改正地方自治法成立 感染症の大流行など発生時 国が指示可能に

感染症の大流行や大規模災害などが発生した場合に国が自治体に必要な指示ができる特例を盛り込んだ、改正地方自治法が、19日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

改正地方自治法は、2020年にクルーズ船で新型コロナの集団感染が発生した際、国の権限が明確でなかったことから、自治体をまたぐ患者の移送の調整に時間がかかったことなどを踏まえたものです。

改正法には、感染症の大流行や大規模災害など国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合、個別の法律に規定がなくても国が自治体に必要な指示ができるとした特例が盛り込まれています。

指示を行う際はあらかじめ国が自治体に意見の提出を求める努力をしなければならないとしています。

衆議院の審議では、国の指示が適切だったか検証する必要があるとして、国会への事後報告を義務づける規定を設ける修正が行われました。

19日は参議院本会議で採決が行われ、これに先立つ討論で、立憲民主党の小沢雅仁氏が「国の指示権の特例は、国と自治体との関係を対等・協力に改めた地方分権改革の成果を無にし、憲法が保障する地方自治の本旨に反するものだ。発動の要件が極めてあいまいで、自治体への国の不当な介入の誘発や、将来拡大解釈されるおそれもある」と述べました。

一方、日本維新の会の高木かおり氏は「コロナ禍のように現行の法律に定めがない状況では、権限が明示されず、国も自治体も手探りで動かなければならないことが想定される。平時と有事を切り替える統治システムが必要で、法改正は国と地方の権限の明確化につながる意義のあるものだ」と述べました。

採決の結果、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。立憲民主党と共産党などは反対しました。

国会での審議の経緯

衆参両院での質疑では、指示が可能になる具体的な状況や、国会の関与のあり方などをめぐって、激しい論戦が交わされました。

国が指示できる具体的な状況について、野党側は「どのような事態になれば国が指示を行うのかが明確でない」と指摘し、政府に繰り返し説明を求めました。

松本総務大臣は、具体的な想定はしていないとしたうえで「法改正は、今後想定できない事態が生じる場合に備えるものだ」と述べるにとどめました。

一方、国の指示に関する国会の関与について、政府側は、法律の改正を答申した総理大臣の諮問機関の「地方制度調査会」の議論では、事前の国会承認や、事後の国会報告は「機動性を欠くことになる」と指摘されていたとして、改正案を国会に提出した段階では規定していませんでした。

しかし、審議の中で「国による指示が適切かどうかを検証する必要がある」という指摘が相次いだことから、自民・公明両党と日本維新の会が、国会への事後報告を義務づける修正案を衆議院総務委員会に提出し、新たな規定が盛り込まれました。

改正地方自治法の内容は

改正地方自治法は、新型コロナの対応をめぐって、国と自治体との間で調整が難航するなどの課題が明らかになったことから、個別の法律でカバーできない事態にも迅速に対応できるよう、国と自治体の関係をあらかじめ規定することが柱となっています。

【国から自治体への「指示」】
自治体が行う事務に対し、国が自治体に具体的な指示を行う権限については、感染症法や災害対策基本法などの個別の法律で規定されています。
改正地方自治法では、個別の法律に規定がなくても、国民の安全に重大な影響をおよぼす事態が生じた場合に、国が自治体に対して必要な指示を行うことができるとする特例が盛り込まれました。
指示は閣議決定を経て行うとされています。
この特例をめぐっては、全国知事会などから国との対等な関係が損なわれるのではないかという懸念が示されたことから、国が指示を行う際はあらかじめ自治体に意見の提出を求めるという努力義務が設けられました。

【職員派遣・事務処理調整】
改正法では、自然災害に加え感染症などの対応でも、国が自治体間の職員の応援について要求や指示ができるようにすることや、市や区が行う保健所の運営などの業務について国の指示によって都道府県が必要な調整を行うことも盛り込まれています。

【情報システムの適正な利用】
自治体がサイバー攻撃や情報漏えいの防止などサイバーセキュリティを強化することも盛り込まれました。
自治体がセキュリティを確保するための方針を策定して公表し必要な措置を講じることを義務づけます。総務大臣は参考となる指針を示すとしています。

【公金の収納事務のデジタル化】
行政のデジタル化を推進するため、自治体共通のQRコードを使って地方税を納付する「eLTAX」を活用し、国民健康保険料や介護保険料などを納付できるようにすることも盛り込まれています。

【地域の多様な主体の連携、協働の推進】
人口が減少する中で地域住民の生活を支えていくため、市町村が自治会連合会や社会福祉協議会など地域で活動する団体を「指定地域共同活動団体」として指定し、必要な支援を行うことも盛り込まれました。

林官房長官「今回の改正 国が果たすべき責任を明確化」

林官房長官は午前の記者会見で「新型コロナ対応で従来の法制では想定されなかった事態が相次いだ。今回の改正は、国民の生命などを守るため、個別法で想定されていない事態が生じた場合に国と地方の間の責任の所在が不明確になるという課題を踏まえ、国が果たすべき責任を明確化するものだ」と述べました。

また国が自治体に必要な指示ができる特例について「国と地方の間でしっかりコミュニケーションをとることなどに十分留意する必要がある。施行にあたっては、法律の運用の考え方について政府内で周知・徹底を図るとともに自治体にも丁寧に説明していく」と述べました。

全国知事会長「安易に行使されることがないよう強く求める」

全国知事会の会長を務める宮城県の村井知事は「国による補充的な指示が、現場の実情を適切に踏まえた措置になるよう、また地方自治の本旨に反して、安易に行使されることがないよう強く求める。今度とも、国民の生命などの保護のため、国と地方の連携がいっそう強化されることを期待する」というコメントを出しました。