麻生が岸田に激怒しているという。関係は壊れたのか?

麻生が岸田に激怒しているという。関係は壊れたのか?
自民党の麻生副総裁が激怒しているという。
相手は岸田総理大臣だ。

政治資金規正法の改正をめぐる考え方の違いが原因とされる。

互いを尊重し、政権の中核となってきた岸田・麻生の関係は壊れたのか。
(取材班)
【ニュースウオッチ9】NHKプラスで配信中↓↓↓(2024年6月25日まで)

会食はしたが・・

6月18日午後6時半ごろ。
東京・港区のホテルに岸田が現れた。
会食の相手は麻生だ。

3年前の政権発足以降、2人は頻繁に食事を重ねてきたが、今回の会食はひときわ注目を集めた。

いま2人の間に深い溝が生じていると言われているからだ。

自民党内では「麻生さんが総理からの誘いを断っているらしい」といった噂も流れた。
会場に入る岸田の表情は緊張しているようにも見えた。

パーティー券で大混乱

岸田と麻生、2人の関係に亀裂が入った原因は、政治資金パーティー券の扱いだ。

政治資金規正法では、パーティー券を購入した人や企業の公開基準が「20万円超」となっている。
政治とカネの問題を受けた規正法の改正論議で、自民党は「10万円超」への引き下げ、公明党は「5万円超」への引き下げを主張。

両党で折り合えないまま、自民党は5月中旬、「10万円超」を盛り込んだ法案を国会に提出した。

単独提出に踏み切った背景には「公明党も本心では『10万円超』でいいと思っているはずだ」という自民党内の楽観論もあった。

しかし公明党は態度を硬化させ、採決で反対にまわりかねない事態に発展。
自民党執行部内でも公明党の意見を受け入れるべきか否か、意見が割れ、与党内が大揺れとなった。

三者会談

自民党の法案提出から1週間あまりが経過した5月29日の夜。

岸田、麻生、自民党幹事長の茂木の3人が都内のホテルで会食した。
政権発足以降、3人で多くの政治判断を行い「三頭政治」とも呼ばれてきたこの枠組み。
もともと「5万円超」への引き下げに反対の立場だった麻生と茂木は「将来に禍根を残す」などと主張し、岸田に反対の考えを伝えた。

これに対して岸田は「法案の成立に万全を期してほしい」と話すにとどめ、最終的にどう判断するか明言を避けたという。
岸田が「5万円超」への引き下げに傾いていると事前に感じ取っていた茂木は「総理を押し戻すことができた。5万円の可能性は低いだろう」と安どした様子で周辺に語った。

ギリギリの調整

「総理も幹部も皆ピリピリしている…」(官邸関係者)
翌30日。
総理大臣官邸は朝から張り詰めた空気に満たされていた。

岸田は予定されていた官僚の政策レクチャーの日程を急きょ変更。
部屋にこもり関係者と電話で協議を重ねた。

この時、岸田は何を考えていたのかーー。

岸田は元々、「5万円超」への引き下げには否定的だった。
しかし「規正法改正案を確実に成立させることが最優先」という考えは揺るがなかった。
「問題を起こしたのは自民党であり、強気で言える立場ではない」という考えも頭にあったという。

さらに岸田が懸念していたのは、他党との交渉の行く末だった。
「この先、もっと厳しい要求をされるかもしれない。党の浮沈がかかるこの法案を一か八かという状態で進めて行くわけにはいかない」
一方、麻生をはじめ党内に強い反発があることも岸田は十分わかっていた。
“規正法改正案の会期内成立” “他党との駆け引き” “党内反対派の存在”等々…
さまざまな要素が絡み合い、きわめて難しい判断を迫られた。

岸田に近い政権幹部の1人は、岸田の胸中を次のようにおもんぱかった。
「拙速に引き下げるという判断はできない。一気に党内が不安定化する可能性がある。一方でこのまま突っ込んで、もし規正法が成立しなかったら自民党が立ちゆかなくなる」
公務をこなしながら断続的に行われた調整は夜まで続き、会食を予定していたキッコーマン名誉会長の茂木友三郎ら財界人を待たせてまで、ギリギリの調整が進められた。

決断は

一夜明けた31日。

岸田は、総理大臣官邸で公明党代表の山口那津男との党首会談に臨んだ。
この場で岸田が伝えた“決断”は、公明党の主張を受け入れた「5万円超への引き下げ」だった。

山口は「岸田総理の英断だ」と手放しで持ち上げた。
これに対し、自民党内からは「成立のめどが立った」と岸田の決断を支持する声も聞かれたが、恨みの声も一気に噴出した。
「総理は絶対にやってはならないことをしてしまった」
「とんでもない禍根を残した」
「秋の総裁選挙で岸田再選はなくなった」
批判の矛先は、「5万円超」に引き下げたことだけでなく、実務者が積み上げた議論を飛ばし岸田がトップダウンで決めた、その手法に対しても向かった。

そして意見が取り入れられなかった麻生、茂木も厳しい言葉で岸田を批判しているという話が永田町に広がった。
「まったく理解できない。あの人はもめごとが嫌いなんだろう」
岸田は「麻生さんにとっては不本意だろうし申し訳なく思う。ただ、公明党を置いて自民党だけで突っ込んでいったら、世間の反応はもっと厳しかったとも思う」と周囲に語ったという。

麻生の怒り

岸田の判断に麻生が不満を抱くことはこれまでもあった。
たとえば派閥の解散もそのひとつだ。

そうした中でも麻生は常に岸田を立て、岸田も麻生を頼ってきた。

茂木が総裁への意欲をにじませ、岸田との関係に距離が生じる中でも、岸田ー麻生関係は保たれ続けてきた。

しかし、今回の亀裂は深刻だという指摘が出ている。

麻生は「民主主義にはコストがかかり、政治の道を志す若い人が資金不足で関われないことがあってはならない」と訴えてきた。
さらに、規正法改正論議の自民党側実務者は麻生派の鈴木馨祐。
「麻生さんは、身内の顔に泥を塗られ、派のリーダーとして示しがつかないと受け止めているのではないか」(永田町関係者)
6月8日、福岡県連大会。
岸田派に所属していたある議員は、大会前に麻生に呼ばれ、こう言われたという。
「次も岸田でいいと思っていたんだけどな」
6月16日には、麻生も駆けつけた会合で、麻生派の衆議院議員、斎藤洋明が「こういう状況に至った責任は、最終的に誰かが取らなければならない」と岸田退陣を念頭に発言。

永田町の常識では、麻生の了承を得ずに勝手に発言したとは受け取られない。

ただ、麻生は周囲に「岸田という人を甘く見ない方がいい」などとも語っているといい、その本心がどこにあるのか、周囲も読み切れていない。

総裁選の行方は?

6月10日に公表されたNHKの世論調査。
岸田内閣の支持率は21%にまで落ち込んだ。

低迷する支持率に党内からは「新しい顔で衆議院選挙を戦いたい」という声も聞かれる。

ただ、いわゆる「岸田降ろし」と言われるような動きが表面化することはなく、永田町は静けさを保っている。

ある党幹部は今の政権についてこう解説する。
「『岸田じゃ戦えないけど、岸田の次の人もいない』という妙な均衡で成り立っている」(党幹部)
岸田と麻生はどう動くのか。

岸田はことあるごとに「すべてのことは規正法改正案を成立させ、国会が閉じてからだ」と話しているというが、最大の後ろ盾である麻生との関係修復は急務だ。

一方の麻生。
同じく総理大臣を経験し党内の実力者である菅が、石破茂、加藤勝信、河野太郎、小泉進次郎ら党のリーダー候補と密接な関係を持つ中、今後の出方を慎重に見極めているのではないかという指摘も出ている。

岸田と麻生の関係は、今後の政局に大きく影響する。
修復か崩壊か、党内が息を詰めて様子をうかがっている。
(敬称略)
(ニュースウオッチ9で6月18日放送)