【解説】ロシア軍中枢の人物に“戦争犯罪”疑い 新たな逮捕状

オランダ・ハーグにあるICC=国際刑事裁判所は、ロシアのショイグ前国防相とゲラシモフ参謀総長に対して戦争犯罪などの疑いで逮捕状を出したと発表しました。

2022年から2023年にかけて、ロシア軍が相次いでウクライナの電力インフラをミサイルで攻撃したことが、軍事目標以外のものを故意に攻撃した戦争犯罪にあたる可能性があり、前国防相らはこの攻撃への責任があるとしています。

(6月26日「キャッチ!世界のトップニュース」で放送した内容です)
※動画は5分25秒
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国際刑事裁判所が新たに逮捕状を出した、ロシアのショイグ前国防相とゲラシモフ参謀総長。

ウクライナ侵攻を推し進めるロシア軍のまさに中枢の人物が、戦争犯罪を犯した疑いで、国際的な司法の捜査の対象となったのです。

このうちショイグ前国防相は69歳。プーチン大統領と個人的にも親しく、一緒に釣りやハイキングをする姿が映像にも残っています。

2012年から国防相を務めていましたが、ことし4月に交代し、現在は、安全保障を担う別の組織の書記を務めています。

ゲラシモフ参謀総長は68歳。欧米メディアからは、その名をとった「ゲラシモフ・ドクトリン」と呼ばれる戦術を提唱したと伝えられています。

その戦術とは、軍事行動では、軍事力に加えて、政治や経済さらには情報戦も駆使するというものです。いわゆる「ハイブリッド戦争」で、ウクライナ侵攻においてロシア軍はこの戦術を実践していると言われています。

「ハイブリッド戦争」の一環

国際刑事裁判所は、逮捕状を出した理由として、少なくとも2022年10月から2023年3月にかけて相次いだ、ロシア軍によるウクライナの電力インフラへのミサイル攻撃を挙げています。

この一連の攻撃こそ、「ハイブリッド戦争」の一環だと言えます。つまり、電力インフラという軍事目標以外のものを攻撃することで、経済を疲弊させ、ゼレンスキー政権を支持する世論を変えようという政治的な効果もねらったものだと指摘されていました。

私はちょうど、その時期にキーウで取材をしていましたが、連日の空爆で発電インフラが次々に破壊され、瞬く間に、停電の影響が広がっていったのを覚えています。

街灯の消えた夜の街は真っ暗になり、道を歩くときは人々が照らす携帯電話の小さなライトだけが見えるような状況でした。厳しい寒さの中、暖房も使えなくさせることで、ロシア軍は、「冬を、まるで戦場の兵器のように使っている」と言われていました。

国際刑事裁判所 “戦争犯罪にあたる可能性がある”

こうした攻撃について、国際刑事裁判所は戦争犯罪にあたる可能性があるとしています。しばしば「いくら戦争でも、最低限守るべきルールがある」と言われます。

中でも、民間施設を故意に攻撃することは、国際人道法の深刻な違反です。国際刑事裁判所は、2人はこうした電力インフラに対する攻撃への責任があると信じるに足る合理的な根拠があるとしています。

ロシア側はさっそく、強く反発しています。ショイグ氏は、国営メディアを通じて声明を発表し、「これは西側諸国から、ロシアに対するハイブリッド戦争の一環として行われたものだ」と述べ、むしろ、自分たちが西側によるハイブリッド戦争の被害者だとの主張を展開しています。

国際刑事裁判所は、すでに別の理由でプーチン大統領にも逮捕状を出しています。ロシアは、関係する条約の加盟国ではなく、国際刑事裁判所の管轄権は及ばず、直ちに逮捕ということは想定されていません。それでも、ロシア指導部への圧力がまたひとつ加わった形です。