高校生の就活スタート 高い求人倍率見込み 初任給賃上げ予定も

来年春に卒業する高校生の就職活動が、1日、事実上スタートしました。企業の人手不足や進学率の高まりなどを背景に求人倍率が高い傾向が続き、高校生優位の「売り手市場」となる見通しです。

ことしの高卒者求人倍率 全国平均3.98倍 過去最高

高校生の就職採用試験

来年春に卒業する高校生の就職活動は、きょう1日、企業の求人票が生徒や教員に公開され、事実上スタートしました。

深刻化する人手不足や進学率の高まりなどを背景に、ことし3月に卒業した高卒者の求人倍率は全国平均で3.98倍と過去最高を記録しました。

来年3月に卒業する高校生についても高い水準の求人倍率が見込まれていて、高校生優位の「売り手市場」が続く見通しです。

一方で、高校を卒業して就職した人の3年以内の離職率は、去年10月時点で37%と大学卒業後の人と比べて高い傾向にあり、企業とのミスマッチをどこまで防げるかが課題となっています。

厚生労働省は、「高校生にとっては採用してもらいやすい環境となっているが、ミスマッチを防ぐために複数の職場見学を行うよう学校側にお願いするとともに、職業相談や面接対策などきめ細やかな就職支援を続けていきたい」としています。

高校生たちは今後、求人票をもとに志望先を選び、9月中旬から始まる採用試験に臨むことになります。

東京の都立高校 去年の2倍超える求人

慢性的な人手不足を受けて、東京都内の高校には幅広い業種の求人が見られるということです。

このうち東京・板橋区の都立北豊島工科高校には、去年の2倍を超えるおよそ200の企業などから求人の資料が届きました。

ことしの高校生への求人は、慢性的な人手不足を受けて、建設やインフラ関係など幅広い業種から学校への問い合わせが相次ぎ、これまではなかった大企業からも学校訪問がありました。

去年と比べて初任給を2万円から3万円ほど上げたり休日の日数を増やしたりして待遇を改善している企業が多く見られるということです。

この高校では、ことしから求人票を生徒が自宅で端末を使って見られるようにしたほか、企業のインターンシップに生徒が積極的に参加することで、自分にあった仕事に就けるよう進路指導を工夫しているということです。

1日に求人票を持参した企業の担当者は、「高校生の募集に手を広げる企業が多くなったためライバルが増えた。去年と比べ、3倍近くの学校を訪問しているが、人材確保はかなり厳しい」と話していました。

都立北豊島工科高校の福田健昌主幹教諭は、「工業高校であってもサービス業などこれまでなかった求人があり、追い風が吹いている形だ。高校生にとっては就職先を決めるにあたって企業側の情報を十分得ることが重要だ」と話していました。

半数以上の企業が “初任給の賃上げ行う予定” 就職支援会社調べ

民間の就職支援会社「ジンジブ」がことし4月から5月にかけて企業の採用担当者に対して行ったアンケート調査では、採用競争の激化などを背景に、初任給の賃上げを行う予定と回答した会社が半数以上にのぼりました。

アンケート調査の結果によりますと、来年卒業の高校生を採用する企業の採用担当者445人に、初任給の賃上げを行うかを聞いたところ、
▼「行う予定がある」が53.5%と半数を超えました。

一方で、
▼「未定」が16.6%、
▼「昨年と同様」が13.7%、
▼「行う予定はない」が11.7%、
▼「答えられない・分からない」が4.5%となりました。

また、全体の44.5%が2年連続で賃上げを実施する予定だと回答しました。

このうち、初任給の賃上げを行う予定があると回答した238人に、前年と比べていくら上げる予定か聞いたところ、
▼「999円以下」が2.1%、
▼「1000円以上」が7.6%、
▼「3000円以上」が18.1%、
▼「5000円以上」が29.4%、
▼「1万円以上」が16.4%、
▼「1万5000円以上」が4.6%、
▼「2万円以上」が3.8%、
▼「2万5000円以上」が2.1%、
▼「3万円以上」が2.1%、
▼「4万円以上」が2.1%、
▼「5万円以上」が0.8%、
▼「金額は未定」が7.6%、
▼「答えられない・分からない」が3.4%となりました。

この結果から、1万円以上の賃上げを行う予定の企業はあわせて31.9%にのぼっていて、中には2万円から5万円以上の賃上げを行う予定の企業があることもわかります。

また、初任給の賃上げを行う理由を聞いたところ、複数回答で
▼最も多かったのが「物価上昇に伴い社員の生活を支えるため」で58.8%、
▼次いで、「高卒採用の応募を増やすため」の54.6%、
▼「賃上げの機運に応えるため」が47.9%、
▼「社員の定着のため」が47.1%などとなりました。

ラーメンチェーン 待遇の大幅改善で高卒人材を確保へ

待遇の大幅な改善を図ることで、高校を卒業した人材を積極的に確保しようと取り組む会社があります。

国内80か所以上でラーメン店を展開する会社は、2036年までに国内の店舗数を700店舗まで増やす計画にしていて、人材の確保が急務となっています。

そこで、高卒の人材の初任給を18万円から3年間で4万円引き上げ、来年から22万円とすることを決めました。

これは大卒の初任給と同じ水準で、会社は学歴と関係なく能力や成果などに応じて、昇級できる評価制度だとしています。

また、ことしから高校卒業後の2年間は寮の家賃を無料にするなど、福利厚生の強化も図りました。

さらに、会社に興味を持ってもらう高校生を増やそうと、ことしは高卒の社員がみずから母校の体育祭に出向きラーメンを作って振る舞うイベントも開催しました。

こうした取り組みで、会社では高校生の採用者数は去年の7人からことしは27人まで増えていて、来年は42人まで増やしたいとしています。

ことし高校を卒業して入社した船戸颯真さん(18)は、「給料が上がることでモチベーションは高まりますし、学歴に関係なく自分の努力次第でいくらでも昇級はできることは頑張る理由になります」と話していました。

ラーメンチェーン「どうとんぼり神座」を運営する会社の小石 享 採用部長は、「高校を卒業して入社した人たちが早く稼いで、一人前になりたいという強い思いをいろいろな形でサポートしていきたい。まずは職場見学に来ていただいて、仕事の魅力やラーメンの味を知ってほしいです」と話していました。

東京のバス会社 人手不足背景に 新たに高校生の採用に期待

人手不足を背景に、新たに高校生の採用活動に乗り出す企業もあります。

東京・町田市の観光バス会社では、ことしから初めて来年、卒業予定の高校生を対象に、ドライバーと運行管理の社員の求人を始めることにしました。

コロナ禍の後、インバウンド需要が回復し、予約の問い合わせが増えている一方で、ドライバーの数が足りず、断らざるをえないケースもあることなどから、若い人材の確保に力を入れることにしたのです。

これまでドライバーは即戦力となる経験者などの中途採用しか行ってきませんでしたが、去年、初めて新卒の大学生から応募があり採用しました。

バスの運転には大型2種免許が必要で、取得には19歳以上で普通免許の取得から1年以上という条件があり、高校を卒業した人材は入社してもすぐにはドライバーを務めることはできません。

それでも、今後採用する高卒者は入社後、数年間は別の仕事をしてもらいながら適性を見極め、会社で費用を補助して大型免許の取得を目指してもらうことにしています。

会社では、来年春の採用に向けて、高校に働きかけて会社見学を積極的に受け入れて、若い社員の経験なども伝えながら企業の魅力をPRしていきたいとしています。

去年、大学卒業後にドライバーとして採用された内藤雄太さん、23歳は、「バスのドライバーは大きなバスを操りながら知らない土地に行ったりすることがとても楽しくやりがいになっています。運転が好きな人など少しでも興味があったら会社に来て欲しいなと思います」と話していました。

プリンシプル自動車の関谷千浩専務取締役は、「業界全体の悩みかもしれませんが、ドライバーが増えないことにはバスが動かないですし、会社の経営が成り立たない状況になってしまいます。多くの高校生に興味をもってもらえるよう積極的に見学を受け入れ、バス会社の仕事の楽しさなどをどんどん発信していきたい」と話していました。

就活始める高校生へ “自分の目で見て 合う会社を見つけて”

高校生の就職活動の状況について就職支援会社「ジンジブ」の星野圭美取締役は、「若者の労働力人口が減少している中、若手の採用を増やしたいという企業が増えている一方で、大卒の採用も厳しい状況になってきていて、高卒の採用に目を向ける企業が多くなっている。少しでも採用の情報が求職者の目に止まるよう、初任給を引き上げるなど工夫をしている企業も増えている」と分析しています。

今後、就職活動を始める高校生に対しては、「特に高卒採用でいうと、入社1年目の離職が高いと言われています。会社とのミスマッチを防ぐためにも、単純に給料などの待遇面だけで会社を選ぶのではなく、できるだけ直接出向いて自分の目で見て、社風やどんな人が活躍しているかなどの情報もキャッチアップして、自分に合う会社を見つけて欲しい」と話していました。