海底鉱物資源の活用に弾みつくか注目 引き上げ実証試験へ

東京大学などは、小笠原諸島の南鳥島沖で、資源価値が高いコバルトなどを含んだマンガンノジュールと呼ばれる鉱物が密集する海域を特定し、早ければ来年から一日当たり2500トン規模で引き上げる実証試験を始める計画を発表しました。

実用化に至っていない日本周辺の海底の鉱物資源の活用に向けて弾みがつくと注目されます。

マンガンノジュールとは

マンガンノジュールは海水に含まれる微量の金属が数百万年から千数百万年もの長い時間をかけて沈殿して生じた球状の物体で、コバルトやニッケルなどの資源価値が高い金属が含まれています。

直径は数センチから十数センチほど、大きいもので手のひらほどの大きさがあり、深海の海水に含まれる微量の金属が、海底に沈んでいた岩石や魚の歯、泥の固まりなどを核としてその周りに沈着し、同心円状に成長したものと考えられています。

東京大学などのチームが研究をリード

国内では、2016年に東京大学の加藤泰浩教授や千葉工業大学の研究チームが海洋研究開発機構の潜水調査船「しんかい6500」を使って南鳥島沖の排他的経済水域を調査し、海底にマンガンノジュールが大規模に分布していることを発見したと発表しました。

その後も同じ研究チームが、採取したマンガンノジュールの詳しい成分分析や形成されるメカニズムを明らかにするなど研究をリードしており、こうした海洋資源の活用に道筋をつけたいと、日本財団とともに今回発表した大規模な実証試験に向けた検討や調査を進めてきました。

マンガンノジュールが密集 有望な海域を特定

東京大学などは、小笠原諸島の南鳥島沖で、資源価値が高いコバルトなどを含んだマンガンノジュールと呼ばれる鉱物が密集する海域を特定し、早ければ来年から一日当たり2500トン規模で引き上げる実証試験を始める計画を発表しました。

これは21日、東京大学と日本財団が都内で会見を開いて発表しました。

それによりますと、東京大学などの研究チームは、ことし4月から今月にかけて、日本の最東端に位置する小笠原諸島の南鳥島沖にある排他的経済水域で、鉱物を引き上げる装置を船から海底に落下させ水深5500メートル付近を100か所余りにわたって調査しました。

その結果、海底を覆い尽くすようにマンガンノジュールが密集する有望な海域を特定し、この付近にはおよそ2億3000万トンものマンガンノジュールが資源として利用しやすい形で分布していると見積もられるということです。

“コバルトの資源量 日本の年間消費量の75年分”

一部を引き上げて分析を行ったところ、鉄やマンガンを主成分として、電気自動車の蓄電池などに利用されるコバルトやニッケルが速報値として平均で0.4%前後含まれていることを確かめたということです。

コバルトの資源量は日本の年間消費量の75年分にあたるおよそ61万トン、ニッケルは11年分にあたるおよそ74万トンと見積もられるとしています。

そして、早ければ来年から海底資源の開発で実績がある海外の企業と協働して、70億から80億円を投じて一日当たり2500トン規模でマンガンノジュールを引き上げる大規模な実証試験を始める計画を明らかにしました。

国内でマンガンノジュールを大規模に引き上げる計画は今回が初めてということで、成功すれば実用化に至っていない日本周辺の海底の鉱物資源の活用に向けて弾みがつくと注目されます。

実用化にはマンガンノジュールから低コストで効率的にコバルトなどを取り出す技術の開発なども必要となるということですが、東京大学の教授で、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターの所長も務める加藤泰浩さんは「マンガンノジュールは海底鉱物資源のなかでは最も進んでおり、経済性が見合うようにすることはできると考えている。海洋環境に負荷をかけることがないよう、皆さんが納得するデータをしっかり示していきたい」と話していました。

国内初の計画 その意義は

南鳥島沖の排他的経済水域の水深5500メートル付近では、海底の表面からマンガンノジュールが見つかったほか、海底に積もった泥の中からは電気自動車や家電の心臓部のモーターなどに使われる、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースも見つかっています。

南鳥島沖の海底に眠っているレアアースの資源量は少なくとも1600万トンと推計され、マンガンノジュールのほかにも資源価値の高い金属が豊富に存在すると期待されています。

研究チームによりますと、国内初となる実証試験の計画で南鳥島沖の海底からマンガンノジュールを大規模に引き上げられることが確かめられれば、同様の技術を応用して海底の泥に含まれるレアアースの回収にもつながることが期待され、実用化に至っていない日本周辺の海底の鉱物資源の活用に向けて弾みがつくと注目されます。

実用化に向けては課題も

実用化に向けてはまだ課題もあります。

研究チームによりますと、マンガンノジュールを引き上げて採算が取れるようになるためには、一日当たり2500トンという実証試験の規模はまだ十分ではなく、さらに4倍ほど規模を大きくする必要があるといいます。

それに加えて、海底からマンガンノジュールを引き上げたあと、コバルトやニッケルを製錬して低コストで効率的に取り出すことも、実用化に向けた課題の1つとなっています。

東京大学などの研究チームによりますと、こうした金属の製錬に関しては国内の企業も高い技術を持っていることから、企業にも参画してもらい、マンガンノジュールを使った技術開発にもつなげたいとしています。

環境への影響にも配慮が必要

また、海底からマンガンノジュールを大規模に引き上げることに伴う環境への影響にも配慮する必要があります。

深海の海底にある資源の開発をめぐっては、資源量の調査に加えて、海底に生息する生物など環境への影響についても慎重に評価することが求められるといいます。

今回の調査では、無人の潜水機に搭載した高性能のカメラを使って海底の様子を撮影したほか、海底の泥の堆積物も採取し、周辺に生息する生物に関する分析を進めることにしています。