オレンジジュースに“異変”?

オレンジジュースに“異変”?
オレンジジュースといえば、身近な飲み物の1つですが、このところ、大手飲料メーカーなどの間で販売休止や値上げが相次いでいます。

背景にあるのは、原料となるオレンジ果汁の供給不足です。なぜ影響は広がり続けているのでしょうか。取材を進めると、すぐには供給を増やせない事情も見えてきました。

オレンジジュースは食卓から遠い存在になってしまうのでしょうか。

(経済部記者 大江麻衣子・松山放送局記者 勅使河原 佳野)

あの商品もこの商品も…

飲料メーカーなどの間ではオレンジジュースの販売休止や値上げの動きが広がっています。

このうち「森永乳業」は200ミリリットルのパック入りの商品について、原料がなくなり次第、6月中にも販売を休止する見通しです。また6月1日の出荷分から税抜きの希望小売価格を120円から130円に、10円、値上げしました。

また「ヤクルト本社」も4月からパック入りのオレンジジュースの販売を休止、「雪印メグミルク」でも去年4月から、一部の商品の販売を休止しています。

このほか、ハンバーガーチェーンを運営する「モスフードサービス」は5月22日から飲料を値上げしましたが、このうちオレンジジュースは単品で40円の値上げとなり、値上げ幅は最も大きくなりました。

オレンジ“ショック”広がる

オレンジジュースをめぐっては、このほかにも動きが。

茨城県古河市に本社がある飲料メーカーでは、去年からオレンジジュースの減産を続けています。

原料となるブラジル産の果汁の供給がひっ迫し、十分な量を確保できなくなっているためです。供給不足に加え、仕入れ価格の上昇も続いていますが、状況が改善する見通しは立っていません。

こうした中、会社は原料の調達先をブラジルに限らずイスラエルにも広げました。消費者への訴求力の高いブラジル産にこだわりたかったものの、生産を続けるために決断したといいます。輸入量を徐々に増やし、6月下旬までに原料の7割から8割がイスラエル産になるということです。
トモヱ乳業 購買部 落合正行部長
「商社に声をかけてもオレンジ果汁が手に入らない状況です。ただ、オレンジジュースはジュースの中でも主力商品なので、なんとか生産を維持していきたいです」

オレンジ果汁にいったい何が?

オレンジジュースの原料となるオレンジ果汁は、そのほとんどを輸入に頼っています。

供給不足の背景にあるのが、最大の輸入先でもあるブラジルで、天候不順や病害によるオレンジの不作が続いたことです。
さらに円安の影響で、価格が大幅に上昇。日本果汁協会によると、2023年の1リットル当たりの輸入価格は前の年に比べて5割余り上昇しました。このため、日本のメーカーがこれまで通り、原料を調達することが難しくなっているのです。

かんきつ王国のあのジュースも

かんきつの一大産地、愛媛県のメーカーも対応を迫られています。松山市に本社を置くメーカーが50年以上前から生産しているジュースは、国産の温州みかんの果汁に加え、平成元年からは海外産のオレンジ果汁も使用しています。
こうした中、会社はことし4月、原料の比率の見直しに踏み切りました。
温州みかんの果汁の比率を、海外産よりも高くしたのです。商品の原材料は重い順に表示されますが、これに伴って表示も変更。「温州みかん」が先に表示されるようになりました。原料の配合が変わったことで、色も以前の商品より濃くなっています。

原料だけでなく、価格も…

会社が30年以上にわたってオレンジ果汁を使ってきた理由の1つが、平成3年にオレンジの輸入が自由化され、消費者がオレンジの爽やかな味わいを好むようになったことだといいます。

しかし会社が輸入するブラジル産のオレンジ果汁の価格は、3年ほどで3倍から4倍に高騰。消費者の好みの変化に合わせ、甘みとコクを入れた味わいにしたいと検討していたこともあって、今回の果汁の比率の変更に踏み切りました。

さらに価格の見直しも実施しました。資材などのコスト上昇もあって、この製品の価格を2割から5割ほど値上げしました。
えひめ飲料 総合戦略部 越智俊介部長
「オレンジ果汁の状況がここまで激変するとは予想できていませんでした。オレンジの不作が回復しないかぎりは、供給面も価格面も厳しく、今後こういう状況が数年は続くのではないでしょうか」

輸入がだめなら、国産は?

輸入した果汁が手に入りづらく、価格も高いなら、国産の果汁を使えば良いのでは。そう考える人も少なくないかもしれません。しかし、それも簡単ではないようです。
愛媛県宇和島市の食品加工会社は、県産のかんきつを使って年間およそ5000トンの果汁を生産しています。ここ2年ほど、国内の飲料メーカーなどから相次いでいるのが、「仕入れ量を増やせないか」といった問い合わせです。

需要に応えるために、果汁の生産量を増やしたいと考えていますが、そもそも原料のかんきつの果実をそれに見合う分、調達するのは難しいのだといいます。
愛工房 営業部 竹田雅浩部長
「国産の果汁が注目されていますし、愛媛県の果汁を売り込むチャンスでもあると思うので、売り込めるだけの余力の原料があればいいが、そこに至っていないのが現状」

国産の原料 なぜ増やせない?

なぜ、原料となるかんきつを増やすことができないのか。宇和島市の農家、二宮新治さんを訪ねました。二宮さんによると、そもそも、愛媛県のかんきつは基本的には生で食べるために作っていて、ジュース用に使える果実は多くないといいます。

ジュースの原料になるかんきつは、天候などの影響でサイズがふぞろいだったり、傷がついたりして、規格外になった果実です。
一方、みかん農家の数は減少し、収穫量も大きく減っています。国産の温州みかんの収穫量は、オレンジの輸入が自由化された平成3年に158万トン近くだったのに対し、去年は半分以下にまで減りました。二宮さんによると、こうした状況の中、生食用のみかんさえも、時期によっては足りない時がある、というのが現状だといいます。

また、ジュース用に買い取られる果実は規格外のため、価格も生食用の10分の1ほどにしかなりません。そこで農家の人たちは、付加価値を高めるため自分たち自身でジュースを作り、1本1000円以上で販売するケースも増えているそうです。

このため二宮さんは、国産のかんきつジュースが、大手飲料メーカーが販売していたオレンジジュースの代替品になることも難しいのではないかと考えています。
二宮新治さん
「業務用を中心としたオレンジジュースと、農家が作ってこだわったものを取り扱うお店や会社は、すみ分けができているところがあるので、外国産のものが入ってこないからといって、国産の高いものを取り扱うかというと、ちょっと難しいところがあるんじゃないかなと思っています」

オレンジ果汁の今後は

国内のかんきつ農家は、オレンジの輸入が自由化されて以降、値段が高くても売れる質の高いかんきつを作ろうと、品種改良などを続けてきました。

取材を通して見えてきたのは、国産のかんきつの果実と外国産オレンジとの差別化も進む中、安い輸入果汁が手に入りにくくなったとしても、国内でその代わりになるようなものをすぐに調達することは難しいという現状でした。

オレンジ果汁の「供給ショック」は、要因が天候不順や円安など、いずれも簡単に対策が打てるものではないだけにいつまで続くかはなかなか見通せません。

いま、オレンジ果汁だけでなく、コーヒー豆やカカオ豆など、さまざまな輸入品が値上がりしています。グローバル化の恩恵を受けてきた私たちの暮らしは、これからどう変わっていくのか。これからも注目していきたいと思います。

(6月7日 「午後LIVE ニュースーン」などで放送)
経済部記者
大江 麻衣子
2009年入局
水戸局、福岡局を経て現所属
松山放送局記者
勅使河原 佳野
2019年入局
「柑橘ソムリエ」の資格を持っています
推しかんきつは「媛小春」です