【独自検証】TikTokにあふれる誤情報… 総再生数は3億回超に

自分の好みに合った短い動画を次々と気軽に見られ、若い世代で利用が増えている「TikTok」。

NHKが投稿されている動画を独自に分析したところ、誤情報や根拠のない情報などが含まれる動画が多く確認され、そうした動画の総再生回数は少なくとも3億回を超えることが分かりました。

なかには「がん」や「不妊」など、命や健康に関わる誤情報も。

取材で明らかになった実態とは?

誤情報を検証すると…

NHKは、TikTokのキーワード検索や「おすすめ」に出てきた、10万回以上再生されている動画で誤情報や根拠のない情報などがどれだけ出ているか検証しました。

検証は、公的機関のデータを調べたり、専門家に取材したりしたほか、NHKや各国のファクトチェック団体がこれまでに検証した結果などを元に行いました。

その結果、こうした動画が少なくとも170件以上あることが確認できました。

すでに削除されたものもありますが、これらの動画の再生回数は合わせて少なくとも3億回を超えています(6月20日正午現在)。

100万回以上再生されている動画は93件で、なかには1件で960万回以上再生されている航空機事故に関するものもありました。

最も多かったのは、健康や医療に関するもので少なくとも35件あり、「陰謀論」の動画が少なくとも27件、お金やビジネスに関するものが少なくとも18件ありました。

一方、旧ツイッターのXなどで多く見られる新型コロナウイルスやワクチンに関する誤情報などを含む動画の拡散(10万回以上再生)はあまり見られませんでした。

命に関わる誤情報も

今回、NHKでは医療や妊娠・出産など命や健康に関わるTikTokの動画について、専門家とともに検証しました。

多く見られたのが日本人の2人に1人がなるとされる「がん」に関する誤った情報です。

たとえば「クエン酸重曹水を飲むと、がんと戦う細胞ができる」とする誤った情報の動画は300万回以上、「アルカリ性食品ががんに効く」とする誤った情報の動画は59万回以上、再生されていました。

国立がん研究センター がん対策情報センター本部の若尾文彦医師は「いずれの情報も科学的なエビデンスはない。アルカリ性食品に限らず、身近なもので何かできるということに魅力を感じているほうが多いと思うが、がんはそんなに簡単に防いだり、治すことは今の時点ではできない。もし仮に有効であれば、広く行われるようになるが全く広がってない」と指摘しています。

また「抗がん剤に意味はない。使っているのは日本だけ」などとする動画が17万回あまり再生されていましたが、若尾医師は「副作用などを考えて抗がん剤を受けたくない気持ちは理解できるが、抗がん剤は世界各国で使われ、効果も確認されている」と述べ、強く否定しました。

健康に害を与えかねない情報も

妊娠や出産などに関わる誤った情報もありました。

たとえば「ピルを飲めば飲むほど妊娠しづらくなる」などと主張し、ピルを飲むのをやめても妊娠しづらいと誤解させる動画は15万回以上、再生されています。

これについて、横浜市立大学・産婦人科の宮城悦子主任教授は「卵巣の機能が正常であれば、ピルをやめると早い人で次の月から排卵するようになる。ピルによって将来的に不妊になると思う必要は全くない」と話しています。

そのうえで「こうした情報によって、本当に困ってる人たちを助けるための薬に対して、悪い印象を持たれることはよくない。1つの動画だけで信じ込まずに身近なクリニックに相談に行くなどの対応をしてほしい」と話しています。

また、親から子どもへの遺伝に関する動画も多く拡散されていますが、宮城教授は「子どもの成長は、遺伝と生育環境の両方が大事で、遺伝で100%説明できるものは少ない。いろんな複合要因がある中であたかも絶対かのように言うのは危険だ」と注意を呼びかけています。

誰が何のために

健康や医療に関する偽情報や誤った情報を発信しているTikTokのアカウントの中には

▽「美容外科のクリニック」や「がん治療専門の医師」「不妊治療のクリニックの代表」など医療関係者を名乗るものが見られたほか、
▽健康食品やサプリメントなどを販売するサイトなどに誘導するものもみられました。

陰謀論の発信者は?

また、政治的・社会的な出来事の背景になんらかの大きな力や陰謀が働いているとする考え方、「陰謀論」の動画も多く見られています。

たとえば「新紙幣が発行されると旧紙幣は使えなくなり、預金が封鎖される」などとする動画は複数、拡散されていて、185万回以上再生されているものもありました。

財務省理財局の担当者は「7月の新紙幣発行後もこれまでの紙幣は引き続き使えるので、詐欺行為などには注意してもらいたい」と否定。

金融政策に詳しい帝京大学経済学部国際経済学科の宿輪純一教授も「今の経済状況で預金封鎖はありえない」と話しています。

「陰謀論」を発信するアカウントの中には対策方法を教えるなどとしたうえで、連絡した人の不安をあおり、暗号資産の購入を勧めるものもありました。

収益目的のアカウントも?

NHKで調べたところ、今回、確認できた動画のうち、商品の販売サイトなどに誘導するアカウントによる投稿が少なくとも46件ありました。

また、暗号資産の購入を勧めるアカウントによる投稿が6件あったほか、「お金の稼ぎ方を教える」などとしてLINEやインスタグラムで直接のやりとりを誘うアカウントによる投稿が10件ありました。

さらに、TikTokにはフォロワーの数などの一定の基準を満たすと報酬を得られる仕組みがあり、これを目的にしたアカウントもあるとみられます。

TikTokの対応は

TikTokは利用者向けのガイドラインで、誤情報への対応について示しています。

TikTokを運営する会社の日本法人はNHKの取材に対し、以下のように説明しています。

「アップロードされる動画は、ガイドラインに違反しているコンテンツを特定する自動モデレーション技術により審査されます。このシステムは、すべてのコンテンツを対象とし、キーワード、画像、タイトル、記述、音声などのさまざまな要素を調べます。システムと連携してトレーニングを受けた専門のモデレーターが、必ずしも技術的に検出されるとは限らない詳細な文脈やニュアンスを考慮した審査を行います」

そして、偽情報や誤った情報だと思われるものをユーザーが見つけた場合には、アプリ内から報告することもできるとしています。

「報告する」のボタンから通報ができる

しかし、実際にNHKが確認した動画のうち、命にもかかわる健康・医療と災害に関するもの、あわせて42件を報告したところ、ほとんどは30分で審査が終わりましたが、ガイドライン違反と判断されたのは、2件だけでした。

いずれも「人工地震」にかかわるもので、「動画はほかのユーザーにおすすめとして表示されなくなる」と回答がありました。

また、次から次に同じような内容のおすすめの動画が表示されることで、異なる視点の情報に気付きにくくなる「フィルターバブル」にはまりやすい懸念があるという指摘についても、TikTok側に聞きました。

この点については、「フィルターバブルは深刻に捉えている懸念事項の1つだ」としたうえで、「おすすめ」では▽同じクリエイターによる動画などが2つ連続して表示されない、▽時々異なる動画を提供するなどの対策をとっていると説明しました。

TikTok 10代後半の2人に1人が利用

TikTokを月に1回以上、利用していると答えたのは、ことし1月に行われた調査で▽15歳から19歳は55%、▽20代では33%となっていて、特に10代を中心に、ここ数年で利用が広がっています。

専門家「何回も見ると影響のリスク」

SNSでの偽情報や誤情報の問題に詳しい東京大学大学院の澁谷遊野准教授に聞きました。

澁谷准教授
「TikTokはそれぞれの興味関心にマッチする形で似たような動画を繰り返しおすすめに出す『個別最適化』が強いプラットフォームで、『ちょっとおかしいな』という情報であっても似たようなものを何回も見ることで、少しずつ影響を受けるリスクがあるのではないか」

「若い世代が気がつかないまま『フィルターバブル』の中で長い時間、不確かな情報に触れてしまう危険性もある。中長期的な影響がないように、しっかりと対応策を取ることが必要だ」

そして、誤った情報へのTikTok側の対策が追いついていない部分もあるとしたうえで、対策について第三者が検証できる情報開示が求められると指摘しました。

SNSを安全に楽しむために

最後に、専門家にTikTokを含むSNSでみられる情報をどう受け止めればよいか聞きました。

国立がん研究センター 若尾文彦医師
「全く事実ではない情報を信じることで、効果のある治療を受けず、命を縮めることにつながってしまうので、1つの情報だけを信用せずに、ほかの医療者や全国のがん診療連携拠点病院にある相談支援センターなどで意見も聞いた上で判断してほしいと思います」

横浜市立大学 宮城悦子教授
「SNSの情報だけを信じて、友達に口で伝え、またそこからSNSで拡散されるということは非常に危険をはらんでいると思います。そういう情報に触れたら、1度、本当かなというふうに思って、正しい情報を取りに行くということが重要だと感じます」

東京大学大学院の澁谷准教授はSNSを楽しむために4つのポイントをあげました。

澁谷准教授
「おすすめに流れてきたものだけを楽しむのではなく、他のプラットフォームを見たり検索をしてみたりするなど、いろいろな角度から情報を集めるのがよいのではないでしょうか」

アメリカでは“TikTok禁止法”も

TikTokをめぐっては、誤情報などの問題に限らず、世界各国で規制などの動きが広がっています。

中国企業が運営していることから、アメリカでは情報漏えいへの懸念が指摘され、5月には、TikTokがアメリカでの事業を売却しなければ国内での配信を禁止することを盛り込んだ法律が成立しました。TikTok側は憲法に違反しているとして法律の差し止めを求める訴えを起こしています。

また、EU=ヨーロッパ連合でも4月、TikTokの一部のサービスについて、未成年に対する中毒性のリスクが懸念されるなどとして調査を始めています。

日本でも若い世代を中心に利用者が増えるなかで、こうした課題にどう対応していくのか、注視する必要がありそうです。

(取材:ネットワーク報道部記者 岡谷宏基・籏智広太)