フィリピン元国防相 南シナ海拠点維持へ国際社会支持呼びかけ

フィリピンが実効支配する南シナ海の岩礁の周辺で、中国が威圧的な行動を強める中、かつて、この岩礁に軍の拠点を設けるのに成功したフィリピンの元国防大臣がNHKの取材に応じ、フィリピンが拠点を守り抜くことは多くの国の利益だとして、日本をはじめとする国際社会の支持を呼びかけました。

NHKの取材に応じたのは、1999年にセカンド・トーマス礁に軍艦を座礁させフィリピン軍の拠点とする政策を実行し、南シナ海問題で発言力を持つメルカド元国防相です。

メルカド氏は、6月17日に中国海警局がフィリピン船に対する臨検を行ったことについて、「中国は銃火器を使わずに勝とうとしている。これは、明らかに中国の長年にわたるグレーゾーン戦術やハイブリッド戦術の一部だ」と述べ、今後も中国の圧力が続くという見方を示しました。

メルカド氏は、フィリピン軍による拠点の設置は1995年に中国が隣接するミスチーフ礁を占領し、その後、巨大な人工島の建設に着手したことへの対抗策だったとして「自国の権益を守るにはどうしたらよいかアイデアを求めたところ、海軍が発案した」と振り返りました。

また当時、より多くの軍艦を座礁させ、拠点とする構想があったものの政権交代により実現できなかったと明らかにしたうえで「10年、20年前にやっておくべきだったが、まだ遅くはない。私たちは今こそ、本気で取り組まなければならない」と述べ、老朽化した座礁船の補修など、拠点の維持と強化がいまこそ不可欠だと訴えました。

そのうえで、フィリピンが拠点を失わないことが「国際航路を利用する多くの国々の利益と結び付いている」と述べ、アメリカや日本をはじめとする国際社会の支持を呼びかけました。

セカンド・トーマス礁周辺海域 対立の経緯

対立の現場となっているのは、南シナ海でフィリピンが実効支配する岩礁、セカンド・トーマス礁の周辺海域です。

フィリピン政府は、現場の海域は自国の排他的経済水域の内側だと主張していて、1999年には岩礁に軍艦を意図的に座礁させ、兵士が常駐する拠点として活用しています。

しかし、水や食料などの補給が不可欠で、ことし3月には、拠点に向かうフィリピンの輸送船が中国海警局の船に放水銃で妨害され、初めてけが人が出ました。

その後も中国による妨害行為が相次ぎ、5月には航空機から投下した食料を中国側に奪われたほか、救急患者1人を搬送しようとした際にも妨害を受け、フィリピン側が「非人道的だ」と非難していました。

こうした中、フィリピン軍は6月17日に複数のゴムボートなどを使って、改めてセカンド・トーマス礁への補給を試みましたが、フィリピン政府によりますと、海警局の船が高速で衝突してきたため、軍人1人が親指を挟まれて切り落とす大けがを負いました。

また、海警局側がフィリピン軍のボートに初めて乗り込んで臨検を行い、銃器や乗組員の携帯電話を押収したほか、モーターや通信機器を壊したり4隻のゴムボートに穴をあけたりしたということですが、フィリピン軍は、相手が中国軍ではなく海警局であったため、銃器の使用を自制したとしています。

フィリピン政府は、中国側の臨検は違法であり主権の侵害だと訴えています。

一方、中国海警局は、セカンド・トーマス礁を中国名の「仁愛礁」と呼んで主権を主張していて、フィリピン当局の船が不法に侵入したため取り締まったとしています。

中国海警局は6月に、領海侵犯に対する法執行の手続きを明確化した法令を施行したばかりで、海警局の報道官は「法に基づき乗船検査や強制退去などの取締りの措置を講じ、その対応は合理的かつ合法的で専門的だった」と主張しています。

両国の主張が対立する中、フィリピン政府は21日に、今後、軍による補給活動の予定を事前に公表することで、不測の事態を避けたいとする方針を発表しました。

ただ、中国側が通告があれば補給を認めるとするのは、水や食料に限られ、フィリピン側が老朽化した座礁船の補修など、拠点の強化につながる物資を運び込もうとすれば、緊張が高まる事態も予想されます。