トランプ氏の副大統領候補 ベストセラー作家?ライバル?女性?

トランプ氏の副大統領候補 ベストセラー作家?ライバル?女性?
11月のアメリカ大統領選挙に向けて、今、大きな関心が寄せられているのが、トランプ前大統領の副大統領候補選びです。

取り沙汰されているのは、ベストセラー作家やかつてのライバルたち。30代の女性の名前も挙がっています。

政権の方向性や、2028年の大統領選挙にも影響を与えるとも言われる、副大統領候補選び。
有力候補と言われる人物たちに迫ります。

(ワシントン支局記者 根本幸太郎)

大統領候補の伴走者

トランプ氏
「副大統領候補は、おそらく党大会中に発表されると思う。とてもいい人たちがいる」
6月中旬、トランプ氏は、副大統領候補について、メディアのインタビューにこう答え、意中の人物が複数いることを明らかにしました。

副大統領候補は、アメリカでは“ランニング・メイト=伴走者”とも呼ばれます。次期政権の柱として、大統領候補を支え、時に弱点を補いながら、2人3脚で走る役割を担います。

例えば、2016年の大統領選挙では、トランプ氏は、当時、インディアナ州知事だったマイク・ペンス氏を副大統領候補に選びました。
ペンス氏は知事になる前、下院議員を6期12年務めた経験から議会に幅広い人脈があり、政治経験のなかったトランプ氏は、議会との橋渡し役となることを期待し起用を決めました。

また、ペンス氏が共和党が支持基盤とするキリスト教保守派「福音派」の敬けんなキリスト教徒であることから、こうした層にアピールする狙いもあったとみられています。

一方、バイデン大統領は2020年の大統領選挙で、副大統領候補に当時、上院議員だったカマラ・ハリス氏を選びました。

今回2024年の選挙戦も、ハリス氏とタッグを組んで臨みます。
ハリス氏は、父親がジャマイカ出身、母親はインドの出身で、バイデン大統領は黒人であり、アジア系のルーツも持つ女性を選ぶことで、多様性を尊重する姿勢を強く打ちだしました。

トランプ氏は、現在、副大統領候補の有資格者として、さまざまな人物の名前を挙げ、アメリカメディアも連日、“ランニング・メイト”候補の発言を追いかけています。

トランプ氏の発言などからは、以下の8人が有力候補として浮上しています。

J・D・バンス氏 “アメリカ第一主義のベストセラー作家”

“ランニング・メイト”候補の中で、「アメリカ第一主義」の強力な支持者として知られるのが中西部オハイオ州選出の上院議員のJ・D・バンス氏(39歳)です。
2年前の中間選挙で、トランプ氏の全面支援を受けて初当選しました。

バンス氏は、ベストセラー作家という異色の経歴を持ちます。8年前に回顧録の“ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち”を出版。

オハイオ州で育った自身の経験をもとに、製造業が衰退した地域に暮らす、白人労働者層の日常を描き、ベストセラーとなりました。

バンス氏は、かつてトランプ氏を批判し、「反トランプ」と見られていたこともありますが、その後、SNSへの批判的な投稿をすべて削除し、トランプ氏支持に転じました。

「中間層の生活を守るにはトランプ氏が掲げる“アメリカ第一主義”の継続が必要だ」と強く訴えていて、ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援の継続にも反対しています。

ダグ・バーガム氏 “やり手実業家から最も裕福な州知事に”

今回の大統領選挙で、トランプ氏と党の候補者指名を争った人たちも、候補者として名前が挙がっています。

このうち、アメリカメディアが「勢いに乗っている」と伝えるのが、ノースダコタ州知事のダグ・バーガム氏(67歳)です。
バーガム氏は、2016年に州知事に初当選する前に、地元のソフトウエア会社のトップとして事業を急成長させた経験がある人物です。会社はその後、マイクロソフトに11億ドル、日本円で1700億円あまりで買収され、全米の州知事の中で最も裕福な1人ともいわれています。

バーガム氏は、「経済の変化に対応する新しいリーダーが必要だ」として、大統領選挙への立候補を表明しましたが、去年12月に撤退を表明。

そして、ことし1月、共和党の候補者選び初戦のアイオワ州の党員集会の直前に、撤退した主要な大統領候補の中で、最も早くトランプ氏への支持を表明し、選挙集会に頻繁に参加するなどして、支援しています。
バーガム氏は、これまで経済やエネルギー政策を重視する姿勢を打ちだしてきたほか、アメリカメディアは「バーガム氏は特にトランプ陣営に好かれ、尊敬されている」と伝えています。

全国的な知名度は高くありませんでしたが、ここに来て一気に注目されています。

マルコ・ルビオ氏 “キューバ移民出身 将来嘱望される存在”

共和党内で将来を期待されてきた人物も有力候補の1人に浮上しています。それが、南部フロリダ州選出の上院議員のマルコ・ルビオ氏(53歳)です。
キューバからの移民の家庭に生まれたルビオ氏はスペイン語も堪能で、トランプ氏がヒスパニック系の有権者を取り込む上で、強力なパートナーになるとみられています。

ルビオ氏は、2016年の大統領選挙で、トランプ氏と党の候補者指名を争ったことがあります。当時、若手のホープと見られていたルビオ氏を、トランプ氏が「リトル・マルコ」と“口撃”し、ルビオ氏がトランプ氏を「詐欺師」と呼ぶなど、両者の応酬は注目されました。

その後、ルビオ氏は、トランプ氏を支持。両者は良好な関係を維持しているとみられ、ルビオ氏は、ことし6月にトランプ氏の誕生日を祝う集会にもかけつけました。

ルビオ氏は、議会の外交委員会や情報特別委員会に所属していて、時にはトランプ氏の主張とは、一線を画す姿勢も見せています。
ルビオ氏は、去年12月、アメリカの大統領が、議会上院の事前の同意なく、NATO=北大西洋条約機構から脱退することを禁止する法案をまとめ、成立につなげました。

トランプ氏が、ウクライナ支援などをめぐり、NATO加盟国への不満をたびたび口にする中、トランプ氏が大統領に返り咲いても、独断でNATOから脱退できないよう、歯止めをかけるものだと注目されました。

ルビオ氏は、当時、「われわれの国益と、同盟国の安全を守ることを確実にしなければならない」と法案の意義を強調していました。

ベン・カーソン氏 “凄腕神経外科医で閣僚経験者”

トランプ前政権のメンバーからは、元住宅都市開発長官のベン・カーソン氏(72歳)の名前が挙がっています。
カーソン氏は、中西部ミシガン州出身の元神経外科医で、1987年、世界で初めて頭部が結合した双子の分離手術に成功したことで、一躍、その名を知られるようになった人物です。

2016年の大統領選挙では、共和党の候補者選びに、唯一の黒人の候補者として挑戦し、一時、支持率トップに踊り出て、トランプ氏と首位を争いました。

カーソン氏は、その後、閣僚としてトランプ政権に入りました。トランプ氏は、メディアのインタビューで、カーソン氏を候補者の1人として挙げていてアメリカメディアは、両氏に近い人物の話として「彼らの間には本物の友情がある」と伝えています。

また、カーソン氏が、副大統領候補になれば、トランプ氏が、民主党が支持基盤とする黒人の有権者を取り込む上で、後押しになるとも伝えられています。

トム・コットン氏 “弁護士辞めて陸軍入隊 タカ派の上院議員”

外交・安全保障政策で、アメリカメディアに「タカ派の候補者」と報じられるのが、南部アーカンソー州選出の上院議員のトム・コットン氏(47歳)です。
アメリカメディアによると、トランプ氏は、長年、コットン氏を高く評価し、前政権では国防長官候補に名前が挙がったこともあります。

コットン氏は、2001年のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、弁護士の仕事を辞めて、アメリカ陸軍に入隊し、イラクやアフガニスタンで任務につきました。

議会では、軍事委員会に所属し、中国が軍備増強を進める状況を「戦争への準備だ」と指摘し、国防予算の増額を強く主張しています。

また、ウクライナ支援をめぐっては、殺傷能力の高いクラスター弾の供与をはじめとした、より強力な支援をいち早く行うよう、バイデン政権に求めていました。こうした主張からコットン氏は、トランプ氏が掲げる「アメリカ第一主義」とは一定の距離があるとされています。

バイロン・ドナルズ氏 “テレビ映えする保守強硬派”

下院議員からは、フロリダ州選出のバイロン・ドナルズ氏(45歳)の名前が挙がっています。
ドナルズ氏は、4年前に下院議員に当選して以降、トランプ氏を支持し続けてきた議員として知られ、「バイデン大統領は正当な大統領ではない」などと発言してきました。

また、今回の大統領選挙に向けた党の候補者選びでは、早くから、トランプ氏への支持を表明し、激戦が見込まれる州の集会などに参加して、支援しています。

アメリカメディアは「トランプ氏の側近から『ドナルズ氏はテレビ映えする』と評価されている」と伝えています。

ドナルズ氏は、下院の共和党議員の中で、保守強硬派に位置づけられています。政策面でも、財政の安定化に向けた政府予算の削減やメキシコとの国境沿いへの壁の建設などを訴え、トランプ氏と近い立場です。

ティム・スコット氏 “唯一の黒人上院議員 明るい人柄”

共和党の上院議員で唯一の黒人で、早くからランニング・メイト候補と見られてきたのが、南部サウスカロライナ州選出のティム・スコット氏(58歳)です。
スコット氏も、去年5月に、今回の大統領選挙への立候補を表明しましたが、党内で圧倒的な人気を維持するトランプ氏との差を縮められず、去年11月に選挙戦から撤退を表明。

そして、1月下旬、共和党の候補者選びの2戦目、東部ニューハンプシャー州の予備選挙の直前にトランプ氏への支持を表明し、その後は、各地の集会にたびたび参加して、支援しています。

アメリカのメディアはスコット氏を「前向きで明るい」と表現し、攻撃的な政治姿勢の議員とは一線を画した人柄が、アピールポイントだとしています。

エリス・ステファニク氏 “30代にして党下院ナンバー3”

トランプ氏が、女性の有権者からの支持を獲得する上で、大きな役割を担えるとされる候補者が東部ニューヨーク州選出の下院議員のエリス・ステファニク氏(39歳)です。
ステファニク氏は、共和党が多数派を占める下院の党指導部で、ナンバー3の役職の党会議議長を務めています。

3年前、トランプ氏への批判を続けていた議員が役職を解任されたのを受けて、30代という若さで、その後任につきました。

ステファニク氏は下院議員に当選した直後は穏健な立場をとっていましたが、今ではトランプ氏への強い支持を打ちだしています。

トランプ氏はどう決める?

トランプ氏の“ランニング・メイト”候補として名前が挙がる8人はいずれも議員や州知事、閣僚経験者で、トランプ氏が経験値を重視し、即戦力を求めていることを伺わせています。
一方、政治的立場や政策の方向性は、必ずしも一致している訳ではなく、候補者によってさまざまです。

例えば、上院議員から名前の挙がるバンス氏とコットン氏は、ウクライナ支援をめぐって主張が分かれていて、トランプ氏が副大統領候補に誰を選ぶかによって、政策の方向性がより明確になるかもしれません。

また、トランプ氏が大統領選挙に勝利した場合、憲法の規定から3期目を目指すことはできません。2028年の大統領選挙では、今回副大統領候補に選ばれた人物が、有力な大統領候補に一気に浮上する可能性があります。

トランプ氏は、現時点で副大統領候補を選ぶ決め手について、明確には語っていません。

ただ、選ばれた人物は、バイデン大統領を支えるハリス副大統領とのテレビ討論会に臨むことになるため、トランプ氏は、「ファイター=闘士」を求めているとの見方も出ています。

大統領候補とあわせて副大統領候補が指名される、共和党の党大会まで1か月を切る中、名前の挙がる候補者たちの一挙手一投足に、ますます高い関心が寄せられそうです。
ワシントン支局 記者
根本 幸太郎
2008年入局 水戸局、政治部、経済部を経て現職