石川県 自治組織設立 71仮設住宅のうち16にとどまる

能登半島地震の被災地では仮設住宅の建設が進んでいて、入居した人たちが安心して暮らせる環境づくりが課題となっています。石川県は自治会のような組織の設立を住民に促すよう自治体に求めていますが、自治組織ができたのは71の仮設住宅の団地のうち16にとどまっていることがNHKの取材でわかりました。

石川県によりますと能登地方を中心に6810戸の仮設住宅が必要になると見込まれていて、今月27日までにおよそ7割にあたる4943戸が完成しました。

一方で入居した人たちからは、知り合いがいないため孤独を感じるといった声やゴミ出しや駐車場の使い方など生活に関するルールがないことに対する不安の声が上がっています。

先月には輪島市の仮設住宅で70代の女性が「孤立死」したとみられる事案があり、石川県は仮設住宅を管理する市と町に対して、住民に自治組織の設立を促すよう求める通知を出しました。

自治会などの組織は住民どうしの交流や生活のルールづくりなどさまざまな役割を担っていますが地域住民のつながりに基づいて自主的に作られるという性格上、行政が設立を義務づけることはできません。

NHKが被害の大きかった「奥能登地域」の4つの市と町に取材したところ、今月26日の時点で、自治組織の設立が市や町に報告されているのは、入居が始まっている71の仮設住宅の団地のうち16にとどまっていることがわかりました。

このうち穴水町と能登町は入居者向けの説明会を開くなど、町が積極的に呼びかけて自治組織の設立を目指しています。

また、輪島市も自治組織の設立が望ましいとしていますが、まずは市との連絡役を担う住民を選ぶことにしています。

一方、珠洲市は、輪島市のように市との連絡役を担う住民を選んでもらうことにしていますが、仮設住宅を仮の住まいと位置づけているため、自治組織の設立は働きかけないとしています。

過去に起きた災害でも仮設住宅でのコミュニティーづくりは重要な問題とされていて、自治体がどのように関わりながら被災者が安心して暮らせる環境を作っていくかが課題となっています。

自治組織のない仮設では住民から不安の声も

自治会のような組織が作られていない仮設住宅の団地では、入居している住民からさまざまな不安の声が上がっています。

輪島市の中心部に近い「宅田町第2団地」は4月末に完成し、これまでに300人余りが入居しています。

宅田町第2団地

市内のさまざまな地区から人が集まっているため、顔見知りがいないという人もいて、入居している住民によりますと、団地の中にある集会所で集まる機会が設けられたこともないということです。

この団地で1人で暮らしている80代の男性は、地震の前は近所の人たちと毎朝ラジオ体操をするなどさまざまなつきあいがありましたが、今は人と話す機会がほとんどなくなったといいます。

80代の男性
「団地は本当に静かすぎます。集会所ができても人を集める努力をしなければお互いに顔を合わせても知らないふりをするだけになってしまいます」

また、生活に関するルールがないことも、入居している住民にとってストレスになっています。

輪島市の方針で自家用車をとめるスペースは入居者どうしで決めてもらうことになっていますが、この団地ではまだ決められていないといいます。

入居している20代の女性
「みんなそれぞれ『この人はここにとめているんだな』という感じで、なんとなくとめています。話し合いがあるといいのですが」

また、ごみ置き場の近くの住居を割り当てられた70代の男性は、入居が始まった5月ごろ、収集日ではない日にごみを置かれ、においやカラスが集まることに悩んだといいます。

ルールを守ってもらうためにみずから注意を促す看板を立てたり、カラスよけの網を自分で追加で用意したことで状況は改善されましたが、今後も入居者が増えていくことから、話し合いの機会が必要だと感じています。

70代の男性
「できるだけ早く集まって話し合う機会があるといいのですが、率先して動こうという人は誰もいないと思います」

設立を積極的に働きかける自治体も

自治体の中には住民から自発的に声が上がるのを待たずに、自治組織の設立を積極的に働きかけているところもあります。

穴水町は行政からの情報をすべての入居者に確実に伝えたいと考えたことや「孤立死」を防ぐには住民どうしの助け合いが欠かせないと考えたことから団地ごとに説明会を開いています。

説明会は5月下旬から順次開いていて、町の職員が団地の中を1軒ずつ回って直接、住民に参加を呼びかけています。

参加を呼びかけられた80代の夫婦
「団地には全然知らない人がたくさんいます。顔を合わせて名前もわかって皆さんと交流できたらと思います」

今月25日に「港町団地」で開かれた説明会には入居している36世帯のうち19世帯が参加し、ほとんどの人が初めて顔を合わせる機会となりました。

説明会では、町の担当者が自治会が設立された場合の活動内容について説明し、団地内の清掃や入居者どうしの見守り、町の公報の回覧といった例を挙げました。

また、自治会が設ける規約の例を記した資料も提供しました。

このあと住民は団地内の4つの棟ごとに班を作り、互いに自己紹介を終えると「班長は公平に順番で務めることにしないか」などと意見を交わしていました。

そして班長が決まると、この団地の自治会長や会計担当など4つの役職を班長の中から1人ずつ決めていきました。

自治会長を担う班長には集会所の鍵が預けられ、今後、役員を中心に自治会を運営していくことになりました。

自治会長に決まった男性
「初対面で見たことのない人ばかりでしたが、いろんな意見を聞きながら楽しくやっていく手助けができれば」

穴水町によりますと今月26日の時点で入居が始まっている13の団地のうち11の団地で自治会が設立されているということです。

穴水町復旧復興対策室 馬渡竹志次長
「自治会ができることで高齢者の見守りなど助け合うことができるし、入居者が必要性を感じていればスムーズに決まる。大きな団地では簡単に決まらないかもしれないが、粘り強く何度も足を運んで、自治会の設立を働きかけていきたい」

専門家「行政による支援が必要」

被災者の支援策に詳しく、石川県内の仮設住宅などで聞き取りを行っている北陸学院大学の田中純一教授は、住民だけで自発的に組織を作るのは難しいとして行政による支援が必要だと話しています。

田中教授は「入居後1か月から2か月の間は慣れない生活でストレスを抱えやすく、孤立しやすい時期だ」として、早期に自治組織を作ることが住民の孤立を防ぐのに有効だと指摘しています。

また、住民は仮設住宅の設備などの問題で悩んでいても誰に相談したらよいかわからず、我慢してしまう傾向があるとして「相談や悩みを集約して行政やNPOなど外部の支援につなぐには自治組織やリーダーの存在が欠かせない」と話しています。

東日本大震災や熊本地震では住民が悩みながらも助け合い、自治組織を円滑に運営していった事例もあるということで、過去の教訓を生かすためにも自治組織の運営を経験した人を行政が仲介して能登の住民に紹介するなど被災者どうしをつないでいくことも重要だと指摘しています。