想定外な展開も!?イラン街角中継 ビール飲んだら悪魔崇拝?

想定外な展開も!?イラン街角中継 ビール飲んだら悪魔崇拝?
4000メートル級の美しい山々が間近に迫り、スキーが楽しめる。

街のどこのスーパーでも、「ノンアルビール」が大量に売られている。

これ、どこの話かわかるだろうか。

私が駐在するイランの首都テヘランのことだ。イランと言えば、イスラエルとの対立、核開発問題など、国際情勢の「ハード」なネタが何かと多い。

今回は、ふだんあまりニュースで触れない市民の日常の姿を伝えようと、夕方の番組で、街角を歩いて紹介する中継リポートをすることにした。

あんなことが起きるとも知らずに…。

(テヘラン支局長 土屋悠志 / カメラマン モハンマド・メフディ・モハンマディ)

バザールを駆け抜ける中継リポート

中継リポートする場所は首都テヘランの北部にあるタジュリシュバザールだ。

150メートルほどバザールを歩き、隣にあるイスラム教徒のお祈りの場所まで行き着くプランを組んだ。

店主らの声を聞きながら、市民の暮らしぶりや欧米からの経済制裁の影響などを伝える目的だ。

7分程度で伝える予定だが、途中警察など当局から声をかけられて中継が中断される可能性もある。ひとつひとつのお店で長居はできない。

時間との勝負だと思い、リポートに臨んだ。

4000メートル級の山々のふもと 首都テヘラン

スタートはバザール脇の広場。山が見える場所を選んだ。
土屋記者による中継リポート
「見えますでしょうか。実は富士山よりも高い4000メートル級の山々が連なっていて、そのふもとにテヘランがあるんです」
日本から見てイランは遠い国。まずは地理的な情報を紹介した。テヘラン市民にとって、山は身近な存在。春になってもしばらくは雪が残るためスキー場へと続くロープウエー乗り場には長い行列ができる。
登山も人気で、週末になると、装備をビシッときめた“ガチ”の人から、家族でピクニックを楽しむ人まで老若男女が山へ向かう。私も登っていると、すれ違う人たちからあいさつをされる。

山脈の北側には日本の国土とほぼ同じ広さの巨大な湖、カスピ海がある。その先は、アゼルバイジャンなどのコーカサス地方や中央アジア、またロシアへと続く。

日本の中古車が2000万円で売れる!?

次に紹介したのは、バザールの前を走る車だ。
「私の後ろ、車がたくさん走っているのが見えると思うんですけど、実はこの多くはイランで作られた国産の車です。経済制裁で車の輸入も難しいため、だったら自分で作ろうということで、国産の車がいっぱい走っているわけなんです」
実はよく見ると外国の車も混じっている。中国や韓国のメーカーの車だけではなく、ルノーなどフランスの車もある。2018年、アメリカのトランプ前大統領が経済制裁を復活させるまで、この地に進出していたからだ。日本車もたまに見かけるが、多くは制裁再開前に輸入されたもの。希少価値が高く、10年ほど乗った中古車でも、モノによっては、2000万円ほどの値段になることもあるという。

数百万円以上のじゅうたんも!

続いて、世界的にも有名なペルシャじゅうたんのお店を紹介。
「模様が1個1個違っていまして、産地によって色合いだとか異なるため、イランの地方を観光するときは、違いを見るのも1つの楽しみになっています。気になるお値段なんですが、数万円から数百万円、それ以上することもあります。それをいかに(買う側が)値切ったり、逆に(売る側が)ふっかけたりという、そういう駆け引きを楽しむのも、じゅうたんを買うときのだいご味ということになります」

イラン特産品ピスタチオを使ったお菓子も

イランの名物といえば、ピスタチオだ。ナッツなどを売る店では、いろいろな種類が売られている。私のお気に入りは、サフランで黄色い色をつけ、塩味を効かせたタイプだ。量り売りで好きな量だけ買えるので、お土産としても人気だ。

中継直前、店主が消えた!

「ピスタチオをふんだんに使ったソハーンというお菓子なんですが、カリカリした食感がとてもおいしくてですね。日本人の口にもあうと思います」
中継リポート、ここまでは順調だった。

中継で絶対に紹介したいと思っていたのが、このお菓子販売店の店主だ。店主は30年ほど前に出稼ぎのため日本を訪れ、群馬県高崎市の工事現場などで働いていたという。事前に中継の下見で店に立ち寄った際、すごくフレンドリーに日本語で話しかけてくれ、日本の人たちへの感謝を伝えたいと語っていた。取材に協力したいと言ってくれたので、事前に中継の時間も伝え「店頭で待っていてほしい」と繰り返し念を押していた。

ところが、だ。

私たちが中継本番で、店に着いたとき、その店主のアスガルさんがいないのだ。
「えっ、なぜ?どこに行った?」「中継で何を話せばいいんだ?」

色々なことが頭の中を瞬時にかけめぐり、焦った。しかし、いないものはしかたない。中継の時間も限られるので、本人はいなかったがアスガルさんについて話をした。

そして、店をあとにしようとした。その時だった。思いがけない形で、彼の姿が視界に飛び込んできた。
「今なんかエレベーターみたいので降りてきました!」
私がとっさに「エレベーターみたいの」と表現したその装置は、イランの商店で、2階にある倉庫と1階の売り場を行き来するのによく使われるものだ。

振り絞った日本へのメッセージ「ホントに愛している」

ようやく本人がカメラの前にやってきてくれた。ただ、想定外の出来事がさらに続いた。

これまで会うたびに日本語で話しかけてくれていたアスガルさんだが、この日は、カメラを前に緊張したのか日本語のあいさつもないまま、ペルシャ語で話し始めた。日本語テロップもないまま、20秒もの間、ペルシャ語の音声が放送に流れた。イラン人の同僚に翻訳してもらい「自分の人生の中でも一番いい時間を過ごせた」という彼の言葉を私が代わりに伝えることになった。

インタビューの最後になってようやく、今も何とか覚えている日本語で、彼は、思いを振り絞ってくれた。
アスガルさん
「私の日本語ちょっとわかる。私の日本、みんな日本人をほんとに愛している」
こんな素敵なメッセージを伝えてくれるとは思ってもみなかった。ただ、彼が話している時点で、東京からはすでに「中継の進行が予定より遅れている」との情報を私たちは耳で受けていた。撮影していたイラン人カメラマンはアスガルさんが日本語で何を話そうとしているかわからないこともあり、発言の終盤でカメラを次の場所へ向けてしまった。結果的に、こちらの都合で失礼な遮り方になってしまったが、拾えていた音声から、アスガルさんの気持ちが日本の人に伝わっていてくれればと願っている。

実は、イランに住んでいると街で日本語で話しかけられることがしばしばある。イラン・イラク戦争(1980年~88年)が終わったあと、失業者があふれたイランから日本に多くの出稼ぎの人たちがやってきた。当時、東京の上野公園や代々木公園には、週末になると多くのイラン人が集まっていた。若かりし時を日本で過ごした人たちがその後イランに戻り、たくさん暮らしているというわけだ。

ビール飲んで騒ぐことは「悪魔崇拝」?

「こちら見えてきましたのは、軒先にイタリアンジェラートと書いてあるんですが、実は売っているのは普通のソフトクリームです」
イラン流の商売を紹介しつつ、伝えたのはイランの飲食の話だ。イスラム教にもとづいた統治を行っている政教一致のイランでは、酒は禁止。ただ、のどごしを楽しみたい人たちのために、ノンアルコールビールが大人気だ。
一方、国内で密造されたり、周辺国から山を越えて密輸されたりしたお酒を飲む人もいる。酒を飲みながら洋楽に合わせて踊っていた人たちが「悪魔を崇拝している」などとして、当局に摘発されるケースも相次いでいる。

スタバもマックもない 反米国家

バザールの一角には、ハンバーガーショップもある。反米国家のイランには、マクドナルドもケンタッキーフライドチキンもない。ただ、それに似たファストフード店は多く、欧米の食べ物や文化は普及している。コーヒーのスターバックスにいたっては、店がないのに、ロゴの入ったマグカップを愛用する人のなんと多いことか。

通貨安でキャッシュレスに!野菜は10年で“数十倍の価格に”

「次に、こちら八百屋さんです。サクランボや桃、イチジクだったり、なんでもあるんですけど、大体は国内でとれたものです」
驚くべきはその値段の変化だ。
「野菜でいうとこの10年で数十倍にも値上がりしているといいます。経済制裁の影響にもよるインフレのせいなんです。通貨安のせいで、(現金で)買い物するときには札束を持ち歩かないといけない状況で、そうならないように皆さん、(銀行口座と直結した)デビットカードを使っていて、実はキャッシュレスが日本以上に進んでいるんじゃないかと思います」
現金で支払おうとして、受け取ってもらえないこともあるくらいだ。

ヘジャブをめぐる女性たちの思いは

中継の予定時間が残り少なくなる中、私は次第に歩くスピードを速めていった。

歩きながら女性が頭にかぶるヘジャブにも触れた。
「国としてのルールは、かぶらなければいけないんですけど、それに対する考え方というのは人それぞれ。服装を強制されるということを嫌がる方もいて、デモが起きたり、たびたび衝突なんかも起きたりもします」
2022年にはデモ隊と治安部隊との衝突が起き、数百人が死亡したと指摘する人権団体もある。イランの女性たちにとって、とても敏感で重要な問題だ。

ヘリ事故で死亡したライシ大統領を追悼 選挙の行方は?

中継の最後に紹介したのは、お祈りの場となっている宗教施設。屋根や壁にブルーのタイルが施された美しい場所だが、足を踏み入れると政治との関わりを感じる。
「憩いの場にもなっているんですけども、一方であちらを見てください。アメリカに殺害された司令官の写真が飾ってあるなど、政治が宗教界と密接な関わりがあることがうかがえます」
施設の敷地に入ってすぐ右側には、軍事精鋭部隊・革命防衛隊でかつてイラン国内で英雄視されていたソレイマニ司令官の写真が見える。2020年にアメリカ軍によって隣国イラクで殺害された人物だ。イランは報復としてアメリカ軍の拠点を10発以上の弾道ミサイルで攻撃し、一時、全面的な軍事衝突に発展するおそれすらあった。
また、5月にヘリコプターの事故で亡くなったライシ大統領らの写真や絵が追悼のために掲げられている。ライシ大統領の死亡を受けて、6月28日には大統領選挙が行われる。有権者は18歳以上の国民で、直接国民が大統領を選ぶ。
「選挙では、ライシ政権の欧米との対立もいとわない路線が継承されるかどうかというのが1つの焦点になっています。ただ、きょう見たバザールの中にいたような人たちの中には、暮らしをよくするためにも、欧米とももっと仲よくしてほしいという人たちもいます。イランの人たちがどんな選択をするのか、注目したいと思います」
締めコメントを言いながらも、私の息は完全にあがっていた。ハァハァという私の息づかいがマイクを通じて放送に出てしまっていた。次に機会があれば私のではなく、イランの人たちの息づかいをもっと伝えたいと思っている。
テヘラン支局長
土屋 悠志
2005年入局 函館局 福岡局
カイロ支局 松江局などを経て現所属
テヘラン支局カメラマン
モハンマド・メフディ・モハンマディ
2006年からNHKでカメラを回す
(6月20日 午後LIVEニュースーンで放送)