“日本人ではないから…”国籍だけで入居不可に!? その実態は

“日本人ではないから…”国籍だけで入居不可に!? その実態は
「外国籍の方のご入居は不可となります」

スペイン人の男性のもとに届いた、1通のメール。マンションを内覧したいと不動産会社の店舗に問い合わせたところ、門前払いされたというのです。

日本に在留する外国人が過去最多になる一方で、住宅を借りる際などに外国人であることを理由に差別や不平等さを感じた人は半数近くに上っています。国は「入居拒否は不当な差別にあたるおそれがある」と呼びかけていますが、外国人への入居拒否が後を絶ちません。その実態と、解決に乗り出す取り組みを追いました。
(おはよう日本 ディレクター 山田加奈子)

※記事の最後に、外国人の方が家を探す際に役立つ情報をまとめています。

“入居拒否”の再現動画がSNSで拡散

280万回以上再生されている、この動画。

日本で生まれ育ったイギリス国籍の俳優が、東京都内の不動産会社で入居を断られた経験をみずから再現したといいます。
ジョシュア・トムソンさん
「国籍がイギリスというだけで断られてしまうことに対して、単純にすごく悲しい気持ちになりました。この経験をおもしろおかしく動画にすることで、自分の中でも消化したいという気持ちがありました」
動画のコメント欄には、多くの外国人から同じような経験をしたという声が多数寄せられています。
「20年以上日本に住んでいるのに、断られてばかりだ」

「永住権を持ち、日本の大手企業に勤めているのに、外国籍というだけで断られた」

「“ペット可なのに外国人不可”の物件が結構あった。私たちは動物以下なのか…」

日本人の保証人がいても“入居不可”

日本に在留する外国人は341万人と過去最多になっています。(2023年12月末時点 出入国在留管理庁より)

その一方、民間の住宅情報サイトの調査(2022年)では「外国人であることを理由に、内見や契約手続きで差別を受けた/不平等さを感じた」と回答した人は約4割に上っています。
6年前に来日した、スペイン国籍の男性(36)です。
公立大学で講師として働いています。

2023年1月、兵庫県のマンションを内覧したいと不動産会社にメールで問い合わせたところ、次のような回答が送られてきました。
“外国籍の方のご入居は不可となります”

日本語が話せて、日本人の保証人がいると伝えても、結果は変わりませんでした。納得がいかなかった男性は、地元の法務局に調査を求めました。

ところが「相手を指導したり罰したりすることはできない」という回答を受け、申し立てを諦めることにしました。
スペイン国籍の男性
「がっかりしました。(不動産会社から)年収はいくらか、仕事は何か、こうした質問はありませんでした。私のことは何も知らないのです。国籍だけを理由に断られたのです。このことについて、国の対応にも失望しました。申し立てを行うための手続きは煩雑で、仮に行ったとしても、調査が行われるとは限らないということが分かったのです」

不動産会社「これが日本の実情」

私たちは男性にメールを送った不動産会社に取材を申し込みました。

すると、店舗の責任者は“入居拒否をするつもりはなかった”と話し始めました。
不動産会社の店長
「対応したスタッフはもう店舗に在籍していない。当時、目まぐるしく忙しい時期だったので、たまたまの行き違いだと思う。でも正直に言いますと、ほかの不動産の管理会社でも結構、外国人を嫌がるところはあります。日本の実情はそういうことじゃないですか」

取材ディレクター
「実情というのは?」

不動産会社の店長
「外国籍の方で部屋めちゃくちゃにされたり、日本人の方が怖がって退去されたりしたら家賃が入ってこなくなるので、大家からしてみれば痛手じゃないですか。なので“日本人にしてください”とか、そういう実情はありますよ」

拒否の理由はトラブルへの“不安”

外国人への入居拒否の背景にあるとされるのが、物件を所有する大家や管理会社が抱える不安です。

日本賃貸住宅管理協会が行った調査(2022年)では、外国人が入居中に何らかのトラブルが生じたと回答した大家は52.7%。

ゴミ出しのルールを守らなかったことや、騒音による近隣トラブルが最も多いとしています。
外国人の賃貸市場に詳しい 日本賃貸住宅管理協会 荻野政男常務理事
「外国人に貸すことに対してのネガティブな情報というのは結構ありますので、直接経験したことでなくても、ほかの方からそういう話を聞いて不安をもってしまう大家はいます。貸したい気持ちもあるけど、ほかの方に迷惑をかけてはいけない、閉鎖的になってしまうという傾向は都市部よりも地方のほうがあると思います」

空室対策のため“受け入れたい”

この問題を解決しようという取り組みも広がっています。

静岡など3県で物件を所有する大家の男性は、2023年末、部屋を貸していた東南アジアの外国人が退去したとき、想像以上に部屋が汚れ、対応に追われました。
油を使った料理を毎日のようにしていたため、換気扇からは大量の油が垂れ落ち、キッチンの排水溝にはタバコの吸い殻でびっしり詰まっていたといいます。大家は「ここまで汚された部屋は初めてだった」と振り返ります。

部屋を現状復帰するのに約65万円の修繕費がかかり、赤字となる見込みです。

そこでこの大家は、みずから管理している物件について、入居時の注意点を丁寧に説明しています。日本の生活習慣にあらかじめ同意してもらうのがねらいです。
さらに、入居時に油の凝固剤や殺虫剤など、部屋をきれいに使うためのグッズを無償で提供。みずから使い方を指導しています。

空室対策を考えると、今後も工夫しながら外国人を受け入れていきたいとしています。
大家のソーリムウーハーさん(ハンドルネーム)
「(外国人入居者の)マナーが悪いというよりは、日本のマナーを知らないっていうところが問題なのかなと思います。外国人をいい条件で受け入れることができれば、空室期間も短くなって、運営も回っていきますので。そういう対応策をやっていかないといけないですね」

外国人“フレンドリー”な不動産会社を集める

外国人と、外国人に理解のある不動産会社を結び付けようという動きもあります。

都内で住宅情報サイトを運営する会社では、外国人をはじめ、さまざまな背景をもつ人々に対し理解があり、住まい探しの相談に応じてくれる不動産会社を検索できるサイトを立ち上げました。
発案したのは、中国・上海出身の社員、キョウ 軼群(イグン)さんです。

5歳から日本で暮らしてきましたが、自身や家族の住まい探しに苦労する経験をしてきました。

大学時代、留学のため来日した従姉妹の家探しを手伝うため、不動産会社を回ったものの「中国人の留学生は難しい」と取り合ってくれなかったといいます。
LIFULL FRIENDLY DOOR責任者 キョウ 軼群さん
「従姉妹は日本語の会話も不自由なくできますし、日本人の保証人も立てていました。2009年当時、国が『留学生30万人計画』を掲げていたなかで、日本社会の矛盾を感じました」
シングルマザーなど、実際に住まい探しに苦労したことのある社員がキョウさんのもとに集まり、2019年にサイトの運営を開始。当初は約500店舗ほどだった不動産会社は、現在、5700店舗以上に増加しています。そのうち、約4400店舗が外国人に理解を示しています。

キョウさんは、外国人受け入れに積極的な会社で聞き取り調査を行い、他社向けに情報発信をするという活動も行っています。

サイトに登録している、川崎市の不動産会社です。
この会社では、外国人に入居してもらうことがビジネスでもメリットになると考え、外国人の社員を積極的に採用しています。

この中国籍の社員は、中国語や英語を使って入居のマナーを説明することで、入居後のトラブルを減らせているといいます。
エヌアセット 林同財(リン・ドウザイ)さん
「英語版の契約書を用意しながら、ゴミの出し方とか、土足で中に入らないとか、生活の一般的なルールを契約時に重点的に説明しています」
エヌアセット営業部 上野謙 部長
「和室の部屋や、風呂・トイレ・洗面所が一緒になったいわゆる“3点ユニット”タイプの部屋などは入居者が決まりにくい物件と言われています。ところが、外国の方はこうした物件に対して抵抗がない場合が多いので、空室を埋めるという意味でのメリットは非常に大きいです。そこでトラブル対応が生じるのはしょうがないと思うので、あとはそれを受け入れるバックグラウンドだけ用意しておけばよいと思いますね」
キョウさんは、外国人に理解のある不動産会社が全国に広がっていくことで、外国人の住まい探しの助けになってほしいと考えています。
キョウ 軼群さん
「リスクを減らしながらビジネスチャンスをしっかりつかんでいくための、ウィンウィンになると思っています。日本にある不動産会社や皆さんが外国の方にフレンドリーになってくれれば、私のサービスは必要なくなるので、それが一番のゴールだと思っています」

◇取材後記(住まい探しをする外国人の方へ)

国土交通省のホームページでは、住まい探しをする外国人向けの情報を公開しています。

英語や中国語、韓国語など14の言語に対応した「部屋さがしのガイドブック」には、部屋の探し方、契約の手続き、入居後の注意点など、日本で部屋探しをして生活をする上で必要な基礎知識などが書かれています。
また、やさしい日本語で「外国人のための賃貸住宅入居の手引き」(リーフレット)も公開しています。外国語で対応できる不動産会社のウェブサイトなどを紹介しています。
今回の取材で印象的だったのが、キョウさんや林さんのような外国人の社員が、日本に住む外国人を助けるために志をもって働く姿でした。

一方で、周囲の偏見や無理解に心折れ、辞めていってしまう社員もいます。

専門家の荻野さんによると、外国人社員が大家や管理会社に問い合わせをする際、入居希望者が外国人だと伝えるだけで何度も断られ、電話をかけた社員の日本語の発音が違うだけで詳しい話を聞いてもらえない場合もあるそうです。

国籍やルーツ関係なく誰もが住まいをもち、働きやすい社会をつくるために何をすべきなのか。この問いに私たち一人一人が向き合うべきであると、強く感じました。

(2024年6月5日「おはよう日本」で放送)
おはよう日本ディレクター
山田加奈子
2010年入局
大分局、政経・国際番組部などを経て、現職
在留外国人の課題について取材