郵便料金10月値上げへ どうなるユニバーサルサービス

郵便料金10月値上げへ どうなるユニバーサルサービス
手紙とはがきの郵便料金の値上げが10月に行われる見通しとなった。はがきは63円から85円に、手紙は84円から110円に。1994年以来、実に30年ぶりの値上げとなる(消費増税を除く)。

日本郵便は郵便事業を維持するためと説明する。大幅な利用減少と物流コストの上昇を背景に、短期間に再度の値上げを行う検討も進むとみられる。

安価で全国に届くユニバーサルサービスはどうなっていくのか、郵便事業の将来を考える。

(経済部記者 谷川浩太朗)

それでも国民1人あたり年間120通

まずは、手紙とはがきの利用がどれくらい減っているのかを見てみる。
国内郵便の利用は、2001年度をピーク(262億通)に減少傾向が続き、2022年度はそのピークから45%減少した。

数でいうと144億通となる。

これを国民1人あたりで換算すると年間120通程度になる。
年賀状や季節のあいさつなどで手紙やはがきを利用するとしても、それでも120通という数字は大きく、ふだんの生活とはかけ離れた実感があるだろう。

その理由は個人にとって手紙やはがきは、“送る”よりも“受け取る”数が圧倒的に多いからだ。

「保険関係」
「税金納付書」
「株主総会資料」
「ダイレクトメール」

日本郵便のある社員は圧倒的に多い郵便物を例示した。

いずれも個人にとっては“受け取る”ものだ。

そして、これらの郵便物の減少がさらに続く可能性がある。

企業の郵便利用の減少が大きなインパクトに

《保険の控除証明書》

生命保険会社から送られてくる「控除証明書」は、確定申告や年末調整に必要な書類のため、紙の資料として郵送される。

生命保険は国民の多くが加入し、郵便事業にとっては大規模な需要となる。

しかし、2019年1月以降、電子データによる代替が認められた。

加入者がオンライン上でダウンロードし、そのまま国税局のHPで確定申告が可能となっている。

ある保険会社に取材したところ、現状は、加入者にとってサービスの低下につながるといった懸念や、顧客との接点づくりのきっかけが失われるとして、紙の郵送を続ける考えもあるという。

ただ、環境配慮などの社会的意義や政府のデジタル化の推進を背景に、縮小に向かう可能性がある。
《株主総会資料》

上場会社の株主総会の関連資料も郵送で株主に通知される。

書面での送付が法律で定められていたからだ。

国内の個人株主は、のべ7000万人にのぼる。

紙としての分量もそれなりにあり、日本郵便にとっては封書による大量の需要があった。

しかし、会社法が改正され、2023年3月以降の株主総会資料は大半がホームページでの掲載が認められるようになった。

資料を掲載したホームページのURLや総会の日時・場所を記載した「アクセス通知」と呼ばれる紙1枚の送付でも可能となった。

つまり、単価の高い封書から、はがき1枚に姿が変わることになる。

企業側はまだ様子見だ。

東京証券取引所のアンケートでは、アクセス通知のみの送付に切り替えた企業は、2023年は全体の5.4%。

2024年度の見通しもまだ7.3%にとどまっている。
10月の郵便料金の値上げを企業のコスト面から見てみる。

22円の値上げとなるはがきは、34.92%の上昇。

重さ25グラムまでの手紙は26円の値上げで30.95%となる。

かなりの上昇率となる。

かつて郵送が当たり前だったクレジットカードの利用明細書はいつのまにかWEB明細書に置き換わった。

コスト面だけでなく、紙を使うことへの環境配慮の意識も高まるなかで、企業側が郵便の利用を取りやめる動きが広がれば、大きなインパクトとなる。

企業の郵便利用で新たなアイデアも

郵便に新たな価値を見いだし、利用の拡大につなげている企業がある。

札幌市に本社を構えるマーケティング会社「フュージョン」は、優良顧客はコストをかけてダイレクトメールに。

一方、通常の顧客にはメルマガ配信で掘り起こしを提案するなど、効果的なダイレクトメールの使い方をクライアントに提案する。

たとえば、こちらは経理システムの売り込みのためのダイレクトメール。
経理担当者におなじみのテンキーはチョコレートで作られている。

決算業務終了のタイミングを見計らって送付することで、営業の糸口につなげているという。
フュージョン 佐々木卓也 社長
「みなさんも実感していると思うんですが、たくさん来るメールマガジンみたいなものは、やはり埋もれてしまう。一方で、紙のダイレクトメールは、より五感に訴えることができる。上得意と言われるようなお客様には、特別な紙を使ってコストがかかってもお便りを出して、コミュニケーションをとっていく」
さらに、利用の減少を逆手にとり、郵便の価値を高めることもできるという。
フュージョン 佐々木卓也 社長
「10代後半から20代前半の人たちは物心ついた時からスマホと一緒に暮らしてきた。匿名性の中で生活をしている。きちんとお便りを出すことが逆に若い世代の方々には珍しく新鮮に捉えられているという現象も起きている。デジタルだけでコミュニケーションをとっていた企業があえて紙のダイレクトメールを送るという事例も出てくる。紙のダイレクトメールのチャレンジになるので、われわれはビジネスチャンスとして捉えている」
“年賀状を送る人が減っている”
“SNSの普及で手紙を書かなくなった”

こうした理由が目立つことで、実は大きなインパクトを持つ企業の利用減少の実態が注目されていないのではないか。

企業の利用を促す取り組みは欠かせない。

個人の利用「ユニバーサルサービス」

一方、安価で全国に届けることができる手紙やはがきは、ユニバーサルサービスとしての役割がある。

メールやスマホがうまく使えず、企業や自治体の文書を郵便でやりとりしたい。

遠方に住む子や孫とのやりとりを直筆の手紙で行うことが生きがいになっている。
梅や柿など農産物の収穫期だけ請求書のやりとりをする農家などはデジタル化のメリットは少ないかもしれない。

全国17万5000本あるポストの4分の1が1日平均1通しか投かんされていない。

それを理由に、地方の中山間地に点在するポストを減らすことができるのだろうか。

個人の利用の減少と、企業の利用の減少を同じ物差しで捉えると、本当の実態と課題が見えなくなるかもしれない。

値上げは今回で終わらない?

そうしたなか行われる10月の値上げ。

注目するのはその根拠だ。

これは日本郵便と総務省がまとめた今後の収支見通し。
今回の値上げを行ったあと、2025年度にいったん67億円の黒字に転じるものの、2026年度には再び400億円の赤字となる見通しだ。

さらに2028年度には1232億円まで赤字が拡大すると試算されているのだ。

これでは今回の値上げだけで、すべてが解決するわけでないということになる。

試算をまとめた資料の中で総務省は次のように記載している。
「従来の考え方(改定後3年間の郵便事業の黒字維持)を見直し、経営状況に応じて短期間に再度見直すことも念頭に…」
総務省はこれまで、郵便事業の値上げ時点から3年後までの黒字を確保する前提で、郵便料金の基本となる手紙の上限額の上げ幅を決定してきた。

ところが今回は、値上げ幅を最小限にする代わりに、今後も頻繁に値上げをすることを意思表明した形と言える。

日本郵便は事業の収支の改善のために、土曜配達や平日の翌日配達の取りやめなど、これまでもさまざまな手を打ってきた。

こうした取り組みはサービス低下につながり、ユニバーサルサービスの維持のために、ぎりぎりの“妥協点”を探ってきたのだと言えよう。

そうしたなかで行われる今回の大幅な値上げは、企業を中心とする利用者離れをさらに加速させかねない“もろ刃の剣”にもなる。

利用者や需要の減少が続くなかでは、コスト削減を重ねてもいずれ限界がくるのは企業経営の常識だ。

郵便に新たな価値を見いだし、利用者を取り戻すアイデアや取り組みを急いで生み出さなければならない。

(5月22日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
谷川浩太朗
2013年入局
沖縄局、大阪局を経て現所属
総務省や情報通信業界を担当