高校野球初の快挙 都内の特別支援学校が単独チームで大会出場

「入りたいですって何回も言って。けど、断られて…」

中学時代、野球部に入部できませんでした。

背景には「障害のある子どもに硬式野球は危険ではないか」と指摘する声が。

諦めなかった彼は今、特別支援学校の野球部でキャプテンを務め、この夏、初の大会に臨みます。

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去年は他校との連合チーム ことしは…

大会に出場するのは、東京・世田谷区にある青鳥特別支援学校の野球部です。

単独チームとして出場するには9人以上の選手が必要ですが、部が創設されたばかりの2023年は部員数が足りずにほかの高校との連合チームとして出場しました。

2年目のことしは新たに6人が入部して部員数が12人となったことから13日、東京都高野連に単独チームとしての出場が認められました。

NHKが全国の都道府県の高校野球連盟に取材したところ、1982年とその次の年に沖縄県で当時のろう学校が単独チームで出場したケースがありますが、特別支援学校が単独で出場するのは今回が初めてだということです。

「硬球は危ないのではないか」

特別支援学校として初めての大会出場となる青鳥特別支援学校の野球部ですが、これまでいくつものハードルを乗り越えてきました。

部を創設した久保田浩司監督はソフトボール部の監督として17年間、障害がある子どもを指導し、3年前の2021年に青鳥特別支援学校に赴任しました。

久保田さんはもともと野球部の監督として甲子園に出るのが夢だったこともあり、着任後さっそく硬式野球を教え始めますが、学校の関係者から「硬球は危ないのではないか」と指摘する声が上がり、活動が一時できなくなりました。

そこで久保田さんは、学校と何度も掛け合い

●選手どうしの距離を十分取ってキャッチボールをすることや
●振ったバットを放り投げないように指導を徹底すること

安全対策を具体的にまとめることで活動が認められました。

2021年、東京都高野連に加盟を相談した際にも安全面のほか、長期間活動を継続できるかといった課題を指摘され、連盟の理事長などによる練習の様子の見学などを経て加盟が認められたのは、赴任から2年がたった去年5月でした。

去年は部員が9人に満たなかったため、大会には、他の高校と連合チームを組んで出場し、激しい点の取り合いの末、19対23で敗れましたが、心配されたけがもなく、9回を戦い抜きました。

“青鳥で野球がやりたい” 新入生6人が

そして2年目のことし。

「野球がやりたくて青鳥特別支援学校を選んだ」

という生徒を含む1年生6人が入部して部員数は12人に増え、高校野球初の特別支援学校の単独チームとしての出場が決まりました。

久保田浩司監督
「障害があっても野球をやりたいという子どもがこんなにいることがあらためてわかりました。障害があるから硬球は危険ではないかとか、周りの人たちが心配してなかなか彼らに挑戦をさせない風潮があると思っています。もっと挑戦させる道を歩んでいくことが彼らの人生にプラスになると考えています」

青鳥特別支援学校の野球部は、1年生6人、2年生4人、3年生2人のあわせて12人で、全員、軽度の知的障害があります。

チームを支えるのは3年生の2人です。

投打でチームを引っ張る 首藤選手

1人はピッチャーの首藤理仁選手です。

高校から野球を始めると、持ち前の運動神経でぐんぐん上達し、去年は外野手でしたが、ことしはコントロールの良さを見込まれピッチャーに抜てきされました。

障害の影響で、言葉がスムーズに出てきにくいことがありますが、投打でチームを引っ張る役割が期待されています。

力強く投げる投球が得意で、練習では、低めにボールを集めようと、コーチに向かって何度も投げ込んでいました。

首藤理仁選手
「1年生と野球をするのが楽しいです。全力でベンチで声を出して応援するチームにしたいです」

キャプテン白子選手「高校から念願の硬式野球に」

手足の筋肉が徐々に萎縮する難病があり、体を思うように動かせませんが、幼いころから野球が大好きでした。

中学生のころ、野球部への入部を希望しましたが、学校から「危険だ」などと指摘されて入部がかなわなかったということで、高校生になってから念願の硬式野球に取り組んでいます。

“知識の深さ”でチームを牽引

白子選手の特長は野球の知識の深さです。

YouTubeなどでプロ野球選手のバッティングや守備を見たり、プレーの解説動画を見たりして知識を深めていて、練習中にチームメートに投げ方や打ち方のコツを教えるなどチームを引っ張っています。

課題のキャッチングやバッティングも上達していて、大会で外野手として試合に出場するのが目標です。

白子悠樹選手
「チームのみんなには、雰囲気良く野球を楽しんでほしいという思いがあります。キャプテンとして周りと接しているときはとても楽しいですし、自分のやりたいことを受け入れてくれて、のびのび野球ができていることがうれしいです」

久保田浩司監督
「全てのプレーに手を抜かず、全力で野球に取り組む姿を見せたいです。部員の中には障害があって危険だからと硬式野球をやらせてもらえなかった経験がある子もいます。高校野球に出たいと願う全国の特別支援学校の子どもや教員の励みになればうれしい」