都知事選 小池百合子知事が勝利 舞台裏で何が?

都知事選 小池百合子知事が勝利 舞台裏で何が?
継続か刷新か。

首都・東京のトップを決める決戦は、当初、現職の小池百合子知事と元参議院議員の蓮舫氏との2強対決と見られたが、政党の支援を受けない広島県安芸高田市の元市長、石丸伸二氏がこれに割って入る展開となった。

そして、現職の小池知事が勝利した。

舞台裏では何が起きていたのか、選挙戦を追った。
(首都圏局都庁クラブ、社会部 取材班)
※7日夜の発言を加えて更新しました。

公務との「二刀流」

3期目を目指した小池。
今回の選挙では「選挙と公務の『二刀流』」を掲げ、平日は公務を優先し、土日に街頭演説を行う計画で選挙戦に入った。

陣営は「71歳の小池の体力面を考慮して序盤は抑える戦略だ」と話した。

小池が頼りにしたのがAIだ。
自身のSNSに、生成AIを活用してつくった「AIゆりこ」を登場させた。
民放でのキャスター経験もある小池自身が発案したという。
公務で時間を取られる小池に代わり、もう1人の「ゆりこ」が、18歳以下への月5000円の給付や高校授業料の実質無償化といった実績を発信している。
選挙期間で初の週末となった6月22日と23日、小池が初の演説場所に選んだのはいずれも人口が1万人に満たない、離島の八丈島と山間部の奥多摩町だった。
これは「川上戦術」とも呼ばれる選挙戦術で、有権者の少ない地域から入り、終盤にかけて有権者の多い都市部に入って選挙を盛り上げていくとされる。
かつて小池が側近として支えた小沢一郎が得意とした手法だ。

組織の支援は

小池に対して、自民党、公明党、国民民主党都連、地域政党「都民ファーストの会」は「自主的な支援」という形をとった。

小池陣営の関係者によると、ほかの候補者から自民党と一体と見なされて与野党対決の構図に持ち込まれ、政治とカネの問題での逆風を受けることを避けるためだったという。

選挙前には、小池から自民党などに対し「あまり目立たないように」とくぎを刺す場面もあったという。
選挙期間中、自民党などの議員が小池と一緒に演説を行う姿は見られなかった。
党関係者によると、都議会議員らの主な活動は選挙運動用のハガキ出しやビラまきの手伝いが主なものだったという。
7月2日、自民党都連が中心になって呼びかけ、小池のために各種団体を集めた決起大会でも、党所属議員の出席は許されなかった。

都連関係者からは、小池から活動をコントロールされているとも言える状況に、ため息のような声が漏れた。
「自民党がこんなに静かな都知事選挙は初めてだ」(都連関係者)
自民党側が小池に気を遣うのは都議会議員の補欠選挙があったからだ。

都知事選と同日に投票が行われる都議補選に、自民党は9選挙区のうち8選挙区に候補者を擁立。
党への逆風の中、補欠選挙で大敗すれば都議会の運営だけでなく衆議院選挙への影響が避けられず、自民党は小池の知名度を借りて勝利をたぐり寄せたいと考えていたのだ。
そのため、小池の意向に従うしかなかった。

シナリオに狂い??

投票まで1週間を切った7月2日の火曜日。
小池の動きに変化が起きた。

これまで、平日は公務を優先するとしていた小池が秋葉原で街頭演説を行ったのだ。

そこでは、大きな実績の1つとして掲げる子育て支援策を強く訴えた。
「高校授業料の実質無償化などについて『ありがとう』という声を聞いている。世界を担う子どもたちの教育・子育て。みなさんの負担ができるだけかからないようにする。そんな東京にしたい」
その後も、平日、都内各地を回って、主張を訴えた。

なぜ、当初の計画を変えたのか。

直近の情勢を踏まえ、小池を支えてきた関係者は「石丸が追い上げてきている、もっと街頭演説をやったほうがいい」と助言。

小池は真剣にこのアドバイスに聞き入っていたという。

石丸とは何者か

現職・小池を猛追した石丸。

京都大学を卒業後、今の三菱UFJ銀行に入りアナリストとして金融市場の分析や調査に携わる。

そして4年前、生まれ育った広島県安芸高田市の市長選挙に立候補して初当選。

そしてその職を辞し、東京や日本の発展のためには、東京の過密解消と多極分散を実現することが重要だと訴えて立候補した。

拡散する批判姿勢

石丸は今回の選挙を通じ、ネット上の知名度を飛躍的に高めた。
YouTubeの公式チャンネルの登録者数は、告示日には13万人だったのが、7月3日時点では2倍の26万人にまで増えた。

4年前、安芸高田市長に当選した石丸が、注目を集めたきっかけはSNSだった。

市議会で居眠りしていた議員がいたとみずからのSNSに投稿し、議会側との対立が表面化。
議員を批判する様子などが拡散され、注目を集めた。

今回の選挙戦でも、「政治屋の一掃」を実現したい政策として掲げ、既存の政治を批判する姿勢で臨んだ。

そして、相手にも斬り込んだ。
候補者討論会でのことだ。
特定の事業者による政治資金パーティー券の購入の有無について、蓮舫に聞かれた小池が「法律にのっとった形で公表をさせていただいている」と答える場面があった。
これに石丸が「イエスかノーかで答えられるので、イエスかノーかで答えていただきたいと、恐らく視聴者全員が思ったと思う」と小池に改めて発言を求めたのだ。
ネット上では、このやりとりを切り抜いた動画が拡散された。
石丸は、連日、都内各地で街頭演説を行い、多い日では10か所以上となり、大勢の人が詰めかけた。
そして、街宣車には「撮影・拡散OK」の張り紙。石丸の街頭演説の映像がSNSで拡散することを促していた。

さらに、演説が終わった夜には、自身のYouTubeで、視聴者とコミュニケーションをとる配信を行った。
このようなYouTube配信について取材した際、取材陣にもパソコンのカメラを向けて配信を始め、マスメディアを批判する場面もあった。
「テレビ局、新聞社、たかだか2次情報を扱う身で、世の中を動かしたつもりになってませんでした?」
ある演説の中で、石丸は「ネットの力がリアルに広がる面白い時代になってきたと感じる」と手応えを示した。
一方、陣営を仕切る幹部は「今回の得票率を政界に見せつければ、次の国政選挙などにつながるのではないか」と話した。

蓮舫氏の立候補表明

もう一方の蓮舫。
政界関係者の大方の予想では立候補しないと見られていた。

立憲民主党の関係者によると、ごく一部の関係者で調整を進めていたという。

そして立候補決断の理由について、こう説明した。
「地方選挙で野党系の候補者が相次いで勝利していたことに加え、党の情勢調査で小池氏との差が大きくなかったことが背中を押した。仮に勝てなくても、良い勝負ができれば、次の衆議院選挙に向けて勢いづく」(立憲民主党の関係者)
蓮舫は立候補表明の会見で、「反自民政治」と「非小池都政」を強調した。
「国民の声は、裏金議員や政治とカネの問題がある自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットしてほしいというものだ。その先頭に立つのが私の使命だ」

蓮舫陣営に不協和音?

蓮舫陣営が選挙を戦うにあたって意識したのは、幅広い勢力の結集だ。
6月12日には小池の立候補表明にタイミングをあわせて立憲民主党を離党。
政党色を薄め、無党派層を中心に支持の獲得をねらった。

しかし実際は、立憲民主党や共産党が党を挙げて支援した。
立憲民主党は代表の泉健太をはじめ、枝野幸男や野田佳彦ら、共産党は参議院東京選挙区選出の吉良よし子らが連日、街頭に立ち、声を張り上げて支持を訴えた。
演説前には、共産党の地方議員なども一緒にマイクを握り「蓮舫を知事に」と呼びかけた。

しかし、選挙戦中盤に入ると、この連携のあり方に、それぞれの政党から疑問の声が漏れ聞こえてきた。
立憲民主党の都議会議員の1人は不安を隠さなかった。
「共産党が前に出すぎている。『立憲共産党』のイメージがついて回り、無党派層などに支持が広がっていないのではないか」(立憲民主党の都議会議員)
一方、共産党の都議会議員の1人は、こう明かした。
「『政党色を出したくない』というのはよくわかるが、こちらの陣営からは『立憲民主党の宣伝になっている』という不満が噴出している。当初はかなりの熱があったが、みんなしらけつつある」(共産党の都議会議員)
こうした両党の不協和音が蓮舫の失速につながっているのではないかと、立憲民主党のベテラン議員は焦りを隠さなかった。
「蓮舫は苦しいかもしれない。無党派で石丸に負けるという記事も出ているし、支持の広がりがない。3位になることはないと信じたいが、もし3位になったら蓮舫の今後は厳しい」(立憲民主党のベテラン議員)
攻撃力や発信力には定評のある蓮舫。
選挙戦終盤になると、情勢への危機感からか親しみやすさを全面にアピールし始めた。

序盤の平日は夕方に街頭演説を1回行うのみだったが、終盤にかけて「会いに行ける蓮舫」を打ち出し、昼間の時間を使って商店街を練り歩いたり、蓮舫みずからが選挙カーに乗って街に繰り出したりと、有権者に顔を見せる機会を増やしていった。
フォロワー50万人以上の自らのXでも、多いときで10分に1回のペースで発信。

数日おきに実施したインスタライブでは、Tシャツの部屋着姿で登場して愛犬や子育て経験を語るなど、国会で与党に対峙する蓮舫とは異なる一面も見せた。

不協和音がささやかれた立憲民主党、共産党の関係については、お互いが譲歩して一体感が出てきたとして、陣営からは「全部やる、どぶ板選挙モードだ」という声も聞かれるほどだった。

結果は小池勝利

17日間に及ぶ選挙戦を終え、投票が行われた7月7日。
七夕の夜に勝利したのは小池だった。

小池は…

小池はこう述べた。

「8年間の実績を評価していただいた。これまでもチルドレンファーストの政策を進めてきた。『018サポート』や高校の授業料の無償化、子育てと教育にお金や負担がかからない東京を目指している。第2子までの保育料無償化をさらに広げ、第1子からという設計を進めていきたい」

「何度も選挙を経験したが、これまでなかったような選挙戦だった。知事という席をめぐり私を含め56人が立候補という状況で、ポスターの掲示、さらには脅迫を受けたり、街頭ではやじの大合唱があったり、これまで経験したことがないような選挙戦だった」

石丸は…

一方、石丸は午後8時すぎ、支持者を前に、こう述べた。

「今回、私のチームは本当に全力を尽くせたと思う。結果においては都民の総意が表れた。それだけです。私から何も申し上げることはありません」

その上で記者から国政選挙への考えについて聞かれると…
「選択肢としては当然考えます。たとえば広島1区。岸田首相の選挙区です」

蓮舫は…

そして、蓮舫は。
「子どもの支援だったり若者の支援だったり、それが結果としてシニアの支援につながる循環型の東京を作りたいという思いは全力で訴えたつもりだったので、結果として届かなかったのは私の力不足で申し訳ない」

また、次の衆議院選挙に立候補する考えがあるか、記者団から質問されたのに対して…
「きょうは私の思いが届かなかった結果が出た日なので、それに対して私に何が足りないのかは少し考える時間を下さい」
(文中敬称略)
(7月7日放送)
首都圏局 都庁クラブ 記者
中村大祐
2006年入局。奈良局、福岡局、政治部、スポーツニュース部を経て2022年から首都圏局。趣味はラグビー観戦。
首都圏局 都庁クラブ 記者
尾垣和幸
新聞記者を経て2017年に入局。神宮外苑の再開発や子どもの発達障害などを取材。手料理に一定の自信あり。
首都圏局 都庁クラブ 記者
生田隆之介
2014年入局。長野局、札幌局を経て首都圏局。PFAS問題や築地再開発、発達障害などを取材。休日は育児とサッカー。
首都圏局 都庁クラブ 記者
金魯ヨン(※ヨンは火へんに英)
通信社記者などを経て2022年入局。精神科病院問題や卵子凍結など幅広く取材。趣味は「ボドゲ」と銭湯。
首都圏局 都庁クラブ 記者
川村允俊
2018年入局 長野局を経て首都圏局。 カスタマーハラスメント対策や防災分野などを担当。趣味はテニス。
首都圏局 記者
牧野慎太朗
2015年(平成27年)入局。宮崎局、長野局を経て2022年から首都圏局。
社会部 記者
牧野大輝
前橋局・青森局・広島局を経て現職
2022年8月から事件・事故などの取材にあたる。