年金「財政検証」将来は? “給付目減りも収入の50%以上維持”

公的年金の財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しを示す「財政検証」の結果が公表され、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、給付は目減りするものの、現役世代の平均収入の50%以上は維持できるとしています。

厚生労働省は、前回・5年前より見通しが改善したとして、国民年金保険料の納付期間の45年への延長は見送る方向です。

「財政検証」は、5年に1度行われることになっていて、厚生労働省は3日開かれた社会保障審議会の年金部会に結果を示しました。

今の年金制度は、将来に備えて、給付水準を物価や賃金の上昇率よりも低く抑える「マクロ経済スライド」が導入されていますが、現役世代の平均収入を100%として、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額の割合=「所得代替率」は、50%を下回らないようにすることが法律で約束されています。

今回の検証は、長期の実質経済成長率が、プラス1.6%から、マイナス0.7%までの4つのケースを想定し、それぞれ、「マクロ経済スライド」による給付の抑制がいつまで続き、どの程度、水準が低下するのか、試算が行われました。

それによりますと、経済成長や労働参加が順調に進むとした2つのケースでは、いずれも給付の抑制は、2030年代の後半まで続き、所得代替率は57%前後となります。

今年度の所得代替率、61.2%と比べると、4ポイント程度の低下にとどまる計算です。

また、経済成長率がマイナス0.1%と、過去30年間と同じ程度の経済状況が続くケースでは、給付の抑制は2057年度まで続き、所得代替率は50.4%と、今より、10ポイント程度、低下するものの、50%以上は維持できるとしています。

一方で、経済状況が悪化し、成長率がマイナス0.7%に落ち込むケースでは、2059年度に国民年金の積立金がなくなり、その後、所得代替率は30%台に落ち込むとしています。

厚生労働省は、今回の検証結果について、女性や高齢者の労働参加が進んだことや外国人の増加で、少子高齢化の影響が緩和されたことに加え、株価の上昇を背景に積立金が増えたことなどから、前回・5年前の検証結果より将来の見通しが改善されたとしています。

厚生労働省は、結果を踏まえて、制度改正の議論を本格化することにしていますが、国民年金保険料の納付期間を今の40年から45年に延長する案については、検証結果が改善されたことも踏まえて見送る方向です。

「モデル年金」の給付水準

会社員の夫と専業主婦世帯のいわゆる「モデル年金」は、今年度は月額22万6000円で、現役世代の男性の平均手取り収入37万円に対する割合=所得代替率は、61.2%です。

法律では、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合、所要の措置を講じることになっていますが、今回の検証では、5年後の2029年度の所得代替率は、4つの経済前提ケースで59.4%から60.3%と、いずれも50%を上回りました。

さらにその先の将来、給付水準はどうなるのか、経済前提ケースごとにみてみます。

経済が成長する2つのケースでは、「マクロ経済スライド」による厚生年金の給付抑制は来年度以降、必要なくなるとしています。

▽このうち長期の実質経済成長率が1.6%のケースでは、基礎年金の給付抑制が2039年度まで続き、現役世代の手取り収入45万5000円に対する夫婦2人のモデル年金は25万9000円、所得代替率は56.9%になるとしています。

▽また、成長率がプラス1.1%のケースでは、基礎年金の給付抑制が2037年度まで続き、現役世代の手取り収入41万6000円に対するモデル年金は24万円、所得代替率は57.6%になるとしています。

▽成長率がマイナス0.1%にとどまるケースでは、厚生年金の給付抑制が再来年度=2026年度に終了する一方、基礎年金の抑制は2057年度まで続き、現役世代の手取り収入41万8000円に対するモデル年金は21万1000円、所得代替率は50.4%になるとしています。

政府が約束する50%以上の所得代替率を維持する結果ですが、2070年の合計特殊出生率が現在よりも低い1.13となる場合は46.8%、外国人の入国超過が、新型コロナが拡大する前の平均の年間16万4000人よりも少なく、6万9000人にとどまった場合は47.7%で、50%を割り込む試算も示されています。

▽また、経済が悪化し、成長率がマイナス0.7%に落ち込むケースでは、2059年度に国民年金の積立金がなくなって 所得代替率が50.1%となり、その後、37%から33%程度にまで大きく下がるとしています。

男女・世代別の平均年金額は

今回の財政検証では、世代や性別ごとに65歳になった時点での平均の年金額の見通しも初めて示されました。

若い世代ほど、厚生年金の加入期間が長くなる傾向があることから平均額が高くなり、女性の年金額の上昇も顕著になっています。例えば年金額が月額7万円未満の人の割合は、今年度65歳になる女性の25.3%に上るのに対し、今年度20歳になる女性では、過去30年の経済状況が続いた場合でも、12.8%と半分近くに減る見通しです。

具体的に比較しますと、今年度65歳になる1959年度生まれの男性の平均年金額が14万9000円、女性が9万3000円なのに対し、経済が順調で長期の実質経済成長率が1.1%のケースでは、
▽今年度50歳になる男性は15万6000円、女性は10万9000円
▽40歳になる男性は18万円、女性は13万2000円
▽30歳になる男性は21万6000円、女性は16万4000円
▽20歳になる男性は25万2000円、女性は19万8000円となりました。

また、過去30年間と同じ程度の経済成長率がマイナス0.1%のケースでは、
▽今年度50歳になる男性は14万1000円、女性は9万8000円
▽40歳になる男性は14万1000円、女性は9万9000円
▽30歳になる男性は14万7000円、女性は10万7000円
▽20歳になる男性は15万5000円、女性は11万6000円でした。