潜入取材 子どもを性的に搾取する“SNSコミュニティー”の闇

潜入取材 子どもを性的に搾取する“SNSコミュニティー”の闇
「こんな恥ずかしいもの見られて大丈夫?っていう征服感みたいな」

この4か月で200回盗撮を繰り返しているという男性が語ったことばです。

男性は、SNSでつながった仲間を集めて「オフ会」を開催。盗撮の喜びを「征服感」と表現していました。

被害があとをたたない、子どもへの性的搾取。その実態を調べると、加害者たちが密接につながる“SNSコミュニティー”の存在が浮かび上がってきました。

私たちはこのコミュニティーに潜入取材。直接的な性加害だけでなく、本人も気付かないまま行われる盗撮など、さまざまな形で子どもが性的に搾取されている実態が明らかになりました。

なぜこうした状況が野放しになっているのか、どうすれば子どもたちを守ることができるのでしょうか。
(NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班)
※この記事では、未成年者への性的搾取の実態を伝えるため、加害の詳細について触れています。フラッシュバックなど症状のある方は十分にご留意ください。

潜入取材で見えてきたのは……

盗撮、児童ポルノ……。

インターネット全盛のいま、子どもを性的に搾取する動画や画像は、SNS上にあふれ、被害は後を絶ちません。

私たちは、ネット上の被害を見つけて警察などに通報する活動をしているボランティアグループ「ひいらぎネット」と連携し、盗撮画像や児童ポルノをやりとりするSNSのコミュニティーを探る“潜入取材”を試みました。
グループの代表の永守すみれさん。5人の母親らとともに、違法性の高い性的画像や動画を見つけ出し、プロバイダーへの削除依頼や警察などへの通報を3年前から行っています。

活動を始めたきっかけは、女子生徒が盗撮された動画を偶然目にしたこと。

幼い2人の子どもを育てる親として、子どもたちを性的に搾取し続ける社会に強い危機感を抱いています。
永守すみれさん
「今まで見えていた世界が変わって見えたというか。いつどこで誰が被害にあってもおかしくない。被害を受けているって分かっているのに、今私は何もできない、電話することしかできないっていうのが本当につらい」
今回の“潜入取材”でまず取りかかったのはアカウントの作成です。

私たち取材班は、複数のSNSに「子どもが好き」などとする架空のプロフィールのアカウントを作りました。弁護士のアドバイスを受けながら、違法な動画や画像を求めない、送らないなど、犯罪を誘発しないための厳格なルールを設定し取材にあたりました。

調べていくと、SNS上には子どもが好きなことをみずから表明するアカウントや書き込みが、無数に存在することがわかりました。
やりとりは、性的な意味を持つ隠語を使って行われていました。

たとえば「鳥」。永守さんによると、これは盗撮を意味します。

SNSには「鳥師」、つまり盗撮をしている人という意味の名前のアカウントが多数存在。
また、自分で撮った画像や動画などを意味する「オリ」。女子小中学生を意味する「JS・JC」など、さまざまなものが見られました。

盗撮……細かな分類

そして、より秘匿性が高い、別のSNSのコミュニティーに誘導する投稿が多く見られました。

その誘導先では、違法性の高い性的な動画や画像が大量に投稿されていました。

盗撮の画像などは、小学生、中学生などに分けられたり、撮影の場所ごとに分類されたりしているものもありました。

場所は学校やショッピングモール、ゲームセンター、更衣室、風呂、トイレなどさまざまで、同級生や家族など身近な人が撮影したとみられるものも少なくありませんでした。

去年7月に施行された「撮影罪」では、以下の行為などが法律で禁止されました。
▼ひそかに、性的な部位や身につけている下着、性交等がされている姿を撮影すること
▼同意しない意思を形成、表明することが困難な状態にさせ、相手がそのような状態にあることに乗じて「性的姿態等」を撮影すること
▼特定の者以外はその画像を見ないと誤信させて「性的姿態等」を撮影すること

児童ポルノも……

さらに、子どもに性交や自慰を強いている動画や画像、いわゆる「児童ポルノ」も数多くやりとりされていました。

小学生くらいに見える子どものものも多く、女児だけでなく男児のものも複数やりとりされていました。
児童ポルノ禁止法では、18歳未満の性交や性交に類似する行為、性器等を触る行為、性器などが露出・強調され性欲を刺激するものが写った画像や動画が児童ポルノと定義され、性的な目的で所持、提供、製造、公然陳列することなどが禁止されている。

盗撮はどこで?デジタル調査

潜入取材を始めてまもなく、永守さんから特に悪質なコミュニティーを見つけたと連絡が入りました。

「kingkazoo(キングカズー)」と名乗る人物が主催していて、大量の盗撮画像を頻繁に投稿し、1500人近い仲間を集めていました。

詳しく調べると、その主催者は、20人以上の女子高校生の登下校の様子を何日にもわたって撮影し、その後、何人かをストーキングしてスカートの下から下着を盗撮したとして、その画像や動画を投稿していました。

卒業アルバムやSNSの日常の写真など、個人を特定できる画像もあわせて投稿されていました。
コミュニティーの参加者たちからは、称賛することばやさらなる投稿を求める声が相次いでいました。
永守さん
「盗撮動画とあわせて個人情報が売られたりすると、下手すると脅されたりとか、知り合いの中で拡散されてしまうみたいなことが起きて、被害者が何重にも傷つくようなことになってしまう。広がっていってしまうんではないか、というところがすごく怖い」
被害を食い止めることはできないか。

私たちは、背景に映る建物や制服の特徴などをもとにインターネット上で手がかりを探しました。

被害者が通う学校や撮影場所は、画像に映り込んだ公共施設の看板からエリアを特定することができました。

画像の多くがコンビニエンスストアで撮影されていることから、さらに特定を進めていきました。
特徴的な手すりが設けられた店舗で撮影された画像が複数あることに気付き、それを手がかりに数十店舗調べたところ、店が特定できました。

その後も調査を進めると、ある駅を中心に被害は複数の学校に及び、コンビニに加え、駅や通学路でも撮影されていることがわかりました。

ネットの海に消えた

永守さんは、被害者が被害届を出せるよう学校と警察に通報。一方、私たちはいち早くニュース番組でこの実態を伝えました。
すると、放送からわずか1時間後。コミュニティーが突如閉鎖されたのです。

キングカズーを名乗る主催者は「新しいグループを作る」と言い残し、ネットの海に消えていきました。

「オフ会」に潜入

こうした“SNSコミュニティー”は、10人ほどの規模のものから、4000人以上が参加するものまでありました。

いったいどんな人たちなのか?SNS上でつながる人たちが、実際に顔を合わせる「オフ会」への参加を呼びかける投稿を見つけました。

私たちは、弁護士と相談。実態を明らかにするため、身分を明かさないで取材を行うことにしました。

SNSを通じて「オフ会」の主催者にコンタクト。会に興味があることを伝えると、参加を認められました。

盗撮歴や手口を共有

東京都内で開かれたオフ会の当日。

待ち合わせ場所に現れたのは、3人の男性。一見すると、どこにでもいる大人たちでした。
近くのレンタルスペースに入ると、自己紹介が始まりました。「仲間」しかいないという環境に安心したのか、それぞれが、これまでの盗撮歴を披露し始めます。

取材班は聞き役に徹することで実態を引き出すことにしました。
20代のフリーター
「初めて自分で盗撮したのは高校生のときです」
30代の会社員
「僕は昔ちょろっとやったかなぐらいで、いまは職場で少しだけ楽しんでいます」
会の主催者を含む2人は30代の会社員、もう1人は20代のフリーターだと名乗りました。

3人ともこれまで学校や職場、町なかで盗撮を行ってきたといいます。
会では、持ち寄ったお気に入りの盗撮動画を見せ合っていたほか、主催者は、ホワイトボードを使って具体的な手口のレクチャーをしていました。

盗撮が犯罪行為であることを全く意識していないように見えました。

驚きだったのは、主催者が、この4か月で200回も盗撮を行っていると明かしたことでした。現在は、特定の女子高校生を狙っているとも語りました。
30代の主催者
「もう卒業しちゃうんですけど、その子の名前とインスタのアカウントが分かって……」
SNSを使って、その女子高校生の名前や学年など個人情報を特定。さらに学校の時間割を調べ上げ、登下校時間を狙って盗撮をしてきたというのです。

性欲と「征服感」

なぜ盗撮を繰り返すのか。主催者は、それを“征服感”ということばで語りました。
30代の主催者
「ふだんパンツとか全く見えない子のほうがよくて。全然見えないんだけど、俺だけは知ってるっていう状態。こんな恥ずかしいもの見られて大丈夫?っていう征服感みたいなのがある」
30代の会社員
「自分だけ見てやった感がでかいですよね」
会が終わりに近づいた時、既婚者だという主催者は、これまでに幾度となく盗撮をやめようとしてきたが、どうしても止められないと吐露しました。
30代の主催者
「毎日朝が怖くなっちゃう。朝ピンポンが鳴るんじゃないか、警察が来るんじゃないか。宅配便がピンポンと鳴るのも怖くなっちゃう。盗撮はやめられるなら、やめたいですよ。やっぱり家庭もあるし。機材とかもう何回も捨ててるんですよ、スマホも捨ててるし。でもまた買っちゃうんです。やめたいとか思いながらも、目の前に女子高生が通りました。その瞬間にもう違うスイッチがパチンと入るんです」
言うまでも無く、盗撮は許されない犯罪行為です。

警察庁によると、去年7月に撮影罪が施行されてから、去年末までに検挙されたのは、被害者が20歳未満の事件だけで、388人に上ります。

なぜ野放しなのか

なぜ、子どもを性的に搾取する動画や画像がSNS上であふれ、野放しになっているのか。

警察庁の委託を受け、児童ポルノや薬物などネット上の違法な情報について、通報を受ける窓口機関「インターネット・ホットラインセンター」で、センター長を務めていた吉川誠司さんに話を聞きました。
同センターは市民から通報を受けると、警察に情報提供したり、プロバイダーに削除依頼を行ったります。

去年、児童ポルノについて市民から寄せられた通報はおよそ2000件。しかし、警察に情報提供できたのは2割弱にとどまっています。
児童ポルノは多くの場合、海外のサーバーを通じて共有されていますが、こうしたケースは警察への情報提供の対象外とされてきたからだと言います。
インターネット・ホットラインセンター前センター長 吉川誠司さん
「海外のサイトやサーバーだった場合には、日本人の児童ポルノだったとしても、警察庁にはいきません。それでいいのかなと思います。日本の児童であることには変わらないとしたら犯罪なわけですけれど、その情報が捜査の端緒として全くいかなくていいのかなと。考え直さないといけないのかなと思っています」

法律面の課題

法律の面からも課題があると指摘する人もいます。

撮影罪を立法する議論に国の検討会のメンバーとして関わってきた上谷さくら弁護士は、たとえば去年新たにできた撮影罪の場合、ネット上の動画や画像が盗撮されたものに見えても、被害者がどこの誰か分からなければ、同意のもとで撮影したと主張されると検挙が難しいといいます。
上谷さくら弁護士
「撮影罪は親告罪ではないので、被害届がないと起訴できないわけではないですが、もし加害者が『これは同意です』と、『同意でやってもらって販売目的です』という話が出てきたらその先に進めるかという問題が依然として残っています。1個1個特定するとなると、凶悪犯罪が山ほどあるなかで被害者に行き着くかどうかもわからないし、警察は二の足を踏むかもしれないです」
さらに、子どもの性器や性行為が写った動画や画像の所持などを禁止する児童ポルノ禁止法の場合、日本は被害者が18歳未満であることが確実でなければ児童ポルノと認められず処罰の対象になりません。

一方、イギリスやフランスなどでは、18歳未満であることが確実でなくても、児童に見える場合は、処罰の対象となりえます。

上谷さんは、日本も子どもへの性的搾取をもっと深刻にとらえるべきだと指摘します。
上谷さくら弁護士
「こういう画像が出ることによって児童へのわいせつ行為のハードルが下がるとか、いかにそれによって傷つくのか、実際に触られたりしていなくても心に負う傷がどれぐらいのものなのかをみんなが知らなくてはいけない。自分の子どもだけでなく、見たことのない子どもであっても大人として守らなければいけないのは当然だと思います。そこの子どもを守る意識が、日本は弱いのではないかと感じています」

「カビの胞子」を取り除く

ことし1月。私たちが3か月にわたって追ってきた盗撮コミュニティーをめぐって、動きがありました。

キングカズーを名乗って女子高校生を繰り返し盗撮していた40代の男。未成年者と性交し、同意なく撮影した罪で逮捕されたのです。

子どもへの性的搾取を食い止めるため、ネットパトロールや通報を続けてきた永守さん。活動を続けていると、あえて閉じられたコミュニティーを見にいく必要はないと批判を浴びることもあるといいます。

それでも、この活動を続けていきたいと考えています。
永守すみれさん
「たまに、小石をひっくり返してその後ろにいる虫を見てわざわざキャーキャー騒いでいるようなものじゃないかと言われるんですけど、私としては小石の裏の虫というよりは、カビの胞子みたいだなって思っています。最初は全然目立たないところにひっそりとあるものなんだけれども、それを放置していると、うわって全体に広がっていくじゃないですか。やっぱりどうしてもそれは食い止めたいなって思います」

子どもを守るために

専門家が指摘した「日本は子どもを守る意識が弱い」ということば。

取材から見えてきたのは、子どもを性的に見ることを許容してきた社会が、加害者たちに少なからぬ影響を与えている現実でした。

そして、法律や監視の目をかいくぐり、SNS上のコミュニティーでつながり、犯行をエスカレートさせていました。

日本では、こうしたコミュニティーを監視するネットパトロールは、永守さんたちのようなボランティアの活動に頼っているのが現状です。

一方、諸外国では、子どもの性的搾取を専門に扱う民間の機関が警察とも連携し積極的にパトロールを行うなど、子どもを守る仕組みが整えられているところもあります。

社会の意識を変えていくとともに、こうした環境を整えていくことが、子どもを守ることにつながっていくのではないでしょうか。
NHKでは、子どもへの性的搾取が社会に広がっている実態などを番組で放送しています。
NHKスペシャル「調査報道・新世紀 File 3 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇」
▼前編 6月8日(土)夜10時~ NHK総合
▼後編 6月15日(土)夜10時~NHK総合