【詳細】米FRB 政策金利「据え置き」利下げ 年内1回の想定に

円相場に影響を及ぼすアメリカのFRB=連邦準備制度理事会の金融政策を決める会合が開かれ、12日、7会合連続で政策金利を据え置くことを決定しました。

また、会合の参加者による政策金利の見通しが示され、年内の利下げ想定がこれまでの3回から1回に減りました。

FRBは12日までの2日間、金融政策を決める会合を開き、政策金利を現在の5.25%から5.5%の幅と、およそ23年ぶりの高い水準のまま据え置くことを決定しました。

FRBとしては高い金利水準を維持することでインフレを抑え込むねらいです。

また、合わせて発表された会合の参加者による政策金利の見通しはことし・2024年末時点で5.1%となりました。政策金利の1回あたりの引き下げ幅を0.25%とすると、年内に1回の利下げが行われる想定です。

利下げの想定回数は前々回・去年12月と前回・ことし3月時点の3回から減りました。この日発表されたアメリカの5月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて3.3%の上昇となり、上昇率は2か月連続で前の月を下回りました。

ただ、FRBの会合の参加者はインフレ率の低下が想定通り進んでいないという厳しい認識を示した形です。

パウエル議長は会合終了後の記者会見で「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信を得られるまで、利下げすることは適切ではない」と述べ、利下げの時期を慎重に見極める考えを強調しました。

パウエル議長 会合後の記者会見 詳細

「インフレ率 2%に向かっている確信得られていない」

FRBのパウエル議長は、会合後の記者会見で「インフレはこの2年で顕著に緩和したが、FRBの物価目標である2%を依然上回っている。インフレ率が持続的に2%に向かっていると確信を得られるまで、利下げすることは適切ではない」と述べました。

そのうえで「今年はこれまでのところ、データからはそのような確信を得られていない。インフレの目標に向けた変化は緩やかで、確信を強めるためにはさらにデータを見極める必要がある」と述べ、利下げの時期が早すぎると逆効果になる可能性があると慎重な見方を示しました。

「金融を緩和的にし始めるには確信得られていない」

「きょうの(経済見通しの)リポートでは進展が見られたものの、この時期に金融を緩和的にし始めることを正当化するには確信を得られていない」

「雇用情勢注意深くみている」

「労働市場は2年前は過熱していたが、徐々によりよい需給のバランスがみられている。ただ、雇用者数は議論はあるが依然として強い。徐々に落ち着きつつあり、注意深く見ているが、それ以上のよい兆候は見られていない」

「1つのデータだけで動こうとするのは避けたい」

「きょう発表された消費者物価指数の指標は前向きなもので、今後のデータがどのようなものになるか、傾向を見極める必要がある。われわれはインフレ率が2%に持続的に低下することを確信できる指標を求めており、1つのデータだけで動こうとするのは避けたい」

政策金利の見通し 年内に “1回” の利下げに減少

【政策金利の水準】

今回の会合で、FRBは会合の参加者19人による政策金利の見通しを示しました。参加者がそれぞれ適切だと考える金利が点=ドットで示されることからドット・チャートと呼ばれ、市場ではその中央値がFRBが目指す金利水準だと受け止められています。

それによりますと、ことし・2024年末時点の金利水準の中央値は5.1%で、政策金利の1回あたりの引き下げ幅を0.25%とすると年内に1回の利下げが行われる想定です。前々回・去年12月と前回・ことし3月の3回の見通しから減りました。

また、2025年末時点の金利水準の中央値は4.1%で前回より0.2ポイント引き上げられた一方、2026年末時点での金利水準は前回と同じ3.1%でした。

【個人消費支出の物価指数】

FRBは、インフレの実態を見極める指標として重視しているPCE=個人消費支出の物価指数の上昇率の見通しも示しました。

それによりますと、ことし10月から12月のPCEの物価指数の上昇率は去年の同じ時期と比べて2.6%で前回から0.2ポイント引き上げられました。

価格変動の大きいエネルギーと食品を除いた指数は2.8%と、前回から0.2ポイント引き上げられましたが、2026年に2.0%とFRBの物価目標に到達するという予測は前回から変わりませんでした。

【GDP・失業率】

ことし10月から12月のアメリカのGDP=国内総生産の予測は、去年の同じ時期と比べた実質の伸び率で、前回の見通しと同じ2.1%でした。またことし10月から12月の平均の失業率については前回と同じ4.0%でしたが、来年10月から12月は4.2%で前回から0.1ポイント上昇しました。

「ナスダック」と「S&P500」史上最高値を更新

12日のニューヨーク株式市場ではハイテク関連銘柄が多いナスダックの株価指数は上昇し、史上最高値を更新しました。

一方、FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長が利下げに慎重だとの受け止めからダウ平均株価は小幅な値下がりとなりました。

この日、発表されたアメリカの5月の消費者物価指数の伸びが市場の予想を下回り、長期金利が低下したことをきっかけにハイテク関連銘柄に買い注文が増えました。

ナスダックの株価指数の終値は前日に比べて1.5%上昇して1万7608.44と史上最高値を更新しました。

また、主要な500社の株価で算出する「S&P500」の株価指数も上昇し、終値で初めて5400を超えて史上最高値を更新しました。

一方、FRBのパウエル議長の記者会見での発言が利下げに慎重だとの受け止めからダウ平均株価の終値は前日に比べて35ドル21セント安い、3万8712ドル21セントでした。

円相場一時 1ドル=156円台後半まで値下がり

12日のニューヨーク外国為替市場では、FRB=連邦準備制度理事会が示した政策金利の見通しやパウエル議長の発言を受けて円安が進み、見通しの発表前に1ドル=155円台後半だった円相場は一時、1ドル=156円台後半まで値下がりしました。

12日のニューヨーク外国為替市場では、FRBの会合のあとに示された政策金利の見通しが年内に1回の利下げが行われるとの想定で、ことし3月時点の見通しから減ったことから、FRBが利下げを早い時期に始めるとの見方が後退しました。

また、この日、発表されたアメリカの先月の消費者物価指数の伸びが市場予想を下回ったことについてパウエル議長が記者会見で「進展が見られたものの、この時期に金融を緩和的にし始めることを正当化するには確信を得られていない」などと述べたことが利下げに慎重だと受け止められ、日米の金利差が意識されて円を売ってドルを買う動きが強まりました。

このため、政策金利の見通しの発表前に1ドル=155円台後半だった円相場は一時、1ドル=156円台後半まで値下がりしました。

FRBの金融政策 これまでの経緯

FRBが利上げを開始したのはおととし3月。

それまでのゼロ金利政策を解除して金融引き締めへと転換します。

金融引き締めによって景気を冷やすことでインフレを抑えこむ狙いでした。

しかし、その後もインフレに収束の兆しは見えず、おととし6月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べ9.1%の上昇と、およそ40年ぶりの記録的な水準となりました。

このためFRBはおととし6月から11月の会合まで4回連続で0.75%という異例の大幅利上げに踏み切りました。

こうした中、急速な利上げの影響を受けて去年3月から5月にかけては3つの銀行が経営破綻しました。

それでもFRBはインフレ抑制を優先にする姿勢を示し、去年3月と5月にそれぞれ0.25%の利上げを決定しました。

続く6月の会合ではそれまでの金融政策の影響を評価するためなどとしておととし3月以降、初めて利上げを見送りましたが去年7月の会合では、インフレの要因である人手不足が続いていることなどから0.25%の利上げを決定。

これで政策金利は5.25%から5.5%の幅と、2001年以来、22年ぶりの高い水準となりました。

FRBの利上げはこれでおととし3月以降、あわせて11回に及びました。

去年9月以降の会合では物価の上昇が落ち着き、インフレの要因となっていた人手不足に改善の兆しが見られたことなどから6会合連続で利上げを見送りFRBがいつ利下げに踏み切るかが焦点となっていました。

ただことし1月から3月にかけてインフレの根強さや経済の堅調さを裏付ける経済指標が相次ぎ、市場ではFRBの利下げが当初、市場が見込んでいた時期より大幅に遅れるという見方が広がりました。

4月以降は景気の減速を示すデータも多く発表されたもののサービス業など非製造業の景況感を示す指数や先週発表された5月の雇用統計が農業分野以外の就業者が市場の予想を上回りました。

労働需要が底堅いことが示され、インフレの収束が明確には見通せないなか、市場では再び利下げを始める時期が遅れるとの見方が出ていました。