「地球温暖化も問題なし?」トランプ氏のエネルギー政策とは?

「地球温暖化も問題なし?」トランプ氏のエネルギー政策とは?
「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗りなさい』などと言われることに本当にうんざりしています」

こうバイデン政権を批判するのは、トランプ氏に近いとされるエネルギー・環境分野の専門家です。

バイデン政権が最重要課題として推し進めてきた気候変動対策。
仮に“アメリカ第一主義”を掲げるトランプ氏が返り咲いたら、いったいどうなるのか。話を聞きました。

(ワシントン支局長 高木優)

話を聞いたのは

トランプ政権時代の側近らが集まる保守系のシンクタンク・AFPI(アメリカ第一政策研究所)でエネルギー・環境分野を担当するカーラ・サンズ氏です。
トランプ政権ではデンマーク大使を務め、選挙集会でも応援演説に立つなど、トランプ氏に近い専門家の1人とされます。

気候変動対策を最重要課題に掲げてきたバイデン政権をどう見ているのか。トランプ氏が返り咲けばどのようなエネルギー政策をとるのか、そして、それはどんな考えに基づくのかを尋ねました。

「アメリカ国民はバイデン政権にうんざり」

EV=電気自動車の普及や、再生可能エネルギーの推進などに巨額の補助金を投じてきたバイデン政権。
2024年1月には、地球環境に及ぼす影響について調べるためとして、LNG=液化天然ガスの新たな輸出許可の一時凍結を発表しました。

サンズ氏はこうしたバイデン政権の政策を厳しく批判します。
「アメリカ国民はバイデン政権から『EVに乗らなければならない』とか『あのガスコンロや洗濯機は購入できない』などと言われることに本当にうんざりしています。
バイデン政権が行ったLNGの輸出凍結措置は、精製施設やメキシコ湾沿いのテキサス州やルイジアナ州から搬出するための拠点の建設をストップさせました。私たちは雇用を求め、もっと多くのエネルギーの採掘を求めています。
例えば私の出身地であるペンシルベニア州はLNGの生産でテキサス州に次ぐ第2位の能力がありながら、それに見合うだけの生産をしていません。
生産量の増加のペースが非常に遅いのは、民主党とバイデン政権がエネルギーの採掘能力の増強を規制しているからです」

トランプ氏のエネルギー・環境政策は?

「化石燃料を掘って掘りまくってエネルギーコストを下げる」

「ドリル、ベイビー、ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)!」

トランプ氏は、雇用を生み出すためだなどとして、アメリカの石油・天然ガス産業を後押しすると主張しています。

2期目に向けた公約を集めたサイト「AGENDA47」に掲げるエネルギー政策でも、ことごとくバイデン政権の政策に反対しています。
AGENDA47
▼アメリカの石油・天然ガスプロジェクトを立ち往生させている政府による制限をすべて撤廃
▼バイデン政権が強化した自動車の排ガス規制など、自動車産業の発展を妨げている規制の撤廃
▼「パリ協定」から再び脱退 過激な左派が掲げるグリーン・ニューディール政策に反対
「私はトランプ大統領と彼の選挙運動を代弁しているわけではありませんが、彼自身の発言などから優先事項を引用することはできます。
彼の言葉は『ドリル、ベイビー、ドリル』です。
アメリカの高度な技術によって、われわれは最もクリーンな形でエネルギーを採掘、処理し、輸送できます。環境を破壊せずにアメリカのLNGの採掘量を増やし、日本などの同盟国に売ることができるのです。
日本はわれわれのエネルギーを必要としており、われわれは日本への輸出を増やす必要があります」

「中国、インドこそもっと行動を」

サンズ氏は、バイデン政権は一部の左派によって動かされていると指摘するとともに、地球が温暖化しているという科学的分析に対しても疑念を隠しませんでした。
「バイデン大統領はLNGの輸出停止措置が悪いことだとわかっていると思います。
ただ、今年は選挙の年なのです。バイデン氏の支持層には、この気候変動問題を推進する極端な左派がいます。こうした左派は一種の宗教のようなものであり、いわゆる気候変動を軸に国際秩序を書き換えようとしています。
しかし、実際のところは、地球では深刻な悪影響を及ぼすような温暖化は起きていません。1960年代、70年代より環境は改善され空気はきれいで、すべての先進国は公害の抑制に取り組んでいます。
ただし中国やインドはもっと行動する必要があります」

「寒冷化によって死ぬ人の方がはるかに多い」

「地球では有害な温暖化は起きていない」と主張したサンズ氏。

それは科学者によって証明されているのではないかと問い直すと、サンズ氏は強い口調で反論しました。
「すべての科学者が“地球温暖化の有害性”に同意しているわけではありません。
しかし、同意しない科学者は、政治的に正しくないという理由で、専門誌などから排除されているために主張が掲載されないのです。
地球は少し温暖化しているかもしれませんが、地球が寒冷化するよりは、温暖化する方が多くの人々が生き延び、繁栄することができます。寒冷化によって死ぬ人の方が温暖化によって死ぬ人よりもはるかに多いのです」

「エネルギーの選択を人々に」

さらにサンズ氏は、トランプ氏がバイデン政権が進めてきた規制を撤廃すると主張する理由を次のように解説しました。
「トランプ政権は全てのエネルギーを公平に扱う方針です。政府は、好みのエネルギーだけに補助金を出して、エネルギーの勝者と敗者を決定するべきではありません。
自由市場こそが最善の方法であり、政府ではなく人々に選択させるべきなのです。
トランプ氏は政権に就いた時、1つの規制を作るたびに2つの規制を廃止すると言いました。実際には1つの規制を作るのにおよそ7つの規制をやめました。
そのことにより雇用を増やし、税金をカットし、ビジネスをやりやすい環境を作り出しました。そうしたことこそが、われわれのエネルギー政策が評価された理由であり、この50年で初めてエネルギーの自立を果たした理由です。
その状態に戻ることができれば、われわれはみずからのエネルギーを使い、アメリカ国内の消費者コストを下げ、エネルギーを同盟国や友好国に売ることができるようになるのです」

温暖化対策の枠組み「パリ協定」は?

トランプ氏は、2016年の大統領選挙の選挙運動中から、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から脱退することを公約に掲げ、実際に大統領に就任すると直ちに実行に移しました。
サンズ氏は、トランプ氏が返り咲けば、「パリ協定」から再び脱退するとみられるのは、アメリカに利益をもたらさないからだと主張しました。
「トランプ氏はパリ協定からの脱退を誇りに思っていました。なぜなら、パリ協定はアメリカに何も良いことをもたらさないからです。
協定のねらいの多くは裕福な国から貧しい国への富の移転です。
われわれはアフリカ諸国に(石油や天然ガス等の主成分である)炭化水素を駆使した産業革命を起こさせるべきです。アフリカに対して、西側の多くの国々が成し遂げたような繁栄を成し遂げる余地を与えることこそが重要なのです」

取材を終えて

エネルギー政策は今回のアメリカ大統領選挙で大きな争点の1つとなっている。

気候変動対策を優先するバイデン大統領の姿勢は、民主党支持層のうち左派や若者からは強い支持を得ているが、必ずしも選挙戦の追い風とはなっていない。

なぜなら、石油・ガス業界や、そうした業界の労働者が猛反発しているからだ。

さらに、アメリカの大統領選挙制度では、一部の激戦州(今回は7州)の結果が勝敗を左右してきた。なかでも鍵を握るとされるペンシルベニア州は、石油・ガス業界が州の経済を支えていることから、バイデン氏には分が悪い。

そこをうまく突こうとしているのが「掘って、掘って、掘りまくれ!」と訴えるトランプ氏であり、トランプ氏のそうした主張を支えているのが、サンズ氏のような、忠誠を誓う側近たちなのだ。

今回の選挙では「エネルギー・環境分野」ほど、どちらの候補者が勝つかで政策が大きく変わる分野はないとされ、日本を含め世界中の目が注がれている。
(2024年5月11日 サタデーウォッチ9で放送)
ワシントン支局長
高木 優
1995年入局 国際部 マニラ支局 中国総局(北京)などを経て
2021年3月から2度目のワシントン駐在