変わらぬ風景 それでも信金は

変わらぬ風景 それでも信金は
「風景が変わらない」

地元の信用金庫のトップは、いまも倒壊した家屋があちこちに残る被災地の現状を、こう表現しました。

それでもみずからの役割について「事業者がひとりで考えることに寄り添い一緒に考えてあげること」と力強く語りました。
(NHKスペシャル取材班 経済部 榎嶋愛理)
NHKスペシャル「うちらがせんと誰がする ~能登・信金職員たちの6か月~」
7月6日(土)総合 午後10:00~10:50 初回放送
※NHKプラスで同時配信・見逃し配信

戻らない日常

能登半島地震の発生から半年、私たち取材班は、地元の信用金庫への取材を続けてきました。

奥能登2市2町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町)を地盤とする「興能信用金庫」です。
信金は銀行とは異なり、法律によって、原則、営業するエリアが限定されています。

地域の盛衰と一蓮托生(いちれんたくしょう)、運命共同体とも言える金融機関です。

この信金も21店舗のうち9店舗が一時、休業を余儀なくされました。

それでも職員たちは、地震の直後から取引先を1軒1軒丹念に回っていました。
「困ったことがあれば言ってください」

取引先にそう声をかけ続ける姿からは、地域から目を背けることなく、正面から向き合って復旧・復興させるという思いがあふれていました。

この信金でおよそ200人の職員を率いているのが田代克弘理事長です。

これまでも取材に応じてもらってきましたが、地震から半年を前にした6月、改めて話を聞きました。
Q.今の復興の状況をどう捉えているか
田代理事長
「経済活動は進んできたとは思う。ただ一方で、風景が変わらない。倒壊家屋の処理が進まない、解体が進まないというのは、そこで『なりわい』を立てようとする事業者さんや従業員さん、地域の人たちが、どう生活の基盤を立てていくのかを決めかねているという状況を表していると思います。だから事業者さんにとっても、従業員を集めることもまだ困難なところがある。再開した事業者はあるけど、元の状態に戻るにはまだ時間がかかるというような状況です」

信金の使命とは

確かに、取材に行くたびに目に入ってくるのは、倒壊したままの家屋や崩落したままの道路です。
ときおり工事用のコーンが見えても作業する人の姿はなく、工事が進んでいる気配は感じられません。

住民からは「まだ水が出ていない」「人の姿をほとんど見ない」という声も耳にしました。

「観光客も多く、にぎわう金沢から見放されてしまっているのではないか」という悲痛な叫びを聞くと、金沢市から車で2、3時間のこの地域だけが取り残されているような感覚にもなりました。

事業者の状況も厳しく、興能信用金庫によると、奥能登地域にある690の融資先のうち、再開見込みが立っていない事業者が48、すでに廃業を決めた事業者が41に上っています。(5月31日時点)
廃業した業種は、飲食店、製造業、医療・福祉と、住民たちの生活を支えていた事業者が少なくありません。

事業の継続を断念した珠洲市のプロパンガスの販売業者は、倒壊した店舗の前で「気持ちがもう折れちゃった」と、心情を打ち明けました。

金沢など別の地域に避難したり移転を決めたりする事業者も出ています。

そんな中、職員たちは事業の再開意欲を持つ人たちを見つけては、支援の形を探す日々を送っていました。
Q.信用金庫は事業者にとって最後のとりでとも言える。信用金庫次第で事業が途絶えてしまうこともある?
田代理事長
「そうですね。まずは続けることが一番大切だと思うんです。なぜならば、この震災においては復旧が一番先だから。まずは原状に戻すことが先なので、これに対する努力をすることが一番先だろうと思うんです。その上で、事業が継続できるのかどうかということを考える。東北の地震からは13年、熊本の地震から8年が経った。こうした時間の中で、社会的な課題、事業者の高齢化の問題も含めて出てきているわけだけど、難しい課題と向き合いながら考えていくことが必要になっています」
「私たちがしないといけないことは、事業者さんがひとりで考えることを、自分たちが寄り添う、一緒に考えてあげること。一緒になって未来を見ていくような形が、次の一歩を踏み出せるかどうかにつながるんじゃないかと思うんです。本当にできるかどうかは最終的に事業者さんが決めることだと思うんです。苦しくても頑張るとなれば、やっぱり応援しようとなるし、本当に厳しいのであれば、場合によっては出口を探すのも1つの考え。できるだけそうならないように、最善の努力、最大の努力はしなければいけないと思っています」

能登の復興の形とは

この地域は、少子高齢化や人口減少が進み、地震の前から課題の先進地と呼ばれていました。
今回の地震の復旧・復興をめぐっては、4月に、財務大臣の諮問機関「財政制度等審議会」が、今後のインフラ整備は人口減少が続くことを念頭に進めていく必要があり、住民の意向を踏まえつつ集約的なまちづくりを検討すべきだと指摘、地元からは反発の声が出ました。

目の前の現実を踏まえて復興の形を模索するのは、重く難しい課題です。
Q.理事長が考える復興の形は。今後、能登をどうしていきたいか。
田代理事長
「復興を10年単位で考えれば、間違いなく少子高齢化や人口減少といった課題がさらに顕在化する。だから単に復興ということだけではなく、事業者さんたちがどう付加価値、生産性をあげていくのか、一緒に考え一緒に行動していくことがわれわれに求められていることだと思うんです。

能登には世界にも通用する地域資源がある。輪島塗、珠洲焼、揚げ浜式の塩作り、能登ワイン、焼酎、海鮮、能登牛。もう挙げればきりがない。希望的なものではなく実際にデータとしても外からお金を稼いでいるということが現れています。時間は長くかかってしまうかもしれませんが、復活する事業者さんも多く出てくると思うんです。

金融の枠を少し飛び出しても、他機関、支援機関と連携するなどして、事業者の意見を大切に進めていきたいと考えてます。地域があって、自分たちも存在できています。地域の一員として信用金庫としての役割、機能を発揮することそれは責務です」

能登ならではの復興を

田代理事長は、東日本大震災や熊本地震など過去の事例を徹底的に調べ、能登ならではの復興の絵姿を考え始めています。
地域の資源をいかして地域の外からのお金や人材を呼び込めば、復旧・復興、そして、その先の持続的な経済を実現する道は開けるという信念に揺らぎはありません。

地域に根ざすことを使命とする信金として何ができるのか。

職員たちは、きょうも走り続けています。
経済部 記者
榎嶋愛理
2017年入局
広島局を経て経済部
金融分野を担当