していました。

また、別の若い男性は「もちろん緊張は続いているが、パニックにはなっていない」と述べた一方で「生活費が高騰している。貨物はフェリーで運ばれるなど輸送が複雑になったからだ。経済的には厳しくなった」と述べ、ロシアに対するEUの制裁の影響で物価が高騰していると不満を口にしていました。

さらに、若い女性は「商品が届くのに2、3週間待っている。最初は1週間以内に届くのが難しかったが、いまではもう3週間だ」と述べ、物流の混乱は慢性化しているとしました。

そのうえで「ここで何かが起きてしまっても われわれには逃げ場がない。囲まれているからだ。影響がでないように政府ができるかぎりのことをしてくれることを願うばかりだ」と述べ、ロシア政府に改善を訴えていました。

国際問題の担当者 “非常に重要な位置 前哨基地だ”

カリーニングラード州で、国際問題などを担当するトップ、アラ・イワノワ氏がNHKの単独インタビューに応じました。

イワノワ氏は「カリーニングラードは、地理的、地政学的に非常に重要な位置にあり、ヨーロッパで起こっているすべての変化を敏感に感じている状況だ。そのような必要が生じないことを望むが、常に備えが必要だ。つまり前哨基地なのだ」として、NATOとの緊張の高まりを受けて、ロシアの戦略的な拠点として重要性が増していると述べました。

そして「隣接するポーランドやリトアニアで駐留するNATO部隊の数が増え続けている。フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟したことで『バルト海はNATOの内海だ』と主張するものもいる。もちろんこれは挑発行為だ」と述べ、カリーニングラードの周辺でNATOの活動が拡大しているとして警戒感を示しました。

また、イワノワ氏は、EUからの制裁によって、隣接するポーランドやリトアニアのほか、ドイツなどとの人の往来が大きく減ったとしたうえで「EUの制裁によって、鉄道や道路による貨物の移動が制限され、カリーニングラードとロシア本土との間の輸送に大きな乱れが生じた」と述べ、ロシア本土からリトアニアを通過してカリーニングラードに運ばれる輸送にも影響が出ていると訴えました。

中でも、セメントなどの資材について「ロシアから現在、海路で輸送されているがこれは当然、時間がかかり、費用がかさむ」と述べ、輸送が滞っているため国営の文化施設の建設などに遅れが出ていると主張し、EUの制裁を批判しています。

地元メディア編集長 “火薬庫の上に座っているようなもの”

カリーニングラードの地元メディアの編集長、アレクセイ・シャブニン氏は、NHKのインタビューに対し「カリーニングラードはロシアで最もぜい弱な場所だ。万が一、軍事衝突が起これば、カリーニングラードはすぐに袋だたきにあうことになる」と指摘しました。

一方で、ロシアにとってカリーニングラードの重要性は増しているとしたうえで「NATOの潜在的な敵対勢力を監視しているからだ。バルト海でのNATOの軍事演習は、当然、ロシアのバルト艦隊が監視し、NATOの軍用機が飛び立てば、ロシアの軍用機も離陸する。いわゆる空中戦が増加している」と指摘しました。

そのうえで、ロシアの民間の航空機がリトアニアなどNATO諸国の領空に侵入する事案も起きていると指摘したうえで「ウクライナで激しい戦闘が起きている中、こうした事案がもっと不愉快なものにエスカレートする可能性がある。われわれは火薬庫の上に座っているようなものだ。今は平穏だが、誰かが火をつければすべてが炎上する」と述べ、不測の事態が起きれば軍事的な緊張が一気に拡大しかねないとして警戒感を示しました。

一方、シャブニン氏は「カリーニングラードは現在、リトアニア経由のトランジットが制限され、海上ルートしかない。市民にとっての不満はNATOではなく、物価だ」と述べ、市民にとってはNATOに対する警戒感よりも物価高騰に対する不満が強くなっていると指摘しています。