お好み焼きソース開発 カギ握るデータ分析

お好み焼きソース開発 カギ握るデータ分析
広島と言えば、お好み焼き。その味の決め手に欠かせないのが「ソース」です。

そのソースの開発現場で活用されているのが、実は建設現場の技術。どのようなものなのか、取材しました。

(広島放送局記者/児林大介)

“近い味”を探すソース開発

創業100年あまり、国内トップシェアを誇る広島市のソースメーカー「オタフクソース」。

この会社では、お好み焼きのソースに加えて、たこ焼きやハンバーグのソースなど、自社ブランド以外の商品も含めると、年間、百数十件の新商品を開発しています。
これだけのソースの味をどのように開発しているのか。

開発ではまず、目指す味のイメージをもとに、“近い味”を探すことから始めます。
“近い味”がベースになって、味を足したり引いたりして、新しい商品を生み出します。

6月に私が開発現場を訪れたときには、「深み」や「コク」のあるハンバーグ用のデミグラスソースを作ろうと、開発が行われていました。
“近い味”のソースは、過去の商品や試作品の中から探します。

手がかりは、試作を担当する社員たちが働く開発室内の棚にずらりと並んだファイル。
このファイルには、ソースの材料や分量、作り方など社外秘のレシピが記されています。

取材に入った私たちには一切見せてもらえず、撮影も許されませんでした。

棚を見ていくと、色あせた昭和の時代のファイルもありました。
レシピはおおむね40年分、全部で数万件に及びます。

この中から材料や分量の特徴を見て“近い味”を探し出します。
経験豊富な熟練社員であれば、「今回開発しようとしているソースは、何年ごろに作ったあのソースが近いかもしれない」と、素早く見当をつけることができますが、若手が担当すると数日かかることもあるといいます。

また、人によって、見つけてくる“近い味”が違うといった「個人によるばらつき」もありました。

建設現場の技術を応用

経験と感覚、そして大量のレシピを頼りにしていた味の開発を数値化・データ化できないか。

このソースメーカーがタッグを組んだのが、大手機械メーカー「IHI」です。

もともと生産設備で取り引きがありましたが、研究開発でも連携を広げられないかと考えました。

その中で注目したのが、コンクリートの塩分濃度を測定する機械。
海の近くにある橋桁などの塩害の影響を調べるのに使われてきた機械で、赤外線をコンクリート製の橋桁に当てて、反射光を分析することで、表面に付着している塩分濃度が計測できます。

この技術を応用して、ソースに含まれる成分を分析できるAI=人工知能を作り出しました。

ソースに赤外線を当てることで、「塩分」だけでなく、酸性・アルカリ性の度合いを示す「pH」や「酸味」といった味の特徴に加えて、「粘りけ」、要は食感まで分析、数値化できます。

AIを使うとどうなる?

1年前から試験的に開発現場で導入されているAIをどう活用しているのか。

例えば、どれくらいの塩分濃度や酸味を目指すのか、具体的な数値を打ち込んだり、「濃厚」や「辛口」など、イメージとなるキーワードを入力したりして、検索エンジンのように検索します。

すると、AIが学習済みの過去10年分、およそ1万5000件に及ぶ、過去の商品や試作品の中から“近い味”のソースを探し、一覧で示してくれます。
数日かかることもあった作業が、一瞬でより的確に行えるようになりました。

AIを活用して商品化したソースはまだありませんが、今後、開発にかかる時間を飛躍的に短縮できると考えています。
さらに、これまでは人間が「塩分控えめでトマトを感じる、より粘りの強いもの」などと、ことばで伝えていたものが、具体的に数値化されたことで、社員の間の納得感が高まったといいます。
オタフクソース研究室 吉田充史 室長
「今まで時間がかかっていたものが、極端に言えば、ボタン1つ押せば類似の味を選んでくれることが大きなメリットです。頭を使わない部分はAIを活用して、そこから先のいろいろなアイデアを出していくところは人間の脳を使って進めていきたいと思っています」

学習続け、提案力高める

一方、思わぬ効果も出ています。

新たなAI技術の導入で、特に若手を中心に「AIを使って先進的なことをやっている」という、ものづくりに対するワクワク感やチャレンジ精神など、意識の変化も生まれたといいます。
会社では今後本格的な導入を進めるために、AIにさらに多くの味のデータを学習させることにしています。

さらに、味だけではなく、香りのセンサーを組み込むなどして、精度を高めることも検討しているということです。

そして、ソースだけでなく、「タレ」や「酢」にも活用の幅を広げていく考えです。
吉田充史 室長
「今まで以上にAIを勉強して、活用していきたいと思っています。AIの世界は進歩のスピードが速いので、まずは使ってみることが大事だと思っています。そうしたAIの提案を参考にしますが、人間はそれ以上のアイデアを持っていますので、社員の力で、さらにレベルの高い味を目指していきたいと思います」
最近では、コンビニの総菜に使われるソースなど、その時期の売れ筋やトレンドもあり、スピーディーな開発が求められることも少なくありません。

異業種との連携で生まれたAI技術で、さらにおいしいソースが開発されることを期待したいと思います。

(7月9日「おはよう日本」などで放送)
広島放送局記者
児林大介
2006年入局
鳥取→和歌山→東京→盛岡→広島 5つの放送局で勤務
ニュースウオッチ9リポーターとして全国のさまざまな現場を取材