ロシアと北朝鮮の新条約 第三国から攻撃は相互支援 懸念強まる

24年ぶりに北朝鮮を訪問したロシアのプーチン大統領はキム・ジョンウン(金正恩)総書記と首脳会談を行い、第三国から攻撃があった場合には、相互に支援を行うなどとした新たな条約に署名しました。
両国は軍事的な協力関係を一段と高めた形で、日本を含む各国で安全保障上の懸念がさらに強まるものとみられます。

北朝鮮を公式訪問したロシアのプーチン大統領は、19日、キム・ジョンウン総書記と首脳会談を行い、その後、両首脳は包括的戦略パートナーシップ条約に署名しました。

プーチン大統領は、共同記者発表で、条約には第三国からの攻撃があった場合、相互に支援を行うことが盛り込まれていると明らかにしました。

そのうえで「アメリカなどNATOは高精度の長距離兵器やF16戦闘機などロシア領を攻撃するための兵器を供与するとし、すでにそれは起きている。北朝鮮との軍事技術協力の発展は排除しない」と述べました。

ロシアとしては、ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、条約によって、砲弾やミサイルなどの供与が指摘される北朝鮮との軍事協力を正当化し拡大させたい思惑とみられます。

これに対し、キム総書記は「両国は、同盟関係という新たな高いレベルに達した」と述べ、軍事協力も含めた関係強化を強調しました。

北朝鮮としては、後ろ盾であるロシアの役割拡大を誇示し、安全保障協力を進める日米韓3か国をけん制したいねらいがあるとみられます。

一方、アメリカ国務省の報道担当者は19日、両首脳が新たな条約に署名したことなどについて、NHKの取材に対し、「両国の協力関係が深まることは朝鮮半島の平和と安定の維持やウクライナ支援に関心を持つすべての人々にとって大いに懸念すべきことだ」と述べました。

ロシアと北朝鮮は軍事的な協力関係を一段と高めた形で、日本を含む各国で安全保障上の懸念がさらに強まるものとみられます。

新条約「包括的戦略パートナーシップ条約」の詳細

北朝鮮が20日公開した、包括的戦略パートナーシップ条約は23条から構成され、軍事のほかにも経済や科学技術など幅広い分野の協力が明記されています。

まず、条約の目的について「覇権主義的なもくろみと世界秩序の一極化を強要しようとするたくらみから国際的正義を守る」としてアメリカなどへの対抗姿勢が反映されていて、国際的な問題への対応をめぐり「最高位級の会談などを通じ協力を強化する」としています。

第5条でも「政治や経済などの制度を自由に選択し、発展させる権利を侵害する行動に参加しない義務を有す」としていて、欧米からの制裁などに連携して対応する姿勢も強調されています。

一方、経済分野では貿易や投資、観光などでの協力拡大も盛り込まれ、両国の「自由経済地帯」での経済活動を支援するとしています。また、科学技術では宇宙やAI=人工知能などのほか、「平和的原子力」に関する協力を進め、共同研究も積極的に奨励するとしました。

このほか、「国際情報安全分野」では国家の尊厳とイメージを傷つけるため情報通信技術を悪用することに反対すると明記しました。

北朝鮮とロシアの間では2000年に調印し、軍事支援についての条項がない「友好善隣協力条約」がありますが、新たな条約はこれに代わるものだとしていて効力については「無期限」としています。

米国務省「大いに懸念すべきことだ」

ロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記が首脳会談を行い、新たな条約に署名し軍事面などでの関係強化を確認したことについて、アメリカ国務省の報道担当者は19日、NHKの取材に対し「ロシアと北朝鮮の協力関係が深まることは、朝鮮半島の平和と安定の維持やウクライナ支援に関心を持つすべての人々にとって大いに懸念すべきことだ」と述べました。

アメリカは、北朝鮮がロシアに大量の弾薬を送り、ロシアによるウクライナ侵攻の継続を支援しているとして懸念を強めるとともに、ロシアが北朝鮮に対し、軍事面で何らかの見返りを与え、地域を不安定化させるのではないかとして強く警戒しています。

日本政府 米韓などと情報共有し対応

会談について林官房長官は「ロシアと北朝鮮の間の軍事的な 協力の強化などを含め、わが国を取り巻く地域の安全保障環境は、いっそう厳しさを増しており、動向を注視している」と述べました。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、両国は急速に軍事協力を推し進め、北朝鮮がロシアに砲弾やミサイルを供与する見返りとして北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げにロシアの技術が使われているという指摘が出ていて、日本政府は、今回の会談で両国の軍事協力が進展することに警戒を強めています。

政府は、会談の内容を詳しく分析するとともに、アメリカや韓国などと、両国の軍事的な動向について情報を共有するなど緊密に連携し、対応していくことにしています。

中国外務省報道官 直接の評価避ける

北朝鮮とロシアが、包括的戦略パートナーシップ条約に署名したことについて、中国外務省の林剣報道官は20日の記者会見で北朝鮮の後ろ盾とされる中国政府の見解を問う記者からの質問に答えました。

この中で、林剣報道官は「北朝鮮とロシアの2国間協力のことであり、コメントは差し控えたい」と述べ、直接の評価を避けました。

その上で、「朝鮮半島の平和と安定を維持し、政治的解決に向けたプロセスを促進することはすべての当事者の共通の利益だと一貫して考えている」と述べ、朝鮮半島情勢の安定のためには、対話が必要だという中国の従来の立場を繰り返しました。

平岩俊司氏「北朝鮮『同盟』強調は日米韓への対抗軸」

北朝鮮のキム・ジョンウン総書記とロシアのプーチン大統領が包括的戦略パートナーシップ条約に署名したことについて、北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は「キム総書記は記者会見で盛んに『同盟』を強調していた。北朝鮮は中国と同盟関係にあり、ロシアとの『同盟』も強調することで、日米韓3か国に対抗する軸ができるという思いなのだろう」と北朝鮮の立場を分析しました。

一方で「プーチン大統領は『同盟』という言葉を使わずにより包括的な関係強化を強調していた。ロシアの北朝鮮に対する軍事支援のあり方は、いまの欧米がウクライナに対して行っている武器供与などをイメージしているんだろうと思う」と指摘しました。

また、条約が日本に及ぼす影響について平岩教授は「ロシアと北朝鮮の協力関係がグレードアップしたことは、日本の安全保障上の脅威に直結する問題と考えるべきだ。北朝鮮に対するロシアの軍事協力が本格的に進むのであれば、北朝鮮の『国防5か年計画』の多くの部分が達成されてしまう。日本は米韓両国との協力関係を強化して抑止力を高めるとともに、中国への働きかけが必要になってくる」という見方を示しました。

兵頭慎治氏「踏み込んだ内容で驚いた」

ロシアと北朝鮮の両首脳が署名した包括的戦略パートナーシップ条約について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は「踏み込んだ内容で驚いた」と述べました。

特に、条約で一方が戦争状態に陥った場合「遅滞なく、保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と明記されていることに触れ「事実上、旧ソビエト時代に北朝鮮と結んでいた軍事的な『自動介入条項』が復活した」とし、軍事的な協力関係が強化されると指摘しました。

兵頭氏はロシア側のねらいについて「ロシアが今一番警戒しているのは、欧米製の兵器を用いてウクライナ軍によるロシア領内への攻撃が激化していることだ。軍事的に北朝鮮とロシアが接近する動きはアメリカなど欧米諸国のウクライナへの軍事支援を強くけん制するねらいがあるのではないか」との見方を示しました。

そして「ウクライナ戦争を続けていくうえで軍事面でも北朝鮮に依存せざるをえない状況の結果、北朝鮮が望むような形でこの軍事的な関係の強化に応じざるをえなかった。ロシア側が追い込まれているとも見える」と述べ、ウクライナ侵攻が長期化するなかロシアは北朝鮮の軍事的な支援が必要になっていることが背景にあると分析しています。

ただ、兵頭氏は「お互いの国がどの程度の軍事的な支援を行うかは、まだ不透明で、未知数なところはある」としています。

そして今後について「北朝鮮側が強く求めてくるであろう軍事技術協力などにロシア側がどこまで応じることになるのかが大きな焦点だ」と指摘しています。