株主総会 27日ピーク 企業が株主に対してどう向き合うか焦点に

上場企業の株主総会が27日ピークを迎えました。いわゆるアクティビストなどからの株主提案が相次ぎ、企業が株主に対してどう向き合うかが今後も焦点となりそうです。

27日は東京証券取引所に上場する3月期決算の企業のおよそ3割が株主総会を開きました。

このうち製紙会社「北越コーポレーション」に対しては香港の投資ファンドが、社長の解任などを求める株主提案を行ったほか、私鉄大手「京成電鉄」に対しては、イギリスの投資ファンドが、東京ディズニーリゾートの運営会社の株式の一部を売却するよう求めましたがいずれも否決されました。

一方、東京のアパレル企業、「ダイドーリミテッド」に国内のファンドが求めた取締役候補者の選任を求める提案は一部が可決されました。

三井住友信託銀行のまとめでは今月、株主総会を開く企業のうち、株主提案を受けた企業は91社と過去最多となり、企業が、経営改革などを進める上で、株主に対してどう向き合うかが今後も焦点となりそうです。

一方、27日は国の認証試験での不正が明らかになった「スズキ」や傘下の銀行と証券会社が顧客企業の非公開情報を無断で共有していた「三菱UFJフィナンシャル・グループ」でも株主総会が開かれました。

いずれも社長が陳謝したうえで再発防止やコンプライアンスの強化に取り組む考えを示しました。

株主からは「みずからうみを出し切ってほしい」とか「口で言うだけでなく実際の経営の中で実行してほしい」といった声が聞かれ、企業のガバナンスのあり方が改めて問われる形となりました。

「アクティビスト」呼ばれる株主提案とは

企業に経営改革を強く求める「アクティビスト」と呼ばれる株主が、資本の有効活用や経営陣の交代などを求める提案が目立っています。

三井住友信託銀行によりますと今月、開かれる株主総会で株主提案を受けた企業の数は、3年連続で過去最多を更新しています。

北越コーポレーションに対して株主提案をした香港の投資ファンドのセス・フィッシャー CIOは先月20日に都内で開いた記者会見で経営陣のリーダーシップに問題があるなどとしたうえで「会社はポテンシャルを達成できていない。長期にわたる業績不振に対して説明責任をとっていない」と述べていました。

これに対して会社は、「今の社長が就任している期間に、売り上げ、営業利益率などの成長は競合他社の平均を上回る水準となっている。批判は全く事実に反している」と反論し提案に反対していました。

また、私鉄大手の京成電鉄に対して株主提案を行ったイギリスの投資ファンドのジェームズ・スミスCIOはNHKのインタビューで、「オリエンタルランドの株式の保有比率が大きすぎて、会計上のゆがみを起こし、株主価値を毀損している。数年にわたり経営陣と議論を重ね、数多くの案を提示してきたが、変革のためには株主提案がなければ会社が次のステージに進むことは困難だ」と述べていました。

京成電鉄は「大型投資など明確な資金の使途がある場合の原資として活用を検討すべきで、中長期的な企業価値や株主共同の利益を最大化させるためには、売却の方法やタイミングの慎重な検討が必要だ」として提案への反対を決議していました。

東京証券取引所でも収益力の向上や投資家との対話求める

東京証券取引所は2015年にコーポレートガバナンス・コードを策定し、収益力の向上や投資家との対話を求めています。

去年3月にはすべての上場企業に対して「資本コストと株価を意識した経営」を要請し、市場での評価が低い企業に対して株価の上昇に向けた対策を作り、開示することなどを求めています。

こうした取り組みは企業に事業の収益性を意識し株価上昇につながる対応を促すことから、アクティビストが求めてきた資本の効率的な活用や株主還元の強化といった内容と方向性が一致する部分があるという指摘も出ています。

《三菱UFJ》亀澤社長 顧客情報無断共有を陳謝

27日は、東京証券取引所に上場する660社以上が株主総会を開く予定で、このうち、三菱UFJフィナンシャル・グループの株主総会は、午前10時から東京 港区で始まりました。

このグループでは、傘下の銀行と証券会社が顧客企業の非公開情報を無断で共有していたことが明らかになり、6月、銀行と証券会社に対し、金融庁から業務改善命令が出されました。

亀澤宏規社長は冒頭、「株主さまをはじめ、関係者の方々に、ご迷惑・ご心配をおかけし深くおわび申し上げる。処分を厳粛に受け止め、信頼回復に向け、改善・再発防止にグループ一丸となり、取り組んでいく」と述べ、陳謝しました。

また、株主からの質問に対し、「役員の処分について、これから社内手続きを進めるが、報酬の減額を含めて必要な対応を検討したい」と述べました。

株主からは経営陣に説明を求める声も

三菱UFJフィナンシャル・グループの株主総会に出席する株主からは、グループ内で顧客企業の非公開情報を同意を得ずに共有していた事案などについて経営陣に説明を求める声が聞かれました。

70代の男性は「役員がどう説明するのか気になって参加した。メガバンクなので、コンプライアンスもしっかりしているはずだと思っていた。理由や背景の説明を聞きたい」と話していました。

別の70代の男性は「事案を受けて、今回初めて株主総会に参加した。どういう経緯で処分を受けたのか、コンプライアンス体制ができているのか、説明を受けて確かめたい。日本を代表する企業の一つとしての使命感や覚悟を持ってほしい」と話していました。

また、20代の男性は「今後、企業としてコンプライアンスの意識を高めていく必要があるのではないかと思った。日本を代表する金融機関であるだけに、世界からの視線も厳しくなると思うので、行動とことばで改めてほしい」と話していました。

株主の男性「責任取ろうという姿勢見えず」

株主総会の終了後、80代の株主の男性は「経営陣が責任を取ろうという姿勢が見えず、不満に思った。形だけ頭を下げていたが、おざなりな説明で、真剣に謝ってない。今後、みずからうみを出し切ってほしい」と話していました。

70代の株主の男性は「法令を守っていればグループ内で連携すること自体はいいことだと思う。今後はやってはいけないことをしっかりと区別してほしい」と話していました。

《北越コーポレーション》 社長解任の株主提案否決

投資ファンドが社長の解任を求める株主提案を行った製紙会社、北越コーポレーションの株主総会が開かれ、採決の結果、提案は否決されました。ただ、別の大株主も解任に賛同した結果、賛成はおよそ4割に上ったとみられ、今の経営陣が今後どのような経営方針を示すかが焦点となります。

北越コーポレーションの株主総会は、新潟県長岡市で27日午前10時から開かれました。

議決権ベースで20.1%の株式を保有する香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」は、岸本晢夫社長が16年にわたって社長を続けている会社のガバナンス=企業統治に問題があるなどとして、岸本社長の代表取締役の解任などを求める株主提案を行いました。

総会は2時間余りにわたって開かれ、採決の結果、株主提案は反対が過半数となり否決されました。

ただ、別の大株主で関連会社と合わせて21.1%の株式を保有する「大王海運」が岸本社長の解任に賛同するなどして、株主提案への賛成はおよそ4割に上ったとみられます。

このため、今の経営陣が今後どのような経営方針を示すかや、投資ファンド側の対応が今後の焦点となります。

北越コーポレーション「経営方針など賛同いただけた結果」

北越コーポレーションは、株主総会での採決の結果について、「株主の皆様が当社の主張を十分にご理解され、当社の経営方針などについてご賛同いただけた結果であると認識しております。株主の皆様から受けたご信任のもと、今後も中長期的な企業価値と株主利益の向上に継続して取り組んでまいります」とコメントしています。

株主からは一連の混乱に不満の声

北越コーポレーションの株主総会に出席した株主からは、投資ファンドの提案に端を発した一連の混乱に対して不満の声が聞かれました。

70代の株主は「外国の投資ファンドの方も出席しておらず、冷静な淡々とした総会だった。ファンドやそれぞれの会社の経営陣はお互いにプロなのでプロどうしの戦いはあるとは思うが、私のような個人の株主としては株価をしっかり上げてほしいというだけだ」と話していました。

また、別の70代の株主は「私自身、社長の経営手腕を問う声も理解できる。ただ、株主提案をするなら総会の場に来てしっかり主張するべきで、オアシスも大王海運もいずれもきょうの総会に姿を現さなかったことにとても腹立たしい気持ちだ」と話していました。

社長解任賛同の大王海運 背景に長年の確執

大王海運が北越コーポレーションの社長解任の株主提案に賛同した背景には、大王製紙の創業家も絡んだ長年にわたる北越側と大王製紙の創業家側の確執があります。

今の確執の契機は、2011年に大王製紙の創業者の孫の元会長がグループ企業の金を海外のカジノで使った特別背任事件です。

事件を受けて、大王製紙の創業家が保有するおよそ20%の株式を北越紀州製紙、今の北越コーポレーションに売却し、北越が大王製紙の筆頭株主になる関係となりました。

岸本晢夫社長はその当時から社長を務めています。

一方で、大王製紙の元会長で創業者の三男の井川俊高氏は、みずからが実質的なオーナーとなっている「大王海運」を通じて北越の株式の取得を進めて、大株主となりました。

お互いが大株主としてけん制する関係が続くなか、去年7月、岸本晢夫社長と井川俊高氏が会談し、岸本社長が大王海運が保有する北越の株式を買い取りたいと申し入れた一方、井川氏は、それぞれが保有する北越と大王製紙の株式の交換を申し入れました。

しかし、互いにそれぞれの申し入れを断ったことを双方の会社側が明らかにしています。

その結果、双方の関係が悪化し、大王海運はさらに株式を買い進める形となりました。

大王海運が27日の株主総会で岸本社長の解任に賛同したのは、こうした確執が背景にあり、それが解消されないまま関係者の間で今後どのような動きがあるのかも焦点となっています。

大王海運「問題意識をより新たにした」

大王海運は、「結果は残念に思うが、落胆はしていない。北越のガバナンスに対する問題意識については解消していない。問題意識をより新たにしたともいえる。当社は北越の将来性に期待して長期保有を前提に株式を保有しており、今後も大株主として建設的な対話を求めるという方針は変わらない」とコメントしています。

《京成電鉄》 英投資ファンド提案の株式一部売却は否決

私鉄大手「京成電鉄」の株主総会が開かれ、会社が保有する東京ディズニーリゾートの運営会社の株式について一部を売却するよう求めたイギリスの投資ファンドによる株主提案は否決されました。

株主総会は、27日午前10時から千葉市内のホテルで開かれました。

総会では、京成電鉄が筆頭株主となっている東京ディズニーリゾートの運営会社「オリエンタルランド」の株式について、イギリスの投資ファンド「パリサー・キャピタル」からその一部を売却するよう求める株主提案が出されていました。

ファンド側は、会社に対して保有割合を今の21%から15%未満に引き下げ、売却で得られた資金を運賃の値下げや駅の安全対策などに充てるよう求めていました。

会社側は「株式は大型投資などの原資として活用を検討すべきであり、売却の方法やタイミングの慎重な検討が必要だ」などと反対していて、採決の結果、提案は否決されました。

株主総会に参加した60代の男性は「東京ディズニーリゾートは千葉県を代表する施設であり、株式を売却すれば、さまざまな事業で連携してきた両者の関係が薄くなると思う。ただ、アクティビストの存在は株主総会を活性化させ、企業が成長できるよい機会にもなると思う」と話していました。

《シャープ》 2年連続最終赤字を謝罪 新社長に沖津副社長が昇格

大阪・堺市にあるシャープの本社で開かれた株主総会には151人の株主が参加しました。

冒頭、呉柏勲社長兼CEOが液晶パネル事業の不振などから2年連続の最終赤字となったことを謝罪しました。その上で、呉社長は自身が社長兼CEOを退任し、沖津副社長を昇格させる人事を説明した上で、呉氏や沖津氏ら6人を取締役に選任するとした議案などに理解を求めました。

そして、沖津副社長は「大型液晶パネル事業を担っていた堺ディスプレイプロダクトの工場については、データセンターへの転用に向けて複数社との協業を開始している。液晶パネル事業の生産停止や縮小を行うとともに、白物家電などのブランド事業への投資比率を上げていくことで、今年度の決算では50億円の最終利益を確保することを目指す」と述べました。

シャープでは、業績不振に加え、株主総会の前日に社長の交代を発表する異例の事態となったこともあり、総会では、株主から経営陣の責任を問う意見などが相次ぎました。

その後、採決が行われ、会社側が提案した3つの議案はすべて可決されました。総会終了後、会社は取締役会を開き、沖津氏が社長兼CEOに就任することを正式に決めました。

新たな経営体制では、親会社の「ホンハイ精密工業」で会長を務める劉揚偉氏がシャープの会長も兼務し、シャープの社長兼CEOだった呉氏は副会長に就くとしています。

《スズキ》鈴木社長が認証試験不正を陳謝

国の認証試験での不正が明らかになった「スズキ」の株主総会が開かれ、鈴木俊宏社長は「ご心配とご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます」と陳謝したうえで、コンプライアンスの強化に努めていくと説明しました。

スズキの株主総会は、27日午前10時から静岡県浜松市内のホテルで開かれ、株主244人が出席しました。

スズキでは国の型式指定の申請にともなう認証試験で10年前の2014年、当時生産していた1車種のブレーキ試験の成績書に実際の計測値とは異なる値を記載していたことが明らかになっています。

この問題について、鈴木俊宏社長は総会の中で「皆様にご心配とご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます」と陳謝しました。

そのうえで、2016年にも燃費や排ガスの検査などをめぐる不正が発覚したことにふれ、「不正を発生させない社内の仕組みづくりや社員との対話などを進めてきたが、引き続きコンプライアンス強化に全社で努めていく」と説明しました。

総会では、鈴木社長を含む8人の取締役の選任など、会社側が出した3つの議案がすべて可決されました。

総会のあと、70代の元社員の株主は「スズキも含めてこれだけ不正が広がったのは問題だ。不正や間違いを報告できる環境作りなど、改善を口で言うだけでなく実際の会社経営の中で実行してほしい」と話していました。

《ダイドーリミテッド》 アクティビストの提案を一部可決

経営不振を理由にアクティビストから経営陣の刷新を要求されていた東京のアパレル企業、「ダイドーリミテッド」の株主総会が開かれ、アクティビストが提案した取締役候補者のうち3人の選任が可決されました。

一方、会社側は5人の候補者の選任が可決され、双方が提案した取締役からなる経営陣で業績の回復を目指すことになりました。

東京のアパレル企業、ダイドーリミテッドで27日開かれた株主総会では、株式の3割を保有する国内のアクティビストファンド「ストラテジックキャピタル」が長期の経営不振を理由に経営陣の刷新を要求し、6人の取締役の選任案を株主提案しました。

一方で、会社側は今の経営陣が退任し外部のコンサルティング会社代表など別の6人の選任案を提案しました。

決議の結果、会社側が提案した5人、アクティビスト側が提案した3人の合わせて8人の選任が可決されました。

取締役の過半数は会社側が確保した形ですが、アクティビスト側が提案した取締役とともに業績の回復を目指すことになりました。

ダイドーリミテッドは、株主総会のあとに開いた取締役会で、会社側が提案し選任された取締役が会長と社長に就任することを決めたと発表し、「新たな体制で中期経営計画を実現し、企業価値と株主価値の向上に努めていく」としています。

一方、株主提案を行ったアクティビストファンドの丸木強代表はオンラインで開いた記者会見で、「提案したうち3人が否決されたのは残念だが、一株主として引き続き、新たな経営陣に対してアパレル事業の立て直しと不動産事業の見直しを求めていきたい」と述べました。