「日本版DBS」法が成立 性犯罪歴を確認へ

子どもに接する仕事に就く人に、性犯罪歴がないか確認する制度「日本版DBS」を導入するための法律が成立しました。

法律は、19日の参議院本会議で採決が行われ、全会一致で可決・成立しました。

この中では、子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを、事業者が、こども家庭庁を通じて法務省に照会できるようにするとしています。

「不同意性交罪」や児童ポルノ禁止法違反など、犯罪歴の確認対象となる罪を「特定性犯罪」として明示し、照会が可能な期間は▽禁錮刑以上の場合は刑の終了後20年、▽罰金刑は10年とするなどとしています。

また、照会の対象となる性犯罪歴には▽痴漢や盗撮などの条例違反も加え、
▽すでに雇っている人も対象者に含めるとしています。

法律をめぐっては今後、
▽「特定性犯罪」の範囲に、下着窃盗やストーカー行為なども含めること
▽対象者に、ベビーシッターや家庭教師といった個人事業主も含めること
などについて、政府に検討を求める付帯決議が、衆参両院の委員会で可決されています。

政府は、法律の公布後、2年ほどの間に制度の運用を始めることを目指し、事業者向けのガイドラインを策定し、性犯罪歴のある人が確認された場合、配置転換や解雇を含めてどう対応すべきかを示すなど、環境整備を急ぐ方針です。

導入を求めてきた団体「大きな一歩」

子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度「日本版DBS」を導入するための法律が成立したことを受けて、制度の導入を求めてきた団体などが会見し、「大きな一歩だ」との評価とともに、今後、対象範囲などについての議論を重ねることも必要だという声が上がっていました。

会見を開いたのは、日本版DBSの導入に向け「子どもと関わるすべての仕事を制度の対象にしてほしい」などと、去年、国に要望書を提出したNPO法人や専門家です。

このうち、認可保育所や病児保育などさまざまな保育事業を運営する認定NPO法人「フローレンス」の赤坂緑代表理事は、「子どもに性加害をしてそれが明るみになっている場合でも、これまで事業者どうしで情報共有する仕組みはなく、また別のところで働くことができてしまうというのが現状だった。本当に大きな一歩として歓迎している。しかし、対象範囲や照会期間など、まだ改善すべき点が多くあるので、引き続き議論してほしい」と話していました。

また、全国で学習塾を運営する、高濱正伸さんは「採用の際に、頭の良さや人柄などは把握できても、性被害を起こすかどうかは全く分からない。実際に、『この人がそんなことするのか』ということや、問題を起こした人が別の地域で教員として働き続けているということも起きていて、当事者として悩んでいたので、法律が成立したことに感謝している。学習塾ではどのような研修をすべきか、どういう指導をすべきか、これからひとつひとつ言語化していかなければいけない」と話していました。

また、日本大学の末冨芳教授は「やっと子どもを性暴力から守るスタートラインに立つことができた。事業者がどのような体制でどのような研修をするのか、ノウハウを共有したり、国としてバックアップしたり、教員や保育士の養成課程でカリキュラムを改善することも必要だ。法律の成立をきっかけに、いかにこれから子どもたちを守りきれるようにするのかが重要だ」と話していました。

福岡県 性暴力の加害者対象 相談窓口 4年前から設置

福岡県では「性暴力根絶条例」に基づき、4年前から性暴力の加害者を対象にした相談窓口を設けています。

性犯罪の逮捕歴などがある人に加え、「痴漢や盗撮がやめられない」などといった性加害に関する悩みを持つ人も相談が可能で、犯罪の有無にかかわらず相談できる窓口は全国で初めてだということです。

県によりますと、これまでの4年間で340人から電話や来所で相談があり、このうち165人が複数回、対面でのカウンセリングを行う専門プログラムを受けました。

臨床心理士の山中大士さんは、これまで100人以上にカウンセリングを行いました。

カウンセリングでは対象者の人生をグラフで表してもらい、できごとを振り返りながら自分の考え方の特徴などを整理していきます。

山中さんは「性加害の要因は1つではなく、家庭の影響や幼少期に傷ついた経験など複雑な要因が絡み合っている」と指摘しています。

例えば子どもを性暴力の対象として見てしまう人について「その人自身が社会的な立場が弱く、さらに弱いところに性暴力の対象が向かっていると感じる」と分析します。

そのうえで「加害者の中には孤独感を持つ人が多いので、孤独感を緩和することが大事になる。継続的にカウンセリングに来てくれる関係性を作るよう意識している」と話していました。

また、窓口を担当する福岡県生活安全課の奥田麻衣子係長は、「加害者を支援する目的は被害者を生まず安心な社会を作ることにある。性加害者が地域に戻るときの再発防止に取り組む機関や団体はまだ少ないのが現状なので、県の取り組みには大きな意義があると考えている」と話していました。

性犯罪者の再犯を防ぐ 海外での取り組みは

性犯罪者の再犯を防ぐために、海外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

法務省によりますと、今回の制度の参考にしたイギリスでは、NPOの協力も得て国の施策として刑務所を出所した性犯罪者を地域のボランティアがサポートする取り組みがあるということです。

具体的には、刑務所を出所してから1年程度、専門的な研修を受けた複数のボランティアが定期的に会って、日常の困りごとを聞くなどして出所後の生活を支援するというものです。

また、ボランティアは保護観察官やカウンセラー、それに医療機関の関係者などの専門家に性犯罪者の更生に向けた支援のしかたなどを相談できるようになっています。

同じような取り組みは、カナダやアメリカなど欧米を中心に行われているということです。

林官房長官「政策を総動員し取り組み進める」

林官房長官は午前の記者会見で「子どもに対する性暴力は、心身に生涯にわたって回復しがたい重大な影響を与えるものであり、あってはならない。今後、事業者向けのガイドラインの策定など法律の円滑な施行に向け、関係省庁がしっかりと取り組みを進めていく」と述べました。

そのうえで「こども家庭庁が中心となって政府全体で、すべての子どもや若者が安心して過ごせる社会の実現に向け、政策を総動員し、取り組みを進めていく」と述べました。