“配送ロボットがみずから電車に” 物流の課題解決なるか?

“配送ロボットがみずから電車に” 物流の課題解決なるか?
ことし6月、宇都宮市で行われた国内初の実験が、関係者の注目を浴びました。

自動で走行する配送ロボットが、みずから路面電車に乗り込んで、隣町に弁当を届けるという実験です。
その背景には「2024年問題」をはじめとする物流業界の課題がありました。
最先端技術を搭載したロボットは業界の救世主になれるのか、熱い視線が注がれています。

(宇都宮放送局記者 宝満智之)

日本初の実験 舞台はLRT

6月1日、自動で走行する実験用の配送ロボットが、JR宇都宮駅周辺に姿を現しました。

高さはおよそ80センチ、スピードは最高で時速4キロあまり。

周囲には大学生が、心配そうな顔で付き添っています。
ロボットの上部に弁当とコーヒーが積み込まれて、実験がスタート。

ここからは人の手を借りることなく、LRT(次世代型の路面電車)に乗り込み、14キロ離れた隣町まで、配送に向かいます。

ロボットと公共交通機関を組み合わせた実験は、国内初の取り組みです。
尾崎功一教授
「ロボットと電車を接続する実験は、これまで誰もやってこなかったので、それなら最初にやってみようと思いました。どのような条件だとロボットが安定して走るのかは、実際に実験してみないとわからないので」

ターゲットは都市部郊外の配送

実験を主導したのは、宇都宮大学の尾崎功一教授。

20年以上にわたってロボットの研究と開発に携わり、社会問題の解決に向けた「ロボットの社会実装」にこだわってきました。
その1つが、栃木県特産のいちごを自動で収穫するロボットです。

すでに実証実験が終わり、人手不足に悩む県内の生産現場で実用化が期待されています。
そして今、取り組んでいるのが、いわゆる「2024年問題」をはじめとした物流業界の課題です。

深刻なドライバー不足や輸送量の減少が懸念されている今の日本社会で、配送ロボットの実用化は、みずからの使命だと考えています。
すでに山あいの地域では、ドローンによる配送実験なども行われている中、尾崎教授は今回、都市部の郊外の地域を主なターゲットに定めました。

買い物をする場所が少ない郊外では、今後、ネット通販を利用する人がますます増加し、物流の需要が増えることが予想されます。

そこで配送ロボットが街なかを動き回り、バスや鉄道にも乗り込めるようになれば、社会への大きな貢献になると考えたのです。
尾崎功一教授
「ロボットはどうしてもスピードが遅いため、移動できる範囲が限られています。そこでロボットが公共交通機関に乗り込めれば、輸送できる範囲が広がると考えました。これから10年、20年がたてば、高齢者も難なくネット通販を利用できるようになると思うので、郊外への輸送手段が確保できれば、そこに住む高齢者の不便の解消にもつながると思っています」

センサーの認識に課題も

大勢の関係者に見守られてスタートした、6月1日の実験。

宇都宮市のLRTと同じ、黄色と黒に塗られた配送ロボットは、停留場への道のりを順調に進んでいきました。
搭載されている4つのセンサーは、周囲の人や建物を認識できます。

ロボットはさらに、街なかを飛び交う無線LANを感知して、今の位置や目的地までの経路を把握することもできます。

この2つの技術を組み合わせたことで、尾崎教授の配送ロボットは、目的地まで迷わず正確に、自動で走行できるようになっています。

ところが停留場にたどり着く前に、早くも最初の課題にぶつかりました。
近くの建物に入ったところで、位置を把握できなくなり、不安定な動きを始めたのです。

原因は、センサーの誤作動でした。

周囲に多くの関係者が集まったことで、ロボットが人混みを建物の壁などと誤まって認識したのです。

事前に想定されたことではありましたが、大勢が集まる駅や停留場では、センサーを改良する必要があることがわかりました。

ロボットはこのあと停留場に到着し、いよいよLRTに乗り込みます。

乗り込みはスムーズに

尾崎教授が実験前にもっとも心配し、念入りにシミュレーションを重ねてきたのが、この場面でした。

車両とホームの間には、約6センチの隙間があります。

これを乗り越えるには、ある程度のスピードが必要になりますが、速すぎると周囲の乗客にぶつかってしまうおそれも出てきます。
一瞬、張り詰めた空気が漂いましたが、ロボットは想像以上にスムーズに、LRTに乗り込むことができました。
尾崎功一教授
「実験中、いちばんドキドキしていました。無事乗り込めて、ほっと安心しました」

実験は60点で“合格”

このあとは車両の端で待機し、目的地まで40分あまり。
LRTを降りたあとは、青信号に変わるのを待って、横断歩道を渡りきり…。
14キロ離れた隣の芳賀町まで、約1時間をかけて弁当を届けることができました。

尾崎教授は、今回の実験結果をもとに性能をさらに高め、5年後をめどに、公共交通機関を使った配送ロボットの実用化を目指したいと考えています。
宇都宮大学工学部 尾崎功一教授
「僕は厳しいので、実験の点数は60点です。ただ60点なので合格です。少しうまくいかないところもありましたが、ほとんど自律走行ができたので、そこはすごく評価できると思います。これからどんどん性能が上がると、さらにいい点数がつくと思います」

100点満点を目指して

ロボットが実際に街なかを動き回り、バスや鉄道に乗って配送するためには、さらなる技術開発に加えて、関係する法令の整備なども必要になります。

近い将来、配送ロボットが物流業界の課題を解決する「100点満点」を目指して、尾崎教授は今後も研究と開発を続けながら、社会への働きかけも進めていくことにしています。

(6月19日「とちぎ630」で放送)
宇都宮放送局記者
宝満智之
2020年入局 宇都宮市政と栃木県政を担当