円相場 1ドル=160円台半ば中心に取り引き 37年半ぶり円安水準

27日の東京外国為替市場、26日のニューヨーク市場でおよそ37年半ぶりの円安ドル高水準を更新した流れを受けて、円相場は1ドル=160円台半ばを中心に取り引きされました。

26日のニューヨーク外国為替市場では、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の高官の発言などを受けて利下げを急がないとの見方が広がり、円相場は一時1ドル=160円台後半まで値下がりしておよそ37年半ぶりの円安ドル高水準を更新しました。

これを受けて、27日の東京市場でも日米の金利差が改めて意識されて円が売られやすい状況が続き、1ドル=160円台半ばを中心に取り引きされました。

午前中、鈴木財務大臣が「高い緊張感をもって動きの背景を分析し、必要な対応を取っていく」と述べて市場の動きをけん制したことを受けて、円を買い戻す動きも見られました。

午後5時時点の円相場は26日と比べて、65銭、円安ドル高の1ドル=160円54銭から56銭でした。

一方、ユーロに対しては26日と比べて63銭、円安ユーロ高の1ユーロ=171円61銭から65銭でした。

ユーロはドルに対して1ユーロ=1.0689から91ドルでした。

市場関係者は「市場では政府・日銀による市場介入への警戒感が高まっている。午後に入ってからは狭い範囲での値動きとなった」と話しています。

鈴木財務相「高い緊張感持って分析し必要な対応取る」

26日のニューヨーク市場で円相場が1ドル=160円台後半まで値下がりし、およそ37年半ぶりの円安ドル高水準を更新したことについて、鈴木財務大臣は27日午前10時半ごろ記者団に対し「急激なしかも一方的な動きは望ましくなく、経済に対する影響を強く懸念している。高い緊張感を持って動きの背景を分析し、必要に応じて必要な対応を取っていく」と述べて、市場の動きをけん制しました。

林官房長官「過度な変動望ましくない 動向を注視し適切対応」

林官房長官は午前の記者会見で「為替相場はファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して安定的に推移することが重要で、過度な変動は望ましくない。政府としては為替市場の動向をしっかりと注視し、過度な変動に対しては適切な対応を取っていく」と述べました。

専門家「構造的な円の弱さが円安方向の動きに寄与」

元日銀職員で、市場介入など為替関連の業務に携わった経験のあるふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは、歴史的な円安が進む理由について、「マーケットは、日銀による金融政策正常化がもう少し早く進んでいくと予想していたが、これまでの金融政策決定会合からは、ゆっくり金融引き締めを行うスタンスが見える。こうしたことから、日本とアメリカの金利差が意識されている面もあるが、構造的な円の弱さが円安方向の動きに寄与している」と述べました。

また、政府・日銀の円安の動きをけん制する、いわゆる口先介入や実際の市場介入の動きについて、「口先介入や実際の市場介入は、あまり何回もやると、どんどん効果がなくなってくる。今の日本は、根本的な弱さが際立っていて、貿易収支もサービス収支も赤字になっている。こうした本質的なところが変化しないかぎり、市場介入は、単なる時間稼ぎにしかならない」と指摘しました。

円安が日本経済や暮らしに与えるの影響については、「日本の企業収益や株価への影響を考えると、円安は基本的にはプラスに働く。一方で、円安のプラス部分を享受できない人も日本にはたくさんいる。日本はエネルギーや食料品のかなりの部分を輸入に頼っているので、円安になれば自然とその価格が上がって、消費者にとってはネガティブな影響が出てくる」としています。

ことし4月以降 記録的な円安水準が続く

円相場は、日本とアメリカの金融政策をめぐる投資家の思惑から、ことし4月以降、記録的な円安水準が続いています。

年明けに1ドル=140円台で取り引きされていた円相場。

2024年に入って円安が加速しました。

背景には、市場で
▽経済の堅調さを示す指標の発表が相次いでいるアメリカで、利下げの時期が遅れるとの見方が広がったことや、
▽日銀の金融政策の正常化には時間がかかるとの見方が出たことがあります。

4月29日には、日銀の植田総裁が金融政策決定会合のあとに開かれた記者会見で、円安への対応について踏み込んだ発言をしなかったとの受け止めが広がり、円相場は、1990年4月以来、34年ぶりに1ドル=160円台まで値下がりしました。

しかしその直後、円相場は円高方向に大きく振れ、5月上旬には、1ドル=151円台まで値上がりしました。

財務省は4月下旬から5月下旬までの1か月余りの間に、総額9兆7000億円余りを投じて、市場介入を実施したことを明らかにしています。

ただ、円相場は円高方向に振れたあと、再び値下がりの傾向が続きます。

そして6月中旬に開かれたアメリカのFRB=連邦準備制度理事会の会合の結果などを受けて、市場では、FRBは利下げを急がないとの見方が改めて広がりました。

これに加えて、日銀が6月に開いた会合で、国債の買い入れ規模を減らす方針を決めたものの、具体的な計画の公表を次回の会合に持ち越したことから、日銀が金融政策の正常化を慎重に進めようとしているという見方が重なり、円売りドル買いの動きが強まっていました。

こうした中、26日のニューヨーク市場では、FRBの高官が早期の利下げに慎重な考えを示したことなどを受けて、一段と円安が進み、円相場は一時、1ドル=160円台後半と、1986年12月以来、およそ37年半ぶりの円安ドル高水準となりました。

円安による影響 家計や企業では

歴史的な円安によって、家計と企業にはどのような影響があるのでしょうか。

大手シンクタンク「みずほリサーチ&テクノロジーズ」の試算によりますと、円相場で、1ドル=160円の水準が続いた場合、
◇今年度の1世帯当たりの支出が、前の年度と比べて平均で9万3932円増えるとしています。

このうち、
▽多くを輸入に頼る「食料」は負担が大きく、1年間で3万8000円余り増えるとしています。

続いて、
▽原油価格の上昇などで、「エネルギー」も2万8000円余り負担が増えるということです。

一方、円安は、輸出関連の企業を中心に業績を押し上げる側面もあります。

SMBC日興証券がまとめた東証株価指数=トピックスに採用されている、上場企業1400社余りの昨年度の最終損益の合計額は、推計で48兆8000億円余りと、3年連続で過去最大となりました。

今年度も円安傾向が続けば、業績にプラスとなる企業がある一方、商品や原材料を輸入に頼る小売業や飲食業などにとってはマイナスの面もあり、業種によって影響に大きな差が出る可能性があります。

円安の3つの要因は

円安が進んだ背景には主に3つの要因があると言われています。

【1、日米の金利差縮まらず】
まず、日米の金利差です。投資家はこの金利差が縮まるには時間がかかると見ています。

アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は、今月12日まで開いた会合にあわせて会合参加者による政策金利の見通しを示しましたが、年内の利下げ回数の想定が前回の3回から1回に減りました。

このためFRBが利下げを早い時期に始めるとの見方が後退し、円を売ってドルを買う動きが強まりました。

さらに25日にはFRBの高官が、「政策金利の引き下げが適切だという段階にはまだない」と述べたことを受けて、市場ではFRBが利下げを急がないとの見方が改めて広がり、さらに円安が進みました。

一方、日銀は今月14日まで開いた会合で国債の買い入れの規模を減らす方針を決めましたが、減額の規模など具体的な内容が次回の会合に持ち越されたことから市場では、日銀が金融政策の正常化を慎重に進めようとしているのではないかという見方が広がりました。

このため投資家は日米の金利差が縮まるにはなお時間がかかると見て、円を売って、より利回りが見込めるドルを買う動きが強まりました。

【2、投機筋の円売り】
このところの円安の背景には短期的な取り引きを繰り返して利益を得ようとする「投機筋」の動きもあると指摘されています。

財務省の神田財務官も26日、記者団に対して「最近の円安の動きは投機によるものだという見方が多い」と述べています。

ヘッジファンドの動向を示す、CME=シカゴ・マーカンタイル取引所の「IMM通貨先物」のデータで投機筋のポジション(持ち高)とされる部門をみると、2021年の3月以降、投機筋は一貫して円を売り越しています。

特にことし3月以降は円売りのポジションがさらに拡大しています。

鈴木財務大臣や財務省の神田財務官は、市場の動きをけん制する発言を繰り返していますが、投資家の中には力強さに欠けるとの受け止めもあって円安の流れに歯止めがかからない状況になっています。

【3、日本経済の構造的要因】
円安の背景に日本経済の構造的な要因もあるという指摘もあります。

日本の貿易をめぐってはエネルギーの輸入額増加を背景に昨年度まで3年連続で貿易赤字となったほか、IT関連のサービスや動画配信などデジタルの分野では海外への支出が拡大し「デジタル赤字」と呼ばれています。

こうしたモノやサービスに対する支払いのためにより多くのドルが必要になり、円安につながりやすくなっていると指摘されています。

また、日本企業の間では生産拠点を海外に移したり、現地企業に投資するなど海外での投資が増えていますが、日本企業が海外で稼いだ資金の多くが現地での再投資に回り、国内に戻りにくくなっているほか、NISAの拡充で個人が海外の株式や投資信託などを買う動きが広がっていて、こうした資金の流れがいずれも円が売られやすい状況につながっているとの指摘が出ています。

今後の円相場の動向 注目点は

今後の円相場の動向を見る上で、市場は、アメリカのインフレに関する経済指標や、日銀の金融政策を決める会合の結果に注目しています。

まず、注目を集めているのが、日本時間の28日夜にアメリカ商務省が発表する5月のPCE=個人消費支出の物価指数の結果です。

アメリカの中央銀行にあたるFRBが、インフレの実態を見極める指標としても重視していて、5月のPCEの上昇率が市場の予想に対して、どのような結果となるか注目されています。

また、7月30日からは、日銀の金融政策を決める会合が開かれます。

日銀は、7月の会合で国債の買い入れ減額について具体的な計画を示すことにしていますが、市場では追加の利上げも同時に行うのでないかという観測も出ています。

日銀の会合の結果と、植田総裁の会見での発言にも注目です。