移植見送り「体制が理由、なくさなければ」日本心臓移植学会

心臓の移植手術をめぐり、医療機関側が受け入れ体制を理由に患者への移植を見送るケースが起きていることについて日本心臓移植学会が11日、記者会見を開き、「医療機関側の体制が理由で移植が受けられないということはなくさなければならない」と述べ、今後、改善策を国に提言していく考えを示しました。

日本心臓移植学会は11日、オンラインで記者会見を開き、心臓の移植手術を行っている全国の11の医療機関を対象に行ったアンケート調査の結果、受け入れ体制を理由に移植を見送った件数が16件に上ったことを明らかにしました。

医療機関別では
▽東京大学医学部附属病院が15件
▽国立循環器病研究センターが1件で
手術ができる医師やスタッフがそろわなかったことや、同じ日に別の移植手術がありICUが空かなかったといったことが理由として挙げられていたということです。

会見した澤芳樹 代表理事は、去年行われた心臓移植115件のうち
▽国立循環器病研究センターが32件
▽東京大学医学部附属病院が25件と
この2つの医療機関がほぼ半分を占めているほか、これらの医療機関で心臓移植を希望している患者もおよそ400人と、全体の半数近くを占めていると述べ、「一部の医療機関に負担が集中していることが問題の背景にある」と指摘しました。

移植の順位はそれぞれの患者の待期期間などから日本臓器移植ネットワークが決定していて、原則、この順位にしたがって移植を受けることになっていますが、澤代表理事は「医療機関側の体制が原因で優先順位通りに移植が行えていない可能性がある」と懸念を示しました。

そのうえで「医療機関の受け入れ体制を理由に移植が受けられないということはなくさなければならない。受け入れができない場合は、近くにある別の医療機関で移植を行うといった改善策を速やかに国に提言したい」と述べました。

学会の調査では、提供された心臓は移植を見送った医療機関とは別の医療機関で、別の患者に移植が行われ、廃棄されたケースはないとみられるということです。

また、移植が見送られた16人のうち10人はその後、別の機会に移植を受けたほか、現在も移植を待つ6人の中に亡くなった人はいないということです。

日本心臓移植学会「優先順位守るためにも 制度見直しを」

日本臓器移植ネットワークによりますと、ことし5月の時点で心臓の移植を待つ人は842人いますが、去年(2023年)1年間に実施された心臓移植は115件で、平均の待期期間は5年近くに及んでいます。

移植の順位はそれぞれの患者の待機期間や重症度などをもとに日本臓器移植ネットワークが決定しますが、順番が来ても患者が移植手術を希望している医療機関が受け入れ体制を理由に手術を見送った場合、別の医療機関で移植を待っている順位の低い患者の順番となるケースがあるということです。

また、心臓の移植を希望する患者が日本臓器移植ネットワークに登録する際、手術を希望する医療機関は1つしか選べず、その医療機関が移植を見送った場合は別の医療機関で手術を受けるのは難しいのが実情です。

このほか、日本心臓移植学会によりますと心臓は、摘出してから移植までにかけられる時間が4時間と、ほかの臓器よりも大幅に短く、患者と医療機関を速やかに選定する必要があるため医療機関が受け入れ体制を整える時間がないことも多いということです。

日本心臓移植学会の澤芳樹 代表理事は「移植の優先順位を守るためにも、手術を希望する医療機関を複数選べるようにして、第1希望の医療機関での実施が難しい場合は第2希望の医療機関で移植を受けられるようにするなど、現在の制度を見直すことも必要ではないか」と話しています。

東京大学医学部附属病院「受け入れ数に限界」

日本心臓移植学会の調査で、受け入れ体制を理由に心臓移植を見送った件数が15件にのぼった東京大学医学部附属病院は、今回の調査結果について、「当院は心臓移植のみならず肺・肝臓の脳死移植も受け入れており、すべて合わせると実施件数は国内では圧倒的に多くなっています」と負担が集中している状況を説明したうえで、「臓器移植手術には手術室やICUの確保、そして多くの人員を必要とするため、通常の診療と並行して実施している現状では受け入れ数に限界があり、やむを得ず断念せざるを得ないケースが生じています」とコメントしています。